二人ぼっち
78
浅くなっていく家康の呼吸に、これで終わりなのだと覚悟を決めた
決して泣くまいと、必死で笑った
最後に側にある私の姿が、家康の好きだと言ってくれた笑顔であればいいと思った
「……家康」
目を閉じ、微かな呼吸と弱弱しい鼓動を繰り返し、
それでもまだ生きているのだと主張するように温かい
「…家康」
随分小さくなった体を抱き締めて名前を呼ぶ
返事などないと分かっていても、止められなかった
止めてしまえば、本当に家康が居なくなってしまいそうで恐ろしかった
「…家康」
抱き締めた体の細さに不安になる
強く抱き締めれば折れてしまいそうだ
どれ程の痛みを今まで堪えていたのだろう?
どれ程の苦しさを飲み込み笑っていたのだろう?
弱弱しい鼓動が消えていく
「……家康?」
ポツリ―零れた涙が家康の肩口を濡らす
涙を拭うことも出来ず、ポタポタと零れていく涙を見続けた
「…っ、い、えやす」
掠れる声でそれでも名前を呼んだ
震える腕で、しっかりと家康を抱き締めた
もうこれ以上離れることが無いように
「……っ、ッ」
息の詰まる感覚
ぐらりと揺れた視界
それでも、家康を離さないように手に力を込める
「…なんだ、結局、……ッ、連れて逝くのか?」
感じるのは温かな水の気配
ずっと昔に居た場所の気配
秀吉様を、半兵衛様を、刑部を見送った場所
今度はその向こうへ行けるのだろうか?
家康と共に、光の方へと行けるのだろうか?
苦しさを感じながら、安堵していた
この先を一人で生きるなど、出来る気がしなかった
家康の居ない場所で生きるなど想像も出来なかった
「…家康」
家康の肩口に頭を預け、目を閉じる
家康の匂いに安心した
「…ずっと、側に」
最後の息で、それだけを呟く
もう息を吸うことも、吐くこともかなわない
手のひらに感じる家康の感触だけを握り締めた
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