二人ぼっち 77











庭に咲く薄紫の花弁をぼんやりと眺める
今年は何の手入れもしていないのに、
いままでのどれよりも見事に咲き誇ったものだと思った

「綺麗、だな」

「ああ、そうだな」

結局花見には行けなかった

どんどん悪くなっていく体調に、起きていることすら辛くなった
あまりの苦しさにもう死んでしまいたいと何度思ったか知れない

その度に、不安そうな瞳の三成に介抱されながら悔しくなるのだ

たくさんの苦痛を、苦しみを与えたワシを、
殺したいほど憎みながら愛してくれた

そんな三成を、ワシは置いて行くのか?
側に居てくれと言いながら、臆病風に吹かれただけではないのか?

何度も自問自答を繰り返し、
連れて逝ってしまいたいと苦しく願った

それでも、幸せに笑う三成を思い浮かべれば、
連れて逝くことなど出来ないと思った

「…三成、いつもありがとうな」

たくさんの、本当に数え切れないほどの幸せを貰った
言葉では言い表せないような喜びを貰った
ワシは、それを少しだけでも返せただろうか?

「礼を言うのは私の方だ
……今まで、本当に感謝している
愛してくれてありがとう、家康」

後ろから抱き締める三成が笑う気配が伝わってくる
それにひどく安心した

「ふふ、三成が素直だと何だか気恥ずかしいな」

「貴様は減らず口ばかりだ」

鼻を鳴らし、三成の抱き締める力が強くなる
離さないとでも言いたげなその抱擁に、
嬉しさと、愛しさを感じる
確かに愛されていると、実感できる

薬のせいで朦朧とする頭で、それでも幸せを噛み締める

「なぁ三成、待っているよ」

「……ああ」

「ちゃんと待っているから…
お前は、ゆっくりでいいんだ」

「…善処する」

「はは、それでいいさ」

呂律の回らなくなった口で、ゆっくりと言葉を紡ぐ
きちんと三成に伝わってくれるように

「……愛している、三成」

「私もだ
お前を愛している、家康」

少しずつ霞んでいく視界と意識に舌打ちしたくなる
それなのに、舌打ちをする体力さえも残ってはいないのだ

「来世でも、変わらぬ愛を誓うよ」

「…永遠に変わらない心、変わらない誓い」

「……なんだ、ばれていたか」

「ずっと昔に小夜が教えてくれた」

「そうか」

三成に贈るために長年育て続けた花の意味
知られていたのは嬉しくもむず痒い

「何度生まれ変わろうと、ずっと側に居る
貴様が覚えていようといなかろうと、きっとだ」

「ああ、楽しみにしているよ
三成との人生は、きっと素晴らしいんだろうなぁ」

痛み続ける背中、不快感の拭えない腹部
息も絶え絶えなこの体

三成という心残りを除けば、ひどく穏やかな気持ちだった

「……少し、眠るよ」

「ああ、おやすみ、家康」

ゆらゆらと、水面を漂うような淡い波に意識が掬い取られていく
冷たくも温かい三成の体に全てを委ね瞳を閉じる

庭に咲く花浜匙の美しさと、三成の笑みを焼き付けた

来世で会っても、一目で見つけられるように
きっとまた、変わらずに愛せるように






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