二人ぼっち 79











「”お方様は父上のもの”
そう教え続けられて育てられたんだ」

「私も、お二人を見てすぐに察しましたよ」

「ああ、私もだ」

「邪魔をしてはいけない、と言うか…
学を付けて、太陽と月のようなものなんだと思いました」

「ははは、確かにその通りだな」

「…父上はお婆様を好いていたでしょう?」

「……好いている、なぁ
初恋、のような、憧れ、のようなものだ」

「ああ、憧れという言葉はしっくりきますね」

「…いつまでたっても褪せぬ感情だ」

「…そうですね」

「しかし、親子三代にわたって惹かれるとはなぁ」

「徳川の血かもしれませんね」

「ふっ、確かにな」

「ははっ、でしょう?」

「それで、お前は室を決めたのか?」

「ええ、側室も何人か目星をつけてあります」

「…同じ感情を持っても、子と孫ではあり方が大分変わるな」

「でも、元の部分は同じでしょう?」

「他の者を愛せないから、か?」

「ええ
父上は、誰でもいいから母上だけを愛したのでしょう?」

「自分の子に言い当てられるのは何か嫌だな」

「ずっと父上を見て育ちましたから」

「お前は、誰でもいいからたくさんを愛するのか」

「ええ」

「……あの方に一度でも近付けば、誰しもがそうなのだろうか」

「…どうでしょうね
少なくとも、お爺様、父上、私はそうですね」

「ああ、本当に徳川の血かもな」

「惜しくらむはお爺様が居たことですかね」

「それこそどうしようもないことだがな」

「お爺様が居なければ出会うことすらなかったのですからね」

「……出会わないほうが幸せだったのかもな」

「……それでも、出会えてよかったと思う心もあります」

「私もだ」

「もう随分暑くなりましたね
そろそろ木陰にでも行きませんか?」

「そうだな
…それでは、父上、母上、また来年です」

「お爺様、お婆様、また来年お会いしましょう」

二人の男が去った後には、墓前に揺れる花浜匙
薄紫のその花弁が風に揺られゆらゆらと揺れる

初夏の暑い日差しを和らげるような涼やかな風が吹きぬけた






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