二人ぼっち
74
ひきつる目元に濡れた布を押し当てる
その冷たさに身震いした
「露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪速のことは 夢のまた夢」
外を眺めたまま、家康が秀吉様の辞世の句を読み上げる
深く響く声は心地が良い
「嬉やと 再び醒めて 一眠り 浮き世の夢は 暁の空」
家康にとって、天下とは何だったのだろう
生きることすらも家康にとってはただの夢だったのだろうか?
強く残る思いも無く、何の未練も無い辞世の句
こんなに側に居たというのに、私には何も分からなかった
「先にゆき 跡に残るも 同じ事 つれて行ぬを 別とぞ思ふ」
ゆっくりと振り返り、家康がまっすぐに私を見詰める
その視線にまた涙が溢れそうになった
「……連れて行けばいい
私を生かしたのは貴様だ
ならば、私を殺すのも貴様であれ!」
きつく唇を噛み締めて家康を睨み付ける
それでも、家康は穏やかに微笑むばかりだった
「…ワシに三成は殺せない」
「何故だ!関ヶ原ではっ」
「ワシはもう老いた
力でお前に敵わない
………分かるだろう?」
「……………っ」
家康の手が優しく髪を撫でる
そのぬくもりに歯を食いしばって俯くしか出来なかった
「…愛しているんだ、三成」
今までに何度も言われた愛の言葉
今はそれが苦しくて仕方が無い
愛していると言うのなら、共に逝きたいと言って欲しかった
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