二人ぼっち
72
家康の体調が優れない
不調自体は元々感じていたようだが、
江戸から帰って来てからそれが堪えきれなくなったように見える
「家康、入るぞ」
「ああ」
布団の上で上体を起こし書をめくる家康の側に腰を下ろす
時折目を凝らしながら書に見入る姿はただの爺で笑えてしまう
「何を笑っているんだ?
いいことでもあったか?」
「いや、貴様も老けたと思ってな」
「ワシはもう孫までいる正真正銘の爺だぞ」
書を脇に置いた家康が苦笑する
言われてみればその通りだと思いながら、医師に処方された薬を差し出す
「毎食後に飲め」
「…ああ、分かった」
家康は浮かない顔で薬を受け取り、じっとそれを見詰める
その瞳に浮かぶのがどんな感情なのか私には分からない
だが、その横顔は半兵衛様や刑部を思い出させる
「……今日は冷える、起きているのなら上に羽織っておけ」
「ありがとう、三成」
差し出した羽織を肩にかけ、家康が笑う
ひどく儚い印象を与えるその笑顔から目を逸らした
「もうじき雪が降るな」
「最近急に冷え込んできたからなぁ
三成、風邪などひかないように気をつけろよ?」
「気をつけるのは貴様の方だ」
「ははは、そうだな」
他愛無い会話をしながら、家康を見詰める
食が細くなり痩せた体
血色も悪く隈の浮かぶ顔
覇気の無いその姿
「家康、まだ腹は痛むか?」
「…多少、な」
「……そうか」
「少し眠るよ
眠るまで側に居てくれるか?」
「当たり前だ
さっさと寝てしまえ」
のそりと布団に横たわる家康の手を握る
枯れた木の枝のように細い手だ
それを愛おしく思いながら両手で包み込む
「三成、愛しているよ」
「…私も、家康を愛している」
穏やかに笑う家康の額に唇を落とし、そのままゆっくりと目を閉じる
もう、残されている時間は少ないのだとそう思った
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