二人ぼっち 68











「此度はありがとうございます、父上、母上」

微笑みながら深々と頭を下げる秀忠を制し顔を上げさせる
家康は苦笑しながら酒を煽っている

「そんな堅苦しい態度は止めてくれ
ここにはワシらしかいないだろう?」

「父上は相変わらずですね
母上、盃が空いておりますよ」

「将軍に手ずから酌(しゃく)をされるとはな」

「親に手酌では飲ませられませんから」

「三成は真面目だなぁ」

秀忠のこういうところは家康にひどくよく似ている
これは徳川の血筋かとぼんやりと考えた

「秀忠、手を貸すのはこれきりだぞ?」

「ええ、心しておりますよ」

崇源院とお福も礼を言いに来たが、
子供らの側に居ろとの家康からの一声で早々に去って行った

崇源院の心底安堵した顔に、
聞こえる評価は心無い者達の吹聴に過ぎぬと確認出来てよかったと思った

「夫婦仲は悪くなさそうじゃないか」

「はは、尻に敷かれっぱなしです」

家康の言葉に苦笑しながら答える秀忠は、
その実、心底嬉しそうに崇源院を語る
そんな秀忠の話を聞きながら苦笑する家康に笑ってしまう

「ふっ、それは何よりだな」

「ええ、父上と母上のようなものですから」

「おいおい秀忠、そう言ってくれるなよ」

久々に親子三人で笑い合いながら酒を煽る
こんな風に過ごすことが楽しいとは知らなかった
家族、というものの楽しさが僅かばかり分かった気がした

「これからは、大切なものは貴様がきちんと守れ」

「はい」

「秀忠は三成には素直なのになぁ」

「日頃の行い、というやつだ」

「あははは」

渋い顔をする家康と笑う秀忠
それを見て、笑う私

この瞬間を、この上無く幸福だと思った






←/67 /69→
←三成部屋
←BL
←ばさら
←めいん
←top