二人ぼっち 66











城内に漂う空気からはどこかぴりぴりと緊張感が伝わってくる
きっと家康が来たことによる緊張感なのだろう

遠巻きにちらちらと窺う不躾な視線
気付かれてないと思っていることが癇に障る

「三成、そう警戒するなよ」

苦笑しながら小声で言う家康に視線だけを返す

顔を知らない者は私をただの従者だとしか思わないだろう
余計な問題を起こさない為に極力目立たない行動を心がける

「…万が一がないとは限らん」

声を潜め、かろうじて家康にだけ聞こえるように言葉を紡ぐ

「表立って何かされることはないさ
…いるのは、取り入ろうとしてくる者だけだ」

不機嫌そうにかすかに眉をしかめ、珍しく吐き捨てるように言う
私が思うよりも家康が苛立っていることに今更ながらに気が付いた

「まったく、くだらんな」

ひどく冷めた瞳で、家康が鼻を鳴らす
その瞳の奥で揺れる激情の炎に身震いした

「お久しぶりです、父上」

苦い顔で笑いながら挨拶をする秀忠が家康を大広間の上座に促す

ゆっくりと大股で歩いていく家康にひれ伏す家臣達
その姿の堂々たるや、まさに天下人といった貫禄だった

白髪に変わった髪も、昔より小さくなった体も、
その全てを魅力と変え、昔よりもずっと凄みは増したように感じる

座した家康の後ろに膝をつき控える

「……皆、面を上げてくれ」

家康の言葉に顔を上げる家臣達を睥睨する

家康の怒りに触れた者を私も許しはしない
家康の怒りは等しく私の怒りでもあるのだから






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