二人ぼっち 65











馬に跨りのんびりとした歩みで進んで行く
過ぎる景色は木々が赤く色付きもう秋なのだと実感する

「家康、いつになったら輿に乗るんだ」

「まだ城まで距離もあるし、もう少しいいじゃないか」

「民に示しがつかん」

不服そうな顔をする三成と馬首を並べ、広い青空を仰ぎ見る
涼しい風は暖かな日差しとあいまって心地良い

「ワシはもう現役を退いている身だろう」

「実権を握っているのは貴様だと皆承知の上だ」

「…まあ、もう少し、な?」

「……次の町に入るまでだ」

「ありがとう」

鼻を鳴らす三成をちらりと盗み見れば、
その顔は穏やかに景色を楽しんでいる
輿に乗ってしまったら三成のこんな顔は見られない
ただ、それだけのための些細なわがままだ

「ああ、いい風だ」

「…夜には冷えるだろうな」

「そうだなぁ」

たくさんの供などいらない
三成と二人、競い合うように駆けたい
それはきっととても気持ちが良いんだろう

「…家康」

「どうした?」

「帰って来たら二人で遠乗りにでも行かないか?」

「……ああ!」

楽しそうに薄っすらと微笑んだ三成に頷いてみせる
同じことを考えていたのだとしたら、嬉しいと思った

ワシばかりが時の流れに流されていく
三成は、あの日のままいつまでも変わらない
離れていく姿のままに、心まで離れてしまったらと何度も思った
それを、心底恐れた

爺と孫だと言っても信じる者が多いだろう
同じ歳だと信じる者などいないだろう

それでも、同じ心で同じ景色を見られることを、
同じ想いで同じ時を生きられることを、この上なく幸いだと思う

「なあ、三成」

「なんだ?」

「お前はいつまでも美しいな」

「……っ!」

ワシの言葉に耳まで赤く染め上げる三成に笑ってしまった






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