二人ぼっち 64











家康と二人縁側に座り庭を見下ろす
大奥の庭先から持ってきたこの花を眺め続けてもう何年経ったのだろう
何だか随分と遠いところまで来たような気がした

「お福から大体の話は聞いた」

「大体で充分だ
権力争いが無くなることなど無い
それに力の無い者が巻き込まれることも変わらんな」

言葉を吐き捨て、鼻を鳴らせば家康が苦笑する
私の言葉を何よりも分かっているのは家康自身だ

自らも幼い頃に人質になり、
長い幽閉期間を過ごしてきたのだから

「秀忠の文も、きっと目を通されているのだろうな」

「お福の言葉を信じるのならば、な」

「うぅん、ワシは信じていいと思うぞ?」

「それについては私も異存は無い」

秀忠の妻になった崇源院には何度か会ったことがある
目鼻立ちの整った、凛とした女だった
礼儀正しく、遠めに目が合っただけでも律儀に礼をしていた

「しかし、竹千代や国千代を守れんとは」

頭を掻きながら家康が長いため息を吐き出す
顔は苦虫でも噛み潰したようだった

「そう言ってやるな
政治だけで手一杯、といった所なんだろう」

「他の者の意見を聞け、とは言ったが
秀忠は周りを気にかけすぎるのかもなぁ」

「それは悪いことでは無いだろう」

「そうなんだが、な」

満月の光が降り注ぎ、庭は常よりも明るい
風にそよぐ花が擦れ合いサラサラと音がしている

「問題なのは家臣のほうだ
自らの保身の為に主の意に背くなど、もってのほかだ」

怒りを隠す気も無く眉をしかめる
秀忠やその子らを利用し己の地位を確立しようとする家臣たちに憤る

「そうだな
そこにまだ抗う力も無い者たちが巻き込まれるのは辛い…」

目を閉じ、ため息を吐く家康の顔は険しい
きっと今さまざまな考えが頭を巡っているのだろう

この水面下で蠢く家臣達の思惑を打ち破ったとしても、
もうすでに巻き込まれている竹千代や国千代は、
どちらか一方が傷を負わなければならない

「…三成も一緒に来てくれるか?」

「当たり前だ」

考えが纏まったのか、微かに笑いながら言われた言葉に即答する
その笑顔はひどく物悲しい

「可愛い息子夫婦と孫の為だ
大御所の力とやらを見せ付けてやろうじゃないか」

一つ瞬きをして開かれた瞳には強い意志が垣間見える

「ああ、東照大権現はまだまだ衰えていないと思わせてやれ」

ニヤリと笑って見せれば不敵な笑みが返された






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