二人ぼっち
63
「おお、間に合った!
ほら、竹千代!早く登らないと見逃してしまうぞ!」
「はっ、はぁ…はいっ!」
息も切れ切れに、汗だくになって山道を登る竹千代を急かす
木々の間から見える夕焼けはもうすぐに山間に落ちてしまいそうだ
「もう少しだ、頑張れ竹千代!」
「っ、はい!」
山の中腹の開けた場所まで竹千代を急き立て、
そのまま日が沈む方へと進ませる
ちょうど、赤々と燃える太陽が沈んでいく瞬間だった
「……すごい」
呆然、といった声音にほくそ笑みながら、
竹千代の後ろに立ちその小さな頭を撫でてやる
温かく湿った髪を、今はとても愛おしく思った
「ワシはここから見える夕日が好きだ」
「…私も、とても好きです」
「フフ、そうか」
わんわんと煩い蝉の声や生ぬるい風、
ここで見た景色や感じたものを失くさないで欲しい
「なあ竹千代、こんな景色を見たら何でも出来そうじゃないか?」
「はい!」
そのまま暮れていく夕日が沈みきるまでぼんやりと眺め続けた
薄暗い山道をのんびりと歩きながら握った手のひらは小さかった
柔らかく、温かく、愛おしく、守りたいと思った
「お爺様、私はこんな風に山に登ったのは初めてです!」
「そうか」
「山の中の木々の方がずっと色が濃いのですね」
「見事なものだろう
よく三成と一緒に景色を見に行ったり、薬草を取りに行ったりするんだ」
「お婆様もあの山道を歩かれるのですか?」
「ああ!
ワシなどより身軽にひょいひょい進んで行ってしまう
待ってくれない時もあるんだぞ、ひどいだろう?」
「あははは」
「どうだ、少しは世界は広がったか?」
「はい!本当に、何でも出来そうな気になりました」
「はははっ、そうか」
馬首を並べて他愛無い会話を交わしながら、明るく灯のともった屋敷を目指した
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