二人ぼっち
62
家康は不機嫌や嫌悪を隠すのが上手くなったと思う
全てを包み隠す笑顔を貼り付けることが上手くなった
「お、お爺様、あの、ぁ…」
「ん?何だ、水菓子は嫌いか?
ならこっちの饅頭を…」
「……家康、一度にこんなに食えるか」
困り顔でうろたえる竹千代の前にたくさんの菓子を並べ、
何の他意も無いようにニコニコと笑う家康は嫌味だ
先程から目の奥が冷え切っているというのに、
上辺だけの笑顔を貼り付け、さも可愛がっているという風に見せかける
いや、実際気に入ってはいるのだろう
城へ行った後などはよく竹千代の話をするし、
次に城に行く時の土産を頭を抱えて悩んだりするのだから
それでも、今目の前に居る竹千代へのこれは嫌がらせだ
明らかに困り果てた孫を相手にやることではないだろう
「ははは、そうだな、すまん竹千代!」
「ぁ、う、いえ、そんな!すみません」
狼狽する竹千代に笑いかけながら、やはりその瞳は笑ってはいない
ため息を吐けば竹千代と供に来たお福が苦笑した
「竹千代、城での暮らしはどうだ?」
何気ない風に家康が尋ねる
その言葉に竹千代は可哀相になるくらいに困った顔をする
「あ、あの、えぇと……」
俯き、言葉を捜すようにもごもごと口を動かし、
どうすればいいか分からないとでも言いたげにお福を顧みる
その視線にお福が笑いかけながら頷けば、
困り顔のまま、真っ直ぐに家康を見詰めた
「父上も母上もお優しいです」
「…だが、お前は居辛いのだろう?」
「…あの、………はい」
「……ここに居る間くらいは、城でのことは忘れてしまえ
なに、大丈夫だ
ワシに全て任せておけばいい」
「…ぁう、はぃ」
泣き出しそうな顔をした竹千代の頭を撫で、
家康がもう一度大丈夫だ、と言葉をかけてやる
困り顔の上にはにかんだような笑みを浮かべた竹千代を哀れに思った
「夕餉まではまだ時間があるな
…竹千代は馬には乗れたな?」
「…はい」
不思議そうな顔で首をかしげた竹千代に、
家康は嫌になるくらいの眩しい笑顔を向けた
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