二人ぼっち
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「よく来たな、竹千代」
「お、お久しぶりですお爺様」
侍女を後ろに従え、深々と頭を下げる竹千代の姿はどこか自信無さ気だ
「何も無いが、竹千代もお福もゆっくりしていってくれ」
「あ、ありがとうございます」
「部屋はこっちだ」
ワシの後を歩く二人を親子のようだと思った
お福は竹千代を慈しみ、竹千代はお福に信頼を寄せる
先ほど顔を合わせたばかりだというのに、とてもよく分かった
きっと、それだけの時間を共有してきたのだろう
「わぁ…」
「まぁ、お綺麗ですね」
縁側を歩いていると二人が声を上げ立ち止まる
一面に咲き誇る紫の花弁に見惚れているようだった
「あの花はワシの大切な人が好きな花なんだ」
「お方様、でございますか?」
「ああ」
確認するように訊ねるお福に頷いてやれば、
竹千代が興味津々と言った顔で見上げてくる
「お前の”お婆様”だな」
そう笑いかけてやれば小さな声ではい、と言った
秀忠から竹千代に会って欲しい、と一月前に書が届いた
何度か城で会った時にはよく笑っていたように思ったが、
弟が生まれてからはすっかり萎縮し引っ込み思案になってしまったと聞かされた
曰く、”妻である崇源院(すうげんいん)が弟の国千代ばかりを可愛がるせいだ”とのことらしい
確かに、昔は気にならない程度だったどもりが酷くなっており、
城での生活は竹千代にとっては重責になっているであろうことが分かる
幼い身で大人の思惑に翻弄されることは厳しかろうと思った
「ほら、あれが”お婆様”だ」
縁側の向こうから姿を見せた不機嫌そうな三成に、
緊張しているのかワシの陰に隠れようとする竹千代を前に押し出す
「大丈夫、あれでもお前に会えるのを楽しみにしていたんだ」
肩に手を置きそう小声でささやけば、
不安そうな顔をしながらも竹千代は自分から一歩を踏み出した
「は、初めまして、竹千代と申します」
「知っている
…よく来たな」
膝をつき、竹千代と視線を合わせながら三成が笑う
微かに口角を上げただけだが、三成を知る者から見れば上機嫌なことが分かるだろう
簡素な藤色の着物を嫌がりながらも着てくれた
一月だけでも、髪を伸ばしてくれた
竹千代はそんなことは知らないだろうが、
確かに三成は竹千代に会うことを楽しみにしていたんだ
「一日だけだが、ゆっくりしていけ」
竹千代の頭をぽんと撫で三成が立ち上がる
頬を真っ赤に染め、嬉しそうに微笑む竹千代からそっと目を逸らした
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