二人ぼっち
59
長丸の硬く強張った表情に、
自分がどれだけ長丸に恐れられているのかが分かった
自分の怠慢と臆病が、我が子を遠ざけたのだ
それでも、もう逃げるわけにはいかないのだ
「……長丸、聞いて欲しいことがある」
「…はい」
内緒話でもするように声を潜め、
額がくっつきそうなほどまで接近する
長丸は何か重大な秘密でも言われるのを待つように、
身を硬くして緊張しているのがよく分かる
「…ワシは、お前を愛している」
「………え」
「心から愛する、大切なワシの子だ」
そう、笑って抱き締めてやれば、
恐る恐るワシの背にその小さな手を回してくれる
「…私も、父上が大好きです」
「ありがとう、ワシもだ」
額を寄せ合い笑い合う
長丸のこんな笑顔を見るのは久しぶりだと思った
「…長丸、ワシはお前に全てを預けたいと思っている」
三成の言葉や、自分の目で見た長丸はとても優しい子だ
一人では凡庸としか言いようが無いが、
これからの世はそれでいいのだと思っている
その分を周りが補い合っていけばいいのだ
「いずれお前が大きくなったら、お前がこの国を統べるんだ」
ワシの言葉に息を飲み、驚いた顔の長丸に告げる
「お前はそのままでいい
今のままの、優しいお前でいて欲しい
周りを信頼し、助け合って、この国を纏めていって欲しい」
ワシの言葉に声も出せないのか、
興奮からか紅く染まった頬で何度も大きく頷いて見せる
「………だがな、三成は駄目だ」
自分でも無意識に声が下がるのが分かった
見据えた長丸は恐怖からか唇を噛み締めている
「三成は、ワシのものだ
三成だけは誰にもやることは出来ない」
それだけは注意深く目に力を込めて話す
たとえ母を慕うのと同じような感情であっても、
三成がそれを気にかけるのならばワシは許すことは出来ない
そう告げれば、長丸は困ったように眉を下げた
「…父上、私はお方様をとりません
母上から、何度もお方様は父上のものだと教えられましたから」
そう言ってお愛とよく似た笑顔を浮かべた長丸に、
一抹の申し訳なさを感じたが、頷くだけに留め言葉をかけることはしない
「父上、もうお方様と喧嘩をしないでくださいね?」
「ああ、約束だ」
小指を絡め合い、指きりをする
まだ幼い小さな手だ
お愛とワシの血を分けた愛しい子だ
そっと指を外し長丸と笑い合う
どんなに愛しい我が子だとて、三成をやることは出来ない
改めてそう実感して、心の狭い自分が嫌になった
三成は物じゃない
きちんと意思のある人間だ
自らの意思で行動し、考える人間だ
それでも、手放すことは出来そうに無いと再度思い至りため息を吐いた
どうやったって、こればかりは変えられそうにないらしい
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