二人ぼっち 58











不安そうに眉を寄せる長丸の視線を感じながら書を読み進める
どれだけ文字を追っても、横から感じる視線のせいで集中することが出来ない

「…言いたいことがあるなら言葉にしろ」

「す、すみません」

横目で一瞥すれば長丸は視線を逸らし肩を強張らせた
お前に怒っているのではないと言ったところで、
私の態度に、怒りに身を竦めているのであればそんな言葉に意味は無い
そう思いまた書に視線をやったところで声をかけられた

「…あの、昨日、その、父上と」

そこまで言って、気まずそうに俯いた長丸の言葉を待つ
もう少し自主性を身につけるべきだと強く思っていたことだ

「……お方様、喧嘩の原因は私ですか?」

泣き出す手前まで歪められた顔でじっと私を見詰めてくる
唇は震え、今にも泣き出してしまいそうだった

「…そうだ
だが、私が勝手に怒っただけだ
お前は何も悪く無いのだからそんな顔をするな」

そう言ってやっても長丸の顔が変わることは無く、
より一層悲しそうに歪んでいくばかりだった

「私は、父上もお方様も好きです…
長丸のせいでお二人に喧嘩をして欲しくありません……」

震える声でそこまで言うと、溜まった涙を拭い顔を上げた

「父上の言うことも、お方様の言うこともきちんと聞きます
大姥局の言うことも、きちんと聞いてしっかりします
…だから、もう私のことで喧嘩をしないでください」

何度も鼻をすすりながら、それでもはっきりとそう告げた
そうして深々と頭を下げて、お願いしますと消え入りそうな声で呟く

その頭を上げさせ自室に戻した

すまん、と言えば泣き笑いの笑顔を見せる長丸が悲しかった

相変わらず頭に入らない書を放り投げ、
こんなことなら昨日もう一発家康を殴っておくんだったと後悔した






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