二人ぼっち
55
「家康様、眠るならきちんと布団でお眠りなさいまし」
朝一番に顔を合わせた小夜が呆れ顔でそう言った
とんとんと自分の頬を指差す小夜につられて自分の頬に手をやれば畳の跡がついているようだった
「はは、すまん」
「……お愛様の葬儀は無事に終わったそうですよ」
「…そうか」
「お方様と長丸様には家康様からお伝えくださいね」
「ああ」
湯気をたてる茶を受け取りながら良かったと思った
無事に終わって、良かった
本当ならここで葬儀を出してやりたかった
だが、他の側室は実家に戻すくせにお愛だけは、ということは出来なかった
最後まで見送れないことがこんなにも遣る瀬無いと思わなかった
今朝目覚めた時三成はまだ眠っていた
その目尻から涙が零れたことをきっと三成は知らない
眠る長丸の元へ行けば瞼は泣き腫らしたあとがはっきりと残っていた
それでも目覚めれば笑顔で挨拶を交わした
「家康様」
困ったように笑いながら小夜が呼ぶ
その声音はワシがまだ幼かった頃、
自分の不注意で怪我をしてしまった時に大丈夫と言ってくれた声とよく似ていた
「覚えていて差し上げてくださいまし
それが、家康様に出来る唯一の優しさかと」
それだけを言うと小夜はそのまま部屋を出て行った
誰に、など口にしなくても分かりきっている
ワシがお愛の死を引きずっているから、その打開策をくれたのだろう
「…覚えている、か」
それでも、本当にそれだけでいいのだろうかと考えてしまう
そうやって回りに気を使わせることを嫌うくせに、
いつだって自分の頭だけで考えても答えは出ないのだ
ため息を一つ吐き、政務の為に筆をとった
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