二人ぼっち
54
涙の後を頬に残し寝息を立てる家康を見詰める
どれ程の間眠れていなかったのか、目元には深い隈が刻まれている
今更になって、お愛の存在がどれだけ大きかったのかを自覚する
私に、家康に、どれだけ心を砕いてくれていただろう
誰もが言えないことを私に告げる
家康を大切にしろと笑う
家康の側にそっと寄り添っていた姿はいつだって悲しかった
愛されていないと言いながら、愛されたいと笑いながら、
いつだって私と家康の幸せを願い続けてくれた
笑顔の裏で何を思っていたか知らない
家康を見送る時に何を考えていたか知らない
惨めな思いをしただろうか
私を憎むこともあったろうに
その全てを飲み込み、寂しそうに笑うばかりだった
いつだって家康を想っていた
自分が愛されることではなく、家康の幸せの為に
戯れに何度か髪を触られた
その度にお美しい御髪ですねと笑っていた
何度か触ったお愛の髪は柔らかかった
貴様の髪の方が美しいだろうと言えばまた可笑しそうに笑っていた
誰に弱音を吐くことも無く、侍女や女中にさえ慕われていた
嫌味を言うのはせいぜい私に対してで、
他の女たちの話などされたこともない
人の心を汲むのが上手かった
いつだって他人を優先していた
知っていることも知らないことも、たくさんある
ただ、それらはもう失われてしまったのだ
「……結局、花見には行けなかったな」
それを一番楽しみにしていた女ももう居ないのだ
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