二人ぼっち 53











盃いっぱいに注がれた酒を一息で飲み干した
三成も同じように盃を空けるのをぼんやりと眺めた

「…長丸は」

「自室で眠っている」

三成の白い指が盃を置く
その指と、最後に握ったお愛の手が重なった
細く、力無くだらりと垂れた指が恐ろしかった

「……正直、長丸に何と声をかければいいか分からないんだ」

ため息を吐きながらそう呟けば、三成が鼻で笑った

「あれは貴様が思う程子供では無い」

「しかしまだ十の子供だ」

「歳の問題か?」

「…いや」

三成の責めるような視線から目を逸らし、新たに注がれた酒を煽る
鼻から抜ける酒の香りに頭がくらくらした

「何を臆する必要がある?
貴様と長丸は血の繋がった親子だろう」

「…しかし、なぁ」

「親子の意識が薄くとも、大切な者を失った痛みは同じだろうが
ならば自分の子供としてではなく、対等な人間として話をすればいい」

それなら出来るだろう、とまた鼻を鳴らす
三成の視野の広さを羨ましいと思う
それと同時に、お前は当事者ではないからそう言えるんだと思う
あまりにも醜い自分の心に嫌気がさす

「…ああ、ありがとう三成」

「………上辺だけの礼などいらん」

不機嫌そうに眉をしかめ三成が睨み付けてくる
三成には敵わないと思いながら頭を掻いた

「…すまん」

「家康、こっちへ来い」

腕を広げる三成に抱かれる
指先は冷たいくせに、その体は温かだった

「………三成」

「……私は、こんな時にかけてやれる言葉を持っていない」

ぎゅうぎゅうと腕の力を強める三成が苦しそうに言葉を紡ぐ

押し当てられた胸から響く鼓動に涙が溢れた

「………っ、」

三成の体を抱き締め、ぼろぼろと零れる涙

焼けるように痛む喉が、ぼやけ歪む視界が、
きつく抱き締める三成が、お愛はもう居ないのだと訴えている

「……もっと、愛してやれたらっ」

そんなことは出来なかっただろうに後悔だけは一人前だ
何度も何度も悲しそうな、寂しそうな顔ばかりさせてしまった

それなのに、それだというのに、
命尽きるその時までワシと三成の幸せを祈ると言ってくれた

「……ワシはっ、いつも悲しませるばかりだった」

たくさん側に居た
それでも、ワシの心が側に居たことなんて一度もなかったのだ

「…三成、ワシは、どうしたってお前以外を愛せない」

今までもずっと分かっていたことだ
ずっとずっと昔から、ワシは三成以外を選ぶことなんて出来はしないんだ

あの日、三成がこの手を握り返してくれた瞬間から
ワシの選択肢など、初めから在りはしなかったんだ






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