二人ぼっち
50
くりくりとよく動く大きな瞳
家康と同じ色の髪と瞳
お愛によく似た柔和な笑顔
いつの間にこんなに大きくなったのかと驚いた
「長丸と申します!
お方様にお会いでき、誠に嬉しく思いまする!」
頬を赤く染め、興奮気味にそう告げる長丸を眺める
最後にきちんと顔を見たのはまだ赤子の頃だった
お愛の腕に抱かれ、すやすやと寝息を立てていた
たかが十年
されど十年
人の子の成長とは早いものだとため息が出た
「…話をするのは初めてだな」
「はいっ!」
「随分大きくなった……」
「十になります!」
「知っている」
三日前、お愛が倒れた
高熱が続き、未だ意識が戻らないらしい
これ以上熱が続くようなら、覚悟したほうが良いと医師が言っていた
「今日からはここで生活することになる
不便があるならばさっさと言え
余計な遠慮はいらん、何でも言えばいい」
「はい、ありがとうござりまする!
これから、よろしくお願い申し上げます!」
礼儀正しく、真っ直ぐに背筋を伸ばして頭を下げる長丸に、
お愛はきちんと母としての教育を施していることが窺えた
爛漫さ、純真さを失わず、奢らず、蔑まず、真っ直ぐな視線を向ける
長丸は愛され、良い子に育ったのだと思った
「………あの、お方様」
不安そうに瞳を揺らし、先程までの溌剌さは身を潜めたように長丸が呼ぶ
「何だ?」
「……あの、母上は、その、良くなるでしょうか?」
膝の上でもじもじと手を擦り合わせ、
眉根を下げ、居心地悪そうに視線を下へと向ける
「…知らん」
「……ぁ、そうですよね、……すみません」
寂しそうに、困ったように長丸が笑う
嘘でも、大丈夫だとささやき抱き締めてやれば憂いは晴れたのだろうか?
だが、それは何の解決にもなりはしない
大丈夫かどうかなど、お愛次第でしかないのだ
それでも、目の前で寂しげに笑う顔を見ていると胸が軋んだ
嘘を吐くことが出来ない自分がひどく悪いことをしたような気になった
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