二人ぼっち 49











眠る長丸の頭を膝に乗せ、お愛は優しくその髪を撫でる
着物の袖口から覗く手が以前よりも大分やせ細っていることに微かに眉をしかめた

「なあお愛、今度四人で花見に行かないか?」

「…まあ、家康様からそんなことを言われるなんて」

「嫌か?」

「ふふ、まさか!嬉しい限りでございます!」

「そうか、いつがいいだろうな」

楽しそうに笑うお愛に笑い返し、顔色の悪い頬を痛ましく思う

「いつでもかまいませんわ
家康様がご予定を合わせられるのが一番大変かと」

「お愛まで三成みたいなことを言わないでくれよ」

苦笑しながら頭を掻けばそっと腕を撫でられた

「お愛は家康様がそうおっしゃってくださっただけで、満足です
私と長丸も家康様の大切なものになれたのでしょう?」

「…お愛」

「本当に、嬉しくて………
ああ、ですが、私はおそらくご一緒出来ないかと」

「最近は、体調も良いじゃないか」

切なげに瞳を揺らし、目を伏せるお愛は随分老けてしまった
目元の皺はいつの間にこんなに深く刻まれてしまったのだろう
疲れが、陰りが、いつもどこかに付きまとっている

「自分の体のことは自分が一番分かります」

「………お愛」

「私はあと何年も持たないでしょう」

ニッコリと笑い、自分の命の終わりを計る
一番口惜しいのも、苛立つのもお愛だというのに、
微塵もそれを感じさせずに、ただ穏やかさばかりを纏う

「元から悪かった目も、もう随分利かなくなりましたし…
最近はよく足元がふらつくようになっています
もうしばらくで、歩くこともかなわなくなるでしょう」

淡々と事実だけを語るお愛の手を握る
枯れ枝のように細くなってしまった手だ
ふっくらとした肉付きは見る影も無い

「家康様、お願いがございます」

「…なんだ?」

「長丸を、お方様にお預けしたいのです」

強い瞳でお愛が見詰める
もう視力もほとんど無いであろう瞳でしっかりとワシを見据えて

「もう、私では長丸を守ってやることは出来そうもございません
託せるのは、信頼に足るのは、この大奥でお方様だけなのでございます」

強く強く握り返される手のひらに、母の愛と強さを知った

「…ああ、分かった」

ワシの言葉に深々と頭を下げ、お愛が肩を震わせる

「……っ、ありがとう、ござりまするっ、家康様っ」

お愛の涙を見るのは初めてだ、とぼんやりと思った
大切だと思っても、それを守れない自分の立場や弱さを悔やんだ






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