二人ぼっち
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「父上、お方様はとてもお綺麗な方ですね!」
「はは、そうだろう
ワシのとても大切な人だ」
見上げられるキラキラとした大きな瞳
頭を撫でてやればあまりの小ささに不安になる
すぐにでも壊れてしまいそうで恐ろしい
「…母上も、父上の大切な人ですか?」
「当たり前だ
もちろんお前も、とても大切に思っているぞ?」
「嬉しいです!ふふ」
柔らかく、日溜りのような朗らかな笑み
長丸の笑った顔はお愛によく似ている
「ワシも三成もお前が生まれる時はとても心配したんだ」
「お方様もですか?」
「ああ」
「わぁ…」
長丸は嬉しそうに頬を赤らめ、三成が居る部屋の方を眺める
その横顔に僅かな怒りを覚えた
「……三成に会ってみたいか?」
「家康様」
呼ばれた声に振り向けば、お愛が笑いながら近寄ってくる
「子供相手にそんな怖いお顔をなさらないでくださいまし」
カラカラと笑いながら長丸の頭を撫で、
同じようにお愛も三成の部屋の方へと顔を向ける
「お方様は家康様のもの
……きちんとそう教えてあります、ね?」
「はい、母上」
母の手が嬉しいのだろう、
安心したように笑いながら長丸が礼儀正しく返事を返す
「誰もお方様を取ったりなどなさいませんよ、ぅふふ
まぁ、家康様がいらっしゃる限りお方様は誰にも揺らぐことも無いでしょうし」
全てを見透かしたような視線に目を逸らす
自分でも分かっている
長丸は美しいと言っただけだ
それだけで、こんなにも心が乱される
相手はまだ子供だというのに、
それでも三成に焦がれる視線が許せなかった
「…まいったな」
「ふふふ、そこそこ長いお付き合いですもの」
「…何だか、あっという間だな」
「そうでございますね」
「…父上も母上も、良い事でもあったのですか?」
不思議そうに首をかしげ長丸が見上げてくる
日の光に当たった髪がキラキラと輝いているのを、
温かく穏やかな気持ちで、目を細めて見守った
「どうしてそう思うんだ?」
「えぇと、笑っていらっしゃるので」
「ははは!
そうだな…今があんまりにも幸せだから、笑ってしまうんだ」
「そうなのですか?」
「ああ」
穏やかに微笑むお愛とまだ不思議そうな顔をする長丸を抱き締める
「…お前たちに会えて、良かった
ワシは本当に幸せ者だ!」
「ふふ、身に余る光栄ですわ」
「…父上の言う幸せが、なんとなく分かりました」
日溜りの部屋の中、三人で笑い合う
長丸の高い体温が心地良かった
「こういうのが、幸せというんですね」
抱き締め返す腕にぎゅうと力を込め、長丸が笑う
その頭を優しく撫でながらお愛も笑う
そんな二人を見て、またワシも笑う
こんな穏やかさに確かに幸せを感じているのに、
早く三成の元へ行きたいと思っている自分が居る
二人を抱き締める手を緩めないまま、心の中でひどい奴だと呟いた
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