二人ぼっち 44











笑っていた
皆思うことはあっただろうに、
何を口にすることも無く、大丈夫と笑っていた

思い返せば、いつだって誰かが側に居てくれた

飯を食え、もう休めと刑部が居た
機巧を見ろ、海に連れて行ってやると長曽我部が居た
共に鍛錬をしよう、甘味を喰おうと真田が居た
その内倒れる、痩せすぎだと猿飛が居た
酒を飲むぞ、手合わせでもするか?と島津が居た

一人ではないと、伝えられていた
言葉よりももっと確かな行動で、皆それを私に伝えてくれていた

私が耳を塞ぎ、目を閉じ、拒絶していただけだ

家康だけしか見ていなかっただけだ

もっと話をすればよかった
もっときちんと見ればよかった
もっとちゃんと声を聞けばよかった

誰も傷付く事無く、許しあえる未来はあったのかもしれない

もっと他の方法があったのかもしれない

「………すまない」

皆もう居ないのだ
何を言ったところで、もう届きはしないのだ

それでもたまに、不毛な考えばかりが頭をよぎる

良い者たちだった
死ぬべきでは無い者ばかりだった
死ぬ必要など無い者ばかりだった

私が変われていたら、気付けていたら、
今も皆笑って生きていたのかもしれない

「……家康」

だが、今生きているのは私だけだ
一番に殺されるべき私だけが、生き残った

「三成、入るぞ」

「…ああ」

いつもと変わらない笑みを浮かべる家康を抱き締める
開け放たれたままの襖からは薄暗い廊下が見えている

「っ、どうしたんだ?」

「……私が甘えてはいけないのか?」

「いや、そうではないが…何かあったか?」

「貴様を抱き締めることに理由が必要か?
…そうだな、ここの女たちの言葉を借りるなら、
家康を愛しているから、だ」

「………三成、その、少し恥ずかしいんだが」

「もうじき四十になる男がこれくらい恥ずかしがるな」

「……三成」

「…ん」

そっと落とされる口付け
優しく、労わるように抱き寄せられる体

それしきで不安も後悔も容易く溶ける

いつだって、家康は私を照らし続けるのだと思い知らされる
温かく包み込まれ、許され、愛されている

少しだけ、涙が出そうになった






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