二人ぼっち
43
母の顔をしながら、お愛がワシに笑いかける
すやすやと眠るのは間違い無くワシの血を混ぜた子
「長丸と申します
お方様に名付けていただいたんです」
「三成が?」
「ふふっ、家康様とお決めになれと言われてしまいました」
「…三成らしいな」
お愛と笑い合いながら想うのは三成のことばかりだ
今頃何をしているんだろうか?
一体何を思っているんだろうか?
寂しさを感じていなければいいと思いながら、
ワシはお愛と子を見ながら笑い合うのだ
「………家康様は、お方様を愛しておられますのね」
「…急にどうした?」
「今、お方様のことを考えていらしたでしょう?
……女は、そういったことには敏感なんですのよ」
寂しそうに笑い、お愛がワシの手を握る
この痛みを分かれとでもいうかのように、
ぎゅうと握られた指先は血が通わず冷たくなっていく
「酷い方を好きになってしまったものです」
「………すまん」
「謝らないでくださいまし
…もっと惨めになるだけでございます」
微かに眉をしかめ、お愛がそっと手を離す
そうして諭すような瞳でワシを見つめる
「…家康様、どうか心から愛する方の下へ行ってくださいまし」
寂しそうに笑いながら、
全てを悟った顔でお愛が笑う
いつもいつも我慢させてばかりだ
いつもいつも、悲しませることしか出来ない
「…分かっておりますから、大丈夫でございます」
そっと目を閉じ、子の頭を撫でながらお愛が呟く
ひどく優しい声音に胸が締め付けられた
「私たちの誰も、お方様には敵いませんでしょう?
…どれ程に抱かれようと、
心を許されたような気になろうと、
その最上はお方様の為だけにおありになるのでしょう?」
目を伏せ、唇を噛み締めながらお愛の言葉を反芻する
まったくもってその通りだ
ワシの言葉も、行動も、全ては三成の為だけだ
他の女たちに囁く愛は、全て三成の為の予行演習にすぎないのだ
「…家康様、いいのです
どうか、家康様の心が本当に癒せる場所に、
本心を晒し、甘えることの出来る方の下へ行ってくださいませ」
子の頭を撫でながら、そう言って笑うお愛を抱き締める
「……ワシが、心から愛しているのは三成だけだ」
「…ええ、知っておりまする」
「………だが、お愛にも心を晒している」
「……ふふっ、知っております」
「………すまん、ワシは」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
「……すまんっ」
笑うお愛の頬に口付けを落とし、
三成の元へ向かうべく襖に手をかける
「………ねえ、家康様
私とこの子は、確かに家康様に愛されていると思ってよろしいのでしょうか?」
「ワシも三成も、心からお前たちを愛しているさ!」
「…ふっ、ふふふっ!
ありがとうござりまする、家康様」
一瞬お愛と視線を絡ませ、笑い合う
そのまま迷い無く襖に手をかける
「お愛は、いつまでも家康様とお方様の幸せを祈っておりますわ」
お愛の言葉に歩みを止めたが、
その悲しげな声に振り返らず襖を開ける
残酷なまでにこの心が求めるのは、今も昔も三成ただ一人なのだ
誰を傷付けようと、それが変わることはないらしい
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