二人ぼっち
40
「…三成、ずっと、ずっとワシの側に居てくれるか?」
「ふん!何を言ったところで貴様は信用していないだろうが」
俯き、困ったように苦笑する家康を抱き締める
離すまいと、伝わればいいと、きつく抱き締める
「……私は、貴様が望む限り側に居る
貴様がもういらないと言う日まで、ずっと、貴様の側に居る」
胸元に埋められた顔
背に回された温かな手のひら
「…三成は、いつでもワシを掬い取るな」
「なんだそれは?」
「いつもお前に救われているということさ」
「救った覚えなどないぞ」
「いつだって、お前が居てくれるだけで救われているんだよ」
甘えるように頭をすり寄せて、
ヘラヘラと、眩い笑みを見せる家康に息を吐く
ああ、貴様の不安は拭われたのだ、と思った
「易い男だな」
「三成相手ならな」
笑い合って口付け合う
じゃれるように、ふざけ合いながら、唇に触れる
「お愛にきちんと謝らねばな」
「なら今夜にでも呼べばいいだろう」
「……お前も嫉妬くらいしてくれればいいのにな」
「貴様は馬鹿か?
私はいつだって嫉妬している」
「まさか」
「女を抱いてきた後に私が触れさせたことがあったか?」
「………そういうことだったのか!」
「…貴様は馬鹿だ」
気だるさの中、触れるだけの口付けを交し合いながら、
面白みも無い他愛無い話を語り合う
「……城下にでも連れて行ってやれ」
「お愛か?何か欲しい物でもあるのか?」
「貴様と供に外を歩いてみたいらしい」
「…なんとも無欲だな」
「………貴様は救われない馬鹿だな」
ため息を吐きながら家康の頭をワシャワシャと撫ぜる
くすぐったそうに身をよじり、家康が笑う
「それならワシは三成と出かけたいぞ?」
「侘びはどこへいった」
「いや、しかしなぁ……
結局、花見も、海も、紅葉狩りも、雪遊びも、何も出来ていないじゃないか」
「…何年前の話だ
そんなことを話したのは私が目覚めたばかりの頃だろう」
「毎年思っているさ
これはもう老後に持ち越されそうだなぁ」
「ならさっさと子でも作ればいい
そうして貴様の望む老後を送ればいいだろうが」
「ワシが爺になっても隣に居てくれるか?」
「分かりきったことを聞くな
貴様が望むなら、私は来世も貴様の隣に居る」
幼子のように、嬉しそうに家康が笑う
無邪気に、爛漫に、何の憂いもしがらみも無く
「……三成は、いつまでたっても変わらないな」
伸びた髪に手を触れ、家康の瞳が懐かしさを映す
その脳裏に描いているのは、きっと関ヶ原の頃の私だろう
「染みも、しわも無い
いつまでたってもあの頃のままだ」
「貴様は老けたな
髪に白髪が混ざってきているぞ?
皺も昔より増えた」
「三成だけ、時が止まったようだな」
「想いも昔から変わっていないのだからいいだろう」
「…ふふ、充分さ!」
ぎゅうと抱き締められ、陽だまりの香りのする髪に顔を埋める
少し筋肉の衰えた体を抱き締める
いつまでたっても変わらない
この心も、この体も、昔のままだ
それを厭わしく思うようになったのはいつからだろう
貴様と同じ時を生きていないようで、
ひどく寂しくなったことを覚えている
それでも家康が、美しいと笑うから、
それでもいいような気がしているんだ
家康が私を愛してくれるなら、それでいいんだ
いつまでも、今のように笑っていればいい
何年経とうと、貴様には翳りも憂いも似合わないのだから
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