二人ぼっち
36
私の呼びかけに微かに肩を震わせたまま、
拳を握り締め振り返ろうとしない家康
「…家康」
その拳に触れ、もう一度名前を呼ぶ
「………すまん」
「私に何を謝る
謝罪を口にするべきはあいつにだろう」
硬く握られた拳を包み込み、家康を見上げる
うなだれた後姿は、私が目覚めたばかりの頃とよく似ていた
「嫉妬でもしたか?」
茶化すように、分かりきったことを口にする
「………したさ」
振り返った家康は、泣き出しそうな顔で笑っていた
「……もう、この手で誰かを傷付ける事は無いと思っていた」
「傷付けてなどいない」
「傷付けようとした!
お愛を!非力な女だと分かっていたのに!!」
「…あいつにとって、お前が与えるものならばそれは傷ではない」
「………本当に、随分と仲が良いのだな」
不細工な笑顔のまま腕を取られる
冷たい印象しかないその笑顔に、背筋が寒くなった
「……三成、ワシ以外見るな」
「初めから、貴様以外見た覚えは無い」
「……………うそつき」
強引に腕を引かれ部屋の中へ押し込められる
そのまま何も言わずに覆いかぶさってくる家康に、
言葉を発することも出来ぬままその背に腕を回した
帯を緩めることもせず、
ただはだけさせられていく豪奢な着物
カシャリと音を立てて落ちた華奢なかんざし
優しさなど微塵も無く触られる体
私が女に触れたというだけで、
女が私に触れようとしただけで、
こうまでも容易く激情をあらわにする
それこそがなによりの愛だと、この男には分かるまい
どんな地位を与えられるより、
どんな言葉を囁かれるより、
ずっとずっと、そんな顔が見られることのほうが嬉しい
貴様に求められることのほうが、嬉しいのだ
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