二人ぼっち
35
三成が笑っていた
お愛の髪を優しく撫で、柔らかく微笑んでいた
「………」
お愛も笑いながら三成の髪に手を伸ばす
それを拒む素振りも無く、微笑んだままの三成
「…ッ!」
思わず駆け出してしまった
「…家康?」
「…家康、様?」
三成の髪に触れる直前に掴んだお愛の手
不思議そうに見上げてくる二人の視線
風に揺れる薄紫の淡い花びら
「…っ、家康様、痛うございます」
「………す、まん」
手のひらの中でぎちりと音を立てたお愛の細い腕
もう少し力を込めれば、容易く折れてしまう細い腕だ
それなのに、力を緩めることも出来ずに口先ばかりの謝罪を呟く
「…っ、家康、様?」
「…すまん」
眉をしかめ、ワシを呼ぶお愛を呆然と見詰めた
早く手を離さなければ折れてしまう
きちんと謝り、早く笑って見せなければ
ぐるぐると頭の中を思考が回り、それでもこの細い腕を離せない
「…家康」
お愛の腕を掴む手に、三成の手が触れる
冷たく、白く、死人のような手
生きていることが、奇跡としか言いようの無い三成
「……家康」
「…っ、すまんっ!」
三成の手から目を逸らさぬまま、我に返りお愛の腕を離す
細い腕にはワシの手形が赤く残ってしまっていた
「お愛、大丈夫か?
痛むのならばすぐに医師に…」
「…家康様、お愛は大丈夫でございます」
ニッコリと笑い、そう口にするお愛に申し訳なさが募る
折れる直前まで掴んでいたんだ、痛くないわけがない
それなのに、そんなことは微塵も見せないでお愛は笑う
「折れてはおりませんし、痛みも大したことはございません
…ただ、お二人のお邪魔になってしまいますので、私はこれで失礼いたしますね」
楽しそうに笑い去っていくお愛の後姿が見えなくなるまで見送った
何て情けないことをしてしまったんだろう
非力な女相手に、容赦も無く腕を掴んでしまった
ただ三成に触れようとしただけじゃないか
そう頭では思っても、心に残る黒い染み
三成に触れて欲しくなかった
三成をとられてしまうかもしれないと思った
このまま三成がワシから離れていってしまうかも知れないと、
そう思ったら居てもたってもいられなくなってしまった
「家康」
まるで何も無かったかのような三成の声に、振り返ることが出来なかった
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