二人ぼっち 30











「三成、ワシは室を取る」

「…そうか」

杯を交し合い、一息に酒を煽る
鼻から抜ける酒の匂いに、飲むのは随分と久しぶりだと思った

夜風が心地良く吹きぬけ家康の髪を揺らす
金の瞳が私を見詰めるのを、ただ見返した

「お前には、室を取りまとめる立場についてもらいたいんだ」

「…………げほっ!」

「大丈夫か?あわてて飲むからだぞ?」

ははは、と爽やかに笑う家康を呆然と眺めながら、
口元に零れた酒を着流しで拭う

「貴っ様は、馬鹿かっ!?」

「頭の出来はそこまで良くは無いなぁ」

「そっ、そういう話では無い!
私が、室を取りまとめるだと?
冗談も馬鹿も休み休み言えっ!」

「冗談じゃあないさ
ワシが一番に愛しているのは三成だからな!
それなりの立場に居てもらわなければおちおち会いにも行けん」

真面目な顔でそう吐いた家康に思わず手が出た
ゴッ、と鈍い音を立て拳が家康の頭に当たる

「……貴様、馬鹿だろう」

「いっ………!!
馬鹿でも、いいさ…
ワシが三成に会いに行ける理由が欲しいだけだ」

涙目になりながら笑う家康に歯を食いしばる

「………子を生す相手くらい自分で見定めろ」

「それならワシは三成以外抱けない」

「………………馬鹿者」

「三成馬鹿なら大歓迎だ」

「……………………馬鹿者っ」

「…三成、愛している」

手を引かれ、家康の腕の中に閉じ込められる
その肩口に額をすり寄せ、馬鹿だと繰り返す

貴様が抱く女など見たくない
貴様の子を生す女など取り纏めたくない

そんなことを、私が言える筈も無い
それなのにこの男は、私にそれを言わせたいというのか

「…………いいだろう
貴様の子を生す女共を取り纏めてやる!
そのかわりっ、貴様が幸せにならなければ許さないっ!」

「馬鹿だなぁ……
お前が側に居てくれるのならワシはいつだって幸せだ」

睨み付けた瞳は優しく優しく見詰め返され、
温かな手のひらが慈しむように髪を撫でる

「………ぃえやす」

「…愛してる
……本当に、お前だけを愛しているんだ」

「……っ、家康」

「愛している、三成
ずっと、ワシの側に居てくれ」

「……当たり前だっ!
貴様は、ずっとずっと、笑っていろ!」

「ああ」

きつく家康にしがみ付けば、家康はもっと強く抱き締める
何度も何度も愛していると囁く言葉に、
どうしようもなく涙が溢れそうになってしまう

家康が望むのなら、私は何にだってなってやる

愛しているという声が、
熱を持った手のひらが、
私を生かし続ける限り、
私は家康の居場所であり続けるだけなのだ

私もまた、家康を愛しているのだから






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