二人ぼっち
26
家康の手が好きだ
大きく、温かく、揺ぎ無い
家康そのもののように、歪な手だ
家康が武器を使わず拳で戦うようになったのはいつからだろう
竹千代と呼ばれていた頃は、まだ武器を使っていたと思う
気付けば、眉をしかめて唇を噛み締めて、
”ワシも痛いほうがいいんだ”と、笑っていた
傷に傷を重ね、ごつごつとした手だ
赤黒く変色し、痣だらけになった手だ
沢山の命を奪い、沢山の希望を紡いだ手だ
傷が消えた今でも、その傷跡は消えない
ずっとずっと、家康に残り続けるのだ
鮮やかな未来を口にしながら、
残酷に、一縷の望みも無く敵を砕く
大丈夫と笑いながら、
血が滲むほどに拳を握り締める
最早本心さえも見失った家康が、悲しかった
自分に嘘を吐くことが上手くなる家康が、哀しかった
「家康、朝だ
おい、起きろ!」
「…んぅ、もう少し」
「おい、家康!」
「………んー」
「いっ、家康っ!」
「いいじゃないか、もう少しこうさせてくれ」
「……す、少しだけだぞ」
「ははっ、ああ」
私をきつく抱き締めたまま、
幸せそうな顔で安らかな寝息を立てる家康の胸に顔を押し付ける
今が平穏な世なのならば、この手でもう誰も傷付けないで欲しい
もう二度と、誰かを傷付けることで傷付かないで欲しい
私の大切な絆を奪った手だ
私の未来を断ち切った手だ
私を抱き締めてくれる手だ
私の愛する者の手だ
もし出来るのならば、どうか傷だらけのこの手を癒せるように
どうか嘘吐きな家康が嘘を吐かなくてもすむように
家康が望む限り、私は家康の味方で在り続けよう
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