二人ぼっち
20
家康が笑うのを苛々しながら睨み付けた
腹立たしいという思いと共に、
まだこんな顔で笑えるのだということに安堵した
「いい加減にしろ!笑いすぎだっ!!」
「ははっ、いや、すまん三成」
目の端に涙まで浮かべながら、笑いを堪えた家康が息を吐く
「だがきちんと食べたな、偉いぞ!」
「っ、子ども扱いをするなっ!」
頭を撫でる温かな手のひらを心地良く思いながら悪態を吐く
それでも、穏やかに笑う家康は手をどける気は無いようだ
「そんなつもりはないんだがなぁ」
楽しそうに、ひどく優しい顔で笑うから、
手を振り払うことも出来なくなる
「……おい、あの女から文を預かっている」
「ああ、忠勝からの文だな」
なすがままに撫でられながら懐から取り出した文を渡せば、
懐かしそうに微笑み、丁寧な手つきで文を広げる
そのまま、ゆっくりと何度も何度も読み返した
「なぁ、三成」
「何だ」
「…抱きしめてもいいか?」
「……勝手にしろ」
真っ直ぐに見詰めて来る瞳に気恥ずかしくなり視線を逸らす
居たたまれなくなりそのまま後ろを向けば、
背後から家康の温もりに優しく包まれた
「…どうした?」
肩口に顔を埋め、力無く抱き寄せる家康に問い掛ける
「いや、大したことでは無いんだが、
もう、忠勝から文を貰うことは無さそうだ」
「…患っているのか?」
「眼を病んだらしくてな、もう筆は握れないらしい」
深いため息を吐き出した家康に胸が軋んだ
こうやって、少しずつ失っていくことに慣れていったのだろう
これからもずっと、失っていくのだろう
「死にともな 嗚呼死にともな 死にともな 深き御恩の 君を思えば」
家康の静かな声が響く
本多忠勝らしい、辞世の句だと思った
きっといつまでも、言葉のままに家康を思っているのだろう
「……三成、眼が見えなくても、
体が動かなくなっても、ワシの側に居てくれるか?」
不安そうに、震える声で呟く家康の手を握る
「当たり前だ
貴様が嫌と言っても、ずっと側に居る」
「…ありがとうな、三成」
背後で静かに涙する家康に、何度も大丈夫だと言い続けた
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