二人ぼっち 19











「いらんと言っているだろうが!」

「いけません!
三成様が何を言われようと、
一口でも召し上がるまでここを離れません!」

部屋に近づくにつれ大きくなる喧騒に首を傾げながら、
ぴったりと閉じられた襖に手をかける

「…三成、小夜、入ってもいいか?」

躊躇いがちに声を掛ければ内側から勢い良く開かれた襖

「家康っ!
この女をどうにかしろっ!」

ありありと怒りを浮かべた三成が仁王立ちでワシを睨み付ける

「家康様からも言ってくださいまし!」

三成越しに眼に入ったのは手を付けられていない夕餉と、
その前に座る厳しい顔をした小夜だった

「…一体どうしたんだ?」

何となく状況は理解できたが、二人からの言葉を聞くことにする

小夜曰く、三成が飯を食べない
三成曰く、食う気がしない

「三成様が口にしたのは最初の夕餉の汁物だけなんですよ!?
それも、汁が少し減っている程度!
目が覚めたばかりだというのに、これではすぐ倒れてしまいます!」

激昂する小夜をなだめながら三成に向き直れば、
不機嫌な顔で、不貞腐れたようにそっぽを向いてしまっている

「まぁ落ち着け、小夜
三成も、一口でもいいから何か食ってくれよ」

「いらん!腹など減っていない!」

「またそのようなことを言って!
だから三成様は不健康に細いのですよ!」

「煩い!だから何だ!」

「…あー、二人とも、少し落ち着いてくれるか?」

口を挟むのも億劫になる程に睨み合う二人に声をかけ、
向けられる怒りの視線に苦笑しながら言葉を紡ぐ

「小夜、三成を心配してくれてありがとう
あとはワシが責任持ってきちんと食わせるから、
今日のところはそろそろ勘弁してやってくれ」

「その言い方は何だっ!
私は貴様の飼い犬などではないぞ!」

「……家康様がそうおっしゃるなら仕方ありませんね」

ため息を吐きながら立ち上がり、部屋を後にする小夜を見送った
その後姿に忌々しげな顔をする三成に視線を投げる

「三成、一口だけでも食う気はないか?」

「腹は減っていないと言った筈だ」

「だがさすがに何も食わんと言うのはなぁ…
それに、世辞ではなく小夜の飯はうまいぞ?」

「……あの女が作ったのか?」

ぽりぽりと頭を掻きながら言えば、
三成は何かを考えるような顔をして静かな声で問いかけてきた

「ああ
三成に関することは全て小夜だけに任せてある」

「…………」

ワシの言葉に眉をしかめ、しばらく逡巡したかと思うと、
箸を手に取り冷たくなった煮物を口に放り込んだ
そのまま黙々と食事をする三成を呆気に取られたまま眺めていた

「何を見ている」

「いや、食ってくれるのは良い事だが、
あんなに嫌がっていたのに急にどうしたのかと思ってな」

「……ふん」

ワシの問い掛けに答える気は無いようで、
ただ粛々と食事を続けていく
煮物を一箸と、雑炊を食い終わる頃に三成の箸が止まった

「…おい、ジロジロ見るな」

「すまん、すまん
きちんと食事を摂る三成を見るのは久しぶりで、つい」

不愉快だ、と言いたげな顔でそのまま箸を置いてしまう

「もう食わんのか?」

「〜〜初めから腹は減っていないと言っただろうが!」

拗ねたようにそう言った三成に思わず笑ってしまった

こんな風に笑うのは何年ぶりだろうかとぼんやりと思いながら、
毛を逆立てた猫のような三成にしばらく笑いが止まらなかった






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