二人ぼっち 2











深い深い水の底に居た
遠い水面にはゆらゆらと光が差し、寒さは感じない

何だかとても空虚だった
大切なことを忘れているような気がした
だが、それが一体何なのか分からない
もどかしさを感じながら、ただ水が揺らぐのに身を任せていた

”みつなり”

誰かが自分を呼ぶ声だけを、ずっとここで聞いていた

悲しいような、嬉しいような、寂しいような、楽しいような、
様々な感情が入り混じって、胸が苦しくなった

この場所に来てすぐ、秀吉様と半兵衛様にお会いした
お二人は笑って、私がまだ子供だった頃のように頭を撫でてくださった

ここがどこなのか、なぜお二人がここに居るのか訊ねたが、
お二人に私の声は聞こえないようで、逆にお二人の声も私には聞こえなかった

お二人は穏やかに笑い強く強く抱きしめてくださった
親が子供にするように、愛情深く、どこまでも自愛に満ちた抱擁

そうして優しく笑い、どこかへ行ってしまった
追いすがろうと走るが、お二人との距離は開く一方で追いつくことは出来なかった

どうしようもない喪失感を覚えながら、
前にもこんな喪失感を味わったことがあるような気がする、と思った

それがいつだったかは思い出せないが、
この深い悲しみと苦しさはなんとなく知っている

一人きりになったこの空間で、ぼんやりとそんなことを考えていた



しばらくすると形部がここに来た

おかしそうに顔を歪め笑っていた
だがやはりその笑い声も聞こえなかった

ひとしきり笑った後、形部が私の肩に手を置き、今までに見たことも無い笑みを浮かべた
大丈夫だとでも言いたげな顔で、優しく笑っていた

そうして一つ頷くと、ひらひらと手を振りどこかへ行ってしまった
それを追って走るが、やはり私には追いつくことが出来なかった

悲しさともどかしさを抱えながら、ゆらゆらとここで漂った

どうすればいいのか分からず、ただ差し込む光を眺めていた

”みつなり”

温かな誰かの声
悲しさを滲ませた声で、私の名を呼ぶ誰か

私の名前以外、何も聞こえない

ただ、その声に名を呼ばれる度に涙が出そうになった
嬉しいのに悲しくて、幸せなのに嫌悪が募り、苦しくて、もどかしかった
もっと呼んで欲しいのに、もう二度と呼んで欲しくないと思う

自分の感情さえままならない
誰が呼んでいるのかも分からない
それでも、忘れている何かがその声を覚えている

身がねじ切れそうな程に、辛く、重苦しい感情
だというのに、これ以上無い程の幸せな、温かい感情

その声に感じる間逆の感情に戸惑いつつも、
早く名を呼んで欲しいと思い、
もう二度と名を呼ばないで欲しいと思いながら、
私は今日もまたここで一人漂っている






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