二人ぼっち 17











繋いだ手の温度で目が覚めた
ひりひりと痛む目元はきっと赤く腫れているんだろう
かさついた喉は声を出すのも億劫だ

「…三成」

まだ隣で眠る三成の温かな温度に頬が弛む

あんなみっともない姿を晒しても、
笑うことも、蔑むことも、呆れることも無く受け止めてくれた

本心しか無い三成だからこそ、それがどうしようもなく心に沁みた

「…ありがとう」

三成の頬に口付けを落とし、顔を洗う為に部屋を後にした



空を舞う鳥の声に気を取られながらも筆は止まらない
まだ昼過ぎだというのに早く政務を終わらせて三成に会いたいと、そればかりを考える

女中が持ってきてくれた茶は当に冷え切ってしまっている

「…ふぅ」

「ため息など吐くと幸せが逃げてしまいますよ?」

急に声を掛けられひどく驚いたが、
可笑しそうに笑うのが小夜だと分かりほっと肩から力が抜けた

「お茶のおかわりをお持ちしました」

「ああ、ありがとう」

淹れたての茶は湯気を立て、柔らかな渋さと甘さに安堵の息を吐いた

「家康様、忠勝様から文を預かっているんです
三成様に渡しておきましたから、夜にでも読んでくださいまし」

それだけ言うと飲み終わった湯呑みを持って、
笑いながら小夜は出て行ってしまった

「…忠勝か」

ワシに直接文を渡そうとすれば膨大な時間が掛かってしまう
だからこそ忠勝は小夜宛に文をしたためたのだろう

小夜もそれを分かっているからこそ三成に渡した

小夜と会えない日は多々あれど、
ワシが三成を訪ねない日はありはしないと知っているから

全てを見透かされているようで気恥ずかしさを覚えるが、決して嫌だとは思わない
それはワシの心を、想いを理解し、支えてくれるからだと知っているからだ

「敵わないなぁ」

執務を早く終わらせたい理由がまた一つ増えてしまったな、と思い、
苦笑を漏らしながら筆を手に取った

北の地の日照り
治水の進行具合

それらに目を通しながら、忠勝を思った

最後に文を貰ったのはもう何年も前になる

ワシの身を案じ、離れていてもワシの味方だと、
そんなことばかりが遠まわしに、不器用に綴られていた

桑名の民の温かさや、風景の美しさ、
自分は快適に気楽にやっていると、そう締め括られた文

その何と有難かったことか

何度も何度も読み返し、ぼろぼろになってしまっても、
大事に文箱に入れて仕舞っている
もう内容をそらで言えるほどに読み込んでしまった

ワシに送られる他愛無い文は年々数が減り、
それでも皆ワシを気遣うことばかりを書いていた

今ではそんな文が来ることも余り無くなってしまったが、
それでいいのだと思える
便りが無いのが良い便りだと、そう思った

今まで側で仕えてくれていた者を地方にとばしても、
今までと変わり無い優しさをくれた
皆ワシのことを心配してばかりだった

「…皆、どうしているだろうか」

他愛無い話をして笑い合えたら、とそんなことを思う

「っと!いかん、いかん」

ぼんやりと筆が止まっていることに気付き、頭を振り執務に集中する

今は目の前に置かれた書類の山を片付けることを第一に考えなければとため息を吐いた






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