二人ぼっち 16











眠る家康の顔を眺めながら髪を梳いてやる
少しゴワゴワとした手触りは昔と変わらない
眠る時はあどけない顔で、年よりも幼く見えるところも

眠りに落ちてからは頬を撫でても、額に口付けを落としても目覚める素振りは無かった

ただ深い呼吸が響き、それに安堵した

どれ程の孤独を一人きりで抱えていたのだろうか?
どれ程の時間を耐え忍んできたのだろうか?

家康の悲痛な叫び
顔をくしゃくしゃに歪ませて流された涙
痛みを吐き出すような声

私の知らない家康の苦悩と怯え

痛いほどに握り締められた手
震える指先で、離れることを恐れるように強く強く握られた手

「家康…」

どうしようもなく無力だと思った

泣く家康を慰められる言葉も無く、その苦悩を分かり合うことも出来ない

話すべき事がたくさんある
聞きたいことがたくさんある

このままでいいはずが無いと思う

家康が壊れてしまうのならば、そんな天下はいらないとすら思う

だが、それを守ろうとしているのは他でもない家康で、
死ぬことを考えながらも、家臣の目に怯えながらも、懸命にここに存在している

それを奪うことは出来ない
奪う権利など私にあるはずが無い

…私はここにいてもいいのだろうか?

私の存在が家康の立場を脅かすものだと自覚はある
私がいることが家康の不利になることは想像に易い

それでも、私が居てよかったと泣く家康がこの日の本の主なのだ

今は家臣達の傀儡であるかもしれないが、
確かな力で、確固な志で、この国を一つに纏め上げたのは家康なのだ

悲痛な声で泣いた家康の力になりたいと思う
家康を木偶に仕立て上げた家臣を憎いと思う
家康に、また昔のように笑って欲しいと思う

家康の持つ力を思い出して欲しい

家康が笑うだけでそこには光が差す
温かく、朗らかな空気が流れる
皆が笑い合い、希望が見えた

そのことはもう過去かもしれなが、確かにあったのだ
どれだけ時代が変わろうと、その事実は変わらない

だからこそ、今この国は一つになっているのだと思う
だからこそ、私は関ヶ原で家康に敗れたのだと、思う

「…愛している、家康」

今はせめて、家康が弱音を吐ける場所になりたい

そんなことしか出来ないもどかしさはあるが、
家康が壊れないように、守りたいものを守れるように、
力を蓄えられる場所になれたらいいとだけ思う

どうか、明日の家康は昨日よりも笑えればいい

そう思いながら眠る家康に身を寄せて瞳を閉じた






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