二人ぼっち 15











強く握り返された手をぎゅうぎゅうと握り締め、
ひり付く喉で声も無く泣いた
熱い目頭からぼたぼたと涙を零した

指先に感じる冷たい唇の感触
しっかりと握り締められた手のひらの温度

三成の優しさに涙は止まらなかった

「…っ…ひっ…」

あやすように背を叩く三成の手が触れる場所だけが温かい

「…ぅっ…三成っ…」

子供のように縮こまり、肩を震わせ涙を零す
声を上げることも出来ず、ただただひきつれた嗚咽を漏らすことしか出来ない

みっともなく泣くワシを嘲笑することも無く、優しく背を叩き続けてくれる三成
弱いワシを糾弾することも無く、しっかりと手を握っていてくれる三成

「全て吐き出してしまえばいい
ここに居るのは私と家康だけだ
…誰も咎めはしない
取り繕う必要なんて無い」

三成の言葉に、やはり全て気付かれていたのだと理解する
安堵が込み上げ先程とは違う涙が込み上げた

「ぅ、あっ……三成、ワシはっ…」

顔を上げれば涼しげな眼差しが突き刺さる
だが柔らかく弛んだ目元は包み込むような慈愛に溢れている

より一層強く三成の手を握り締め、震える声で言葉を吐き出していく

「こっ、怖いんだっ…
人の、家臣の目がっ、…何を考えているか、分からないのが怖い…
ただの飾りでいればいいとっ、余計なことをしなければいいと言われるのが、
それに、そんな言葉にっ、慣れてしまったワシが…不甲斐無くて、
それでもっ、もう、心を、言葉を通わすことも恐ろしくてっ……
誰も、信じられなくなった…
誰も、信じられなくなってしまった…」

しゃくり上げ、どもりながら怖い怖いと言うワシの背を叩く速度も、優しげな眼差しも変わらずに、
ワシの弱さを受け止めてくれる三成に今まで誰にも吐き出せなかった本音を零した

「苦しかったっ…
辛かったっ…
ワシは、何の為にここに居るのかとっ、
こんなことを言われる為にっ、ワシは今まで戦ってきたのかと思うとっ…
ぅっ…、ワシはっ…もう、何が正しいのか、分からなくてっ…」

自分でも何を言っているのかよく分からないままに胸にわだかまっていた気持を言葉に変えた
支離滅裂なそれらを、黙って聞いてもらえるだけで心は少しずつ軽くなっていく

「こんなっ、弱くて、情けない自分が、大嫌いだっ…
人の顔色ばかり窺って、言いたいことも言えずにっ、
作り笑いばかりがうまくなって…でもっ、もうどうしていいか分からないんだ…」

止まらない涙で視界が霞む
ひりついた喉が痛んで、震える声は所々がひっくり返っている
きつく握った手は固まって、きっと三成は痛いだろうと思うのに離すことが出来ない
離したくないと、思う

三成が優しいのがいけない
優しすぎるから、こんな、見せたくない弱い自分をさらけ出してしまうんだと自分に言い訳をする

「何度も、眠る三成の顔を見てっ、早く、目覚めてくれと願った…
嘘の無い言葉が聞きたかった…
三成になら、殺されてもかまわないと思ったんだっ」

ひどいことを言っている
そう分かっているのに、言葉は止められない

「ワシが居なくてもいいなら、もう死んでしまいたかったっ…
一人きりで、ここに居るのは、もう耐えられないと思ったんだ…
その度にっ、三成に会いに来た…
まだ、ワシがここにいる理由を、三成に押し付けてっ…」

僅かに眉をしかめた三成の顔を直視するのが辛い
それでも、もう目を逸らそうとは思わなかった

「すまないっ…
すまない、三成っ…」

ぐしゃぐしゃに歪んだ顔をしているんだろう
きっと見れたもんじゃない顔をしているんだろう

それでも、真っ直ぐにワシを見つめ返してくれる三成から目を逸らさなかった

「…私も、秀吉様亡き後、家康を生きる理由にしていた
私は家康を責められる権利も、理由も持っていない」

だから謝るな

そう言って困ったように微笑んだ三成の悲しさを孕んだ美しさに目が眩んだ
今までで初めて見る表情に息が詰まった

「今は休め
そんな隈の浮いた顔では格好が付かないぞ」

背に置いた手をそっと離し、白く細い指がワシの頬を伝う涙を拭う
その冷たさと優しさに身震いした

離れていく三成の手を名残惜しく思いながら頷いた

「……三成、一緒に眠っても、いいか?」

がさがさの掠れた声でそう呟けば、呆れたように笑われた

「そういう所は変わらないな」

そのまま布団に横になり、ワシの入る隙間を開けてくれる三成に苦笑する
その隙間に入り込んで向かい合わせに横を向いた

「…ありがとう、三成」

額をつけ目を閉じる

「やっと笑ったな」

そっと目を開けば嬉しそうに笑う三成が見え、温かな気持ちになった
自分でも意識せずに笑っていたのかと思うと何だか気恥ずかしくなった

「早く眠れ、明日も早いのだろう?」

「…ああ、おやすみ三成」

「ああ」

微笑む三成を最後に瞳を閉じる

髪を梳く三成の手が心地良く、満たされたような心のまま眠りに落ちていった






←/14 /16→
←三成部屋
←BL
←ばさら
←めいん
←top