二人ぼっち
14
抱きしめた家康は昔よりも小さくなったように感じた
最低限の筋肉しかついていない体
それでも、昔と比べてというだけの話だ
普通に見れば体格のいい部類に入るだろう
「…家康」
怯えた瞳で視線を逸らされる悲しさを初めて知った
貼り付けたような作り笑いがこんなにも寂しいと知った
苦しそうに僅かにしかめられた眉
泣き出しそうに潤んだ瞳
自己防衛の為の自虐
「好きだ、家康」
そんなものは必要無い
そう言ったところで、何が変わる訳でもないと思った
全てを諦めたような暗い瞳が、全てを拒絶していると分かったから
ただ信じて欲しいと思った
私の言葉を、想いを、存在そのものを、信じて欲しいと思った
弱音を、本音を、悩みを、吐き出しても嘲ることは無いのだと信じて欲しい
「…三成」
抱きしめる腕が一層強くなり、痛いほどに苦しい
震える声で名を呼ばれる度に愛しさと悲しさが募る
「泣けばいい」
そう告げてやれば肩を震わせ怯えたように体を離した
「…私は、笑ったりしない
嘲ったり、罵倒したりしない」
困惑と恐れを滲ませ、家康がじっと見つめてくる
品定めをするような、本当に信じられるのかを確認するような視線
まるで手負いの獣のようなその姿に、家康は傷だらけなのだと感じた
目に見えることのない無数の傷を負っているのだと感じた
「…辛いのなら、吐き出せばいい」
触れようと手を伸ばせば身を硬くし泣き出しそうな顔をする
伸ばした手は取られることも無く宙を彷徨ったままだ
「……三成」
伸ばされた手を見つめ、家康が苦しそうに名を呼ぶ
「…ワシは」
紡がれかけた言葉は尻切れて、どこにも届かないまま消えていった
俯き、拳を握り締める家康を見つめていると胸が締め付けられる思いだった
誰が、何が、家康をこうしたのか分からない
あれほど眩かった笑顔を、温もりを奪ったものを許せないと思った
「…こんな、情けないワシに幻滅しないのか?」
小さく零された言葉
震える声で、引きつった顔で、怖がりながらも投げかけられた問い掛け
「…幻滅されたいのか?」
家康が決して弱くは無いと知っている
敵も味方も包み込む懐の深さを知っている
そうなった原因を知りたいとは思うが、なぜそれで家康に幻滅するのか分からない
「…っ、こんな、弱いワシに呆れないのか?」
「呆れない」
問い掛けの意図がいまいち理解出来ず困惑する
それでも必死な家康を無下にも出来ず答えてやる
「…ワシはっ、」
「家康」
家康の言葉を遮り視線を合わせる
歪められた顔は迷子の子供のようだった
「私は貴様の強さを知っている
今まで何を考え、成してきたかを知っている
…弱さを見せられただけで、好きだという感情は消えない」
「…っ」
くしゃくしゃな顔を更に歪め、家康が俯く
鼻をすする音と、噛み殺された嗚咽
いっそ大声で泣いてしまえば心も晴れるだろうにと思ったが、
何も言わずにただ震える家康を見つめた
「三成っ…ふっ、三、成っ」
落ちる涙で畳の色が変わるのを眺めた
今まで溜め込んだものを、少しだけでも吐き出せればいいと思った
家康が、これから前を向いて生きていけるように
また、信じる強さを持てるように
「私は、家康が好きだ」
「…っ、ありがとう、三成っ」
手を伸ばせば、今度は震える手で弱弱しくだが掴み返される
その手を強く握り、指先に触れるだけの口付けをした
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