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 このように音の模索を重ねてみると、私たちの言葉は文法によって自意識に限定されていることに気づかされます。言葉が絶えず自分を中心に考えるように立ち上がるのは、語彙と文法の関係がそうなるように作られているからではないでしょうか。もしそうだとしたら、何よりもまず他者を思いやるように言葉が立ち上がる語彙と文法の関係もきっとあるはずです。何としてもこの関係を見つけなければなりません。そのためには語彙や文法がどのように生まれてきたのか突き止めねばなりません。いちど言葉を解体し、音の働きとその可能性を模索している最初の現場に思いをはせてみてはどうでしょう。

音に拘るのは自意識を変えるためなのです。誰もが気負いもてらいもなく、あるがままで他者を気づかうのが自然体になれば、私たちが抱えている様々な問題はおのずと解決されるのではないでしょうか。

 

 音の本来の働きである心の絆を取り戻すために何ができるのでしょうか?

 その可能性を意識融合に求めてみます。核融合が膨大なエネルギーを生むのですから、意識融合もそれに匹敵する何らかの働きがあるのに違いありません。   

 心の絆をテーマに意識融合を体験する具体的な方法を模索していたこの時期、2012年頃ですが、タイミングよく、足利市立美術館 学芸員の江尻潔さんから『スサノヲの到来 いのち、いかり、いのり』展に出展の依頼がありました。

 そこで「あめのうた」を出展することにしました。

 心の絆をテーマとした「あめのうた」は、観るだけでなく参加し意識融合を体験できるインスタレーションです。

 最初に発表したのは、足利市の菅沼きく枝さんが主宰するJAZZ ORNETTE2012年12月24日から2013年2月6日)です。

あめのうた

 その後、『スサノヲの到来 いのち、いかり、いのり』展「第七章 スサノヲの予感 ― あめのうた タカユキオバナ 」は五美術館を巡回しました。

あめのうた

足利市立美術館 2014年10月18日から12月23日

あめのうた

DIC川村記念美術館 2015年1月24日から3月22日

あめのうた

北海道立函館美術館 2015年4月11日から5月24日

あめのうた

山寺芭蕉記念館 2015年6月4日から7月21日

あめのうた

渋谷区立松濤美術館 2015年8月8日から9月21日

 

 

 この展示に使用した剣は、人々の安寧と健やかなることを願い、母の野位牌から火を熾し、太釘を真っ赤に加熱して、剣の形に打ちだしたものです。

 ひらがなの「あ」から「わをん」四十八音と、それに対応する数が記してありますが、これは言霊と数霊が表裏一体のものだとする松原皎月からの引用です。「ん」だけは私の一存で「0」にしました。

 焼入れは布都御魂(ふつのみたま)の「ふつ」あるいは「ほつ」が物を断ち切る音を表すことから、その響きである「ふ」音「ほ」音の数霊変換した温度にしようと決めました。松原皎月によると「28」、「27」であることから、この温度内で焼入れをしました

この展示に使用した鏡の中央には直径3ミリぐらいの孔が開いています。片方の目を鏡に映して、ちょうど孔のところに瞳がかさなるように調節すると、瞳が抜けて外の風景になります。実の身体に対して鏡に映っているのは虚の身体です。その一部である瞳が現実の風景と入れかわります。虚の世界の真ん中に突如として実が出現し、混沌の揺らぎから世界が生まれる瞬間の相転移を体験することができます。

 また、この展示には鈴を使用しています。鈴は金ぴかに光って、振ると音が鳴ります。鈴は輝き鳴り響くという光の働きと音の働きを併せ持っています。一つの物のなかに二つの働きがあるということは、同じ鈴という物質のある側面は光であり、別の側面は響きであるということですから、この世界が変換と再統一を繰り返していることを物語っていることになります。鈴は変換と再統一を繰り返している私たちの世界を象徴しているのです。

 また、魂のモデルを表現するために、水玉の蓋の内に鈴をつけ、中には母音を記した水晶玉が入っています。この水晶玉は、展示された鏡、鈴、剣をさらに変換したもので、漆黒の水盤の中で停留し、体験者によって水玉の中へ移されたものです。体験者は水晶玉の母音をその段の音に変換しました。

 この音を記すための紙の剣は折られており、広げると十六弁の剣菊紋になります。剣弁にはそれぞれ七文字記すことができるようになっていました。

 展覧会の最終日には、参加者が記していった音を詠みあげるワークショップが三つの美術館(足利市立美術館 二〇一四年十二月二十三日、DIC川村記念美術館 二〇一五年三月二十二日、北海道立函館美術館 二〇一五年五月二十四日)で開催されました。

 

 

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