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言葉が絶えず自分を中心に考えるように立ち上がるのは、語彙と文法の関係がそうなるように作られているからではないでしょうか。もしそうだとしたら、何よりもまず他者を思いやるように言葉が立ち上がる語彙と文法の関係もきっとあるはずです。何としてもこの関係を見つけなければなりません。そのためには語彙や文法がどのように生まれてきたのか突き止める必要があるでしょう。いちど言葉を解体し、音の働きとその可能性を模索している最初の現場に思いをはせてみてはどうでしょうか。

音に拘るのは自意識を変えるためなのです。誰もが気負いもてらいもなく、あるがままで他者を気づかうのが自然体になれば、私たちが抱えている様々な問題はおのずと解決されるのではないでしょうか。

 

江尻潔さんの詩集『るゆいつわ』から「ことのはのる」を詠んでみます。

「ことのはのる」

てるくはの

   九(く)のは

       ことなぎ

  九十(こと)のはの

         くすひ

           ふとのる

九十百千万(こともちろ)

     おせ

 

 てるくはを名のる者が小学生を殺し、自らもビルから飛び降り自殺するといった事件に衝撃を受けたことからこの詩波は生まれてきました。

「てるくはだけではだめだ」と江尻さんが言っていたのを思い出します。

江尻さんは、この事件が起きる三日前にてるくはを詩波の中にのこしていました。

てるくはとは、おそらく輝(てる)く波でしょう。つまり光のことです。てるくはの 九(く)のは ことなぎ は、光の九のはの働きが弱まることを表していると思われます。では九のはの働きとは如何なるものでしょうか?

九のはの働きを読み解くカギを九十のはに求めてみます。九のはを九十のはのように読めば、このはとなります。九十のはに言の葉の字を当てれば、それと対になるこのはの当て字は木の葉になるかと思います。木の葉の働きは光合成です。それは光を物質(影)に変換していくことですから、この働きが弱まる事がことなぎで表されているのだと分かります。

一方、輝(てる)く波の言の葉を輝く言葉「言霊」と解釈すれば、その働きは物質(影)に名を与え輝く響きに変換することです。この輝く響きがくすひなのでしょう。

くすひを九巣霊とすると文字どおり九のはの巣です。出現した光は、影の歴史の最果てに、この巣にたまり活動します。夢が像を結ぶのも光を影に変換していく九のはの働きによるのです。しかしこの夢から発想を広げたり、伝えたりすることは出来ません。この事を可能にするには、影を再び光に変換していく働きによらねばならないのです。この働きこそ九十のはなのです。

九のはの住処、九巣霊を奇霊に変える九十のはの働きが、ヒトの内で活動するとき、日は反転し逆日となります。光が出現の源を始めて睨みます。降り注いでいたものが反転するのです。

したがってふとのるは、九のはによって立ち現れる影を九十のはによって光に変換し、出現の源に向けて太く宣る、響き返すと言う事でよいかと思います。

九十百千万 おせ は、てるくはのるに対することのはのるの願いでしょう。それは、何処までも影を光に変換し続けていってほしいと言う江尻さんの切なる思いが込められています。

逆日が帰ると言う事は、人を殺め、自らの命を絶つと言う事ではないのです。

くのはをのるものに ことのはをおくり ことむけやわす ことのはのるの愛こそ、逆日が帰る道筋なのではないでしょうか。

 

江尻潔さんの詩絵「ことのはのる」

江尻潔さんの詩絵「ことのはのる」

 

 

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