第1部「馴れ初め」編■ 甥っ子の誘惑 (おい、俺にどうしろって言うんだ?) 目の前でスルスルと服を脱ぎ捨てた甥っ子の、あまりにみずみずしい若い肢体に 俺の目は釘づけだった。 笑みを浮かべて挑発するその唇に、当時高校1年生だった俺が姉に言われるが侭、 慣れない手つきで哺乳ビンを含ませた記憶が鮮やかに蘇る。 今、その唇がそんな俺の気も知らずに「慰めてあげようか」なんて…無邪気に口にする。 俺がその柔らかな唇に何を含ませたがっているか知ったら… お前はどうする? 「と、とりあえず、そのシャツを…」 直してやるべきか、脱がせるべきか。 俺は軽い眩暈に襲われながら目の前の裸身に手を伸ばした。 ------------------------------------- 「ん?」 手にしたシャツは汗で湿っていた。こんなにクーラーの効いた部屋で…なぜ? よく見れば挑発した態度とは裏腹に小刻みに震えている体。 (ふふん。こいつは…) 俺は真相を知ってニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。 ビクッと逃げ腰になったところを、そうはさせじと腕を掴んで強引に引き止める。 「慰めてくれるって?」 グイと顔を寄せて視線を合わせると、案の定、途端にそわそわと瞳を泳がせ、 やがて根負けしたように力なく瞼が伏せられた。 頼りなく揺れる睫毛に怒る気持ちも消え失せる。 「大人をからかうなんて…困った奴だな」 可愛い甥っ子の一生懸命の背伸びに苦笑を漏らし、肌蹴たシャツを肩に掛け直してやる。 「バカだな…。こんなにしてまで何を証明したかったんだ?」 指先に触れた肩は緊張のあまりぞっとするほど冷えきっていた。 「…叔父さん…僕じゃ…ダメ?──やっぱり…ガキの僕じゃ…相手にならない?」 たどたどしい口調と見上げて来る懇願の揺れる眼差し。それが俺の琴線を刺激する。 (お前…その顔は…卑怯だぞ) 込み上げて来るものをぐっと押し止め、黙っていると甥は唇を噛んで俯いた。 「やれやれ、本当に…困った奴だ…」 長い睫毛が涙に濡れて、マスカラをつけたように艶やかに黒く光る。 「泣くと鼻水が垂れるぞ」 「ガキ扱い…ばっかして…。僕は、真剣なのに…ヒドイ…よ…」 (酷いのはどっちだ?) 近親、同性、未成年。トリプルの禁忌を犯せと唆す小悪魔は己の罪を知らぬげに グスグスと鼻を啜って俺を酷いと責めたてる。 どうやら俺に逃げ場はないらしい。 観念して掛け直してやったシャツごと、その華奢な体を抱き締めた。 バカ、鼻が詰まるとキスできないだろ。早く泣き止め」 「キス…してくれんの?」 「ああ。お前のような『困ったチャン』は俺がちょっとずつ大人にしてやる」 「……ホント?」 「いつか…この唇に哺乳ビンじゃないものを咥えせてやる」 なにそれ?…と首を傾げる無垢な唇に「大人になったらわかるさ」と俺は唇を重ねた。 第1部 .end
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