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   暖かい雪



窓辺に立ち雪に沈む街を眺めていた。


「どうした?」
気づかうような甘い声。その掠れ具合がひどくセクシーで。
僕はさっきまでの激しいひとときを思い出されて、恥ずかしさに俯いた。

「体…キツクないか?」

優しく問われて小さく頷く。

「…そうか」無理させたから心配だった。

安堵の呟きを耳にして思いきって彼の方を振り向いた。
「コレ…シャツ、借りた…」
今、僕の体を包むのは彼の着ていた白いシャツ。
僕のはきっと皺くちゃになっているだろう。探したけれど見つからなかった。
彼は咎めもせず「似合ってる」と静かに笑った。
「窓の外、何を熱心に見てたんだ?」
「雪。随分降ってるから…」

雪に覆われた街が白に染まる。生で見た初めての雪景色。

この街に来て知ったのは、雪って思っていたより暖かいってこと。

「雪なんて珍しくも…、あぁ、そうか。お前には珍しいか」
「こんなに降るのは初めて見た」
転校して戸惑うことばかりの環境の中。一人ぼっちの僕を救ってくれたのは彼だ。
何度乗っても慣れない満員電車。ぎゅうぎゅう詰めで蒼ざめた僕を支えた強い腕。
「ほら、コッチに来いよ」
コーナーに庇うようにしてくれたのが出会った切っ掛け。
それからは…
約束したわけじゃないのに彼は毎朝僕の前に現れた。
彼の腕が作る優しい囲いに守られて、それまで地獄のようだった電車通学が そんなに嫌じゃなくなった。
どうしてそんなに優しいの?
ある日僕が尋ねたら彼は怒ったような怖い顔で黙り込んだ。

次の朝。
来なかったらどうしようと不安に怯えながら彼を待つ。
時間ぎりぎりに来た彼はホームに立ち尽くす僕の腕を引いて乗り込んだ
気まずい空気が漂う中、僕は彼の変化を知った。
いつもより狭い囲い。
いつもは壁に手をつくのに、その両手は僕の背中を抱きしめる。
だんだん強く、だんだんきつく。
その拘束は僕を彼の胸の中へと閉じ込めていく。

「…ぁ…」

いつしか彼の足が僕の膝を割り、僕は彼の太ももの温かさを知った。
車が揺れて、彼が揺れて、僕が揺れる。
いつものカーブに差し掛かり電車が大きく揺れた時。
彼の足がこれ以上無いくらい僕の体に深く挿し込まれた。
思わずぎゅっと彼の学生服を掴んでしまう。

「…ごめん…」

慌てて手を放し俯く僕に彼は呟いた。


「これが…昨日の答えだ」と。


もう誤魔化しきれない熱の存在が僕達を取り巻いていた。
彼の固さに応えるように、僕の体も熱くて固い。

「…いいんだな?」

そっと突き上げられた膝に僕の両足は応えるようにしめつける。
僕も彼と同じ気持ちだった。
二人して次の駅で降りそのままホテルに入った。
全てが初めての経験。彼は戸惑う僕を導いてくれた。
雪に覆われた街が白に染まる。生で見た初めての雪景色。
この街に来て知ったのは、雪に包まれるって思っていたより暖かいってこと。
寂しかった新しい学校、新しい街、見知らぬ人達。
今、僕は雪の温もりを知ったように彼の白いシャツに包まれる温かさを知った。




「暖かい雪」.end






by.ひより様