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融 雪



俺のシャツに顔を埋めて呟く顔は雪を思わせる。
南の町から来たくせに俺よりもずっと白い肌。

電車の中で蒼ざめた顔。視界の隅に捕らえたのは一度や二度じゃない。
人ごみに慣れていないのか、何度も生唾を呑む姿が痛々しくて。
目を閉じて脂汗を浮かべ傾げた首が折れそうに頼りないのが目を引いた。

この先には大きなカーブがあった。いつも電車が大きく傾く場所。
慣れた者達は吊革を握り、ポールを掴み、足を踏ん張り、揺れに備える。
「…あ…」
掴まり損ねてフラフラしているのは見ていられなかった。
振動に投げ出され揉みくしゃになる体をとっさに受け止めていた。
「ほら、コッチに来いよ」
「…すみません…」
か細い声、聞きなれないアクセントだった。
「お前…よそモン?」
「え?」
思いきり傷ついた顔をされて、言った言葉の残酷さに気がついた。
「あ、ワリィ」
「…うん。僕、最近引っ越してきたばかりなんだ」
まだ馴染めなくて…
血の気の引いた顔は乗物酔いだけじゃない苦痛に歪んでいた。

気になった。気になったらキリが無い。
それからは毎日顔を見ないと俺の方が安心できなくなった。
人いきれと揺れる体を持て余す姿を見つける度、腕で囲った空間に放してやった。
戸惑いと堅い表情が少しずつ変化していく。
時折小さく浮かべる笑顔が嬉しかった。そんな時だった。
「どうしてそんなに優しいの?」
尋ねられてすぐには答えられなかった。

なぜ?なぜだろう?一晩中考えても答えは出なかった。

翌朝、ホームに立ち尽くす姿を見つけて腕を取って電車に飛び乗った。
泣きそうな顔を見ながら何も言えずその体を支えた。
気がつけば、吐息が重なるほど強く抱きしめていた。
抵抗しないのをいいことに無意識に両足を割って膝を滑り込ませていた。
「…ぁ…」
小さな悲鳴に煽られて熱くなる体と心。揺れに任せて知らず足を突き上げる。
大きなカーブに差し掛かった時、俺は体を強く押し付けた。
感じたのは自分の高ぶりだけじゃなかったもう一つの高ぶり。
「…ごめん…」
制服を掴んだ手の震え。俺は答えを見つけた。

白いシーツの上、何も知らないのか戸惑う顔が縋ってくる。
服の下は思った以上に白かった。ヒヤリと冷たい手触り。
そっとキスして、優しく触れて、何度も撫でる。
柔らかく、もっと柔らかく、溶けろ、もっと溶けろと熱を吹き込む。
「…ん………は…ぁ…」
のぼりつめた火照る体を強く抱きしめた。

目覚めると、空っぽのベッド。窓辺に佇む姿を見つけた。
窓の向こうに何を見ているんだろう?
傍を離れじっと注がれた眼差しの先が妙に気になった。
俺の中で独占欲が疼き出す。
尋ねると雪が珍しいのだと意外な言葉が返された。
「こんなに降るのは初めて見た」
何がおかしいのか、くすりと笑って羽織ったシャツに顔を埋める。
「そんな格好で寒くないか?」
「…今まで知らなかった…
「何を?」
「雪に包まれるって、思っていたより暖かいんだ」
心細さに怯える心、強張る顔、震える体。
穏やかな表情を浮かべる今、出会った頃の堅さは消えていた。
「そうか?…そうだな」
温かい雪もあるな…
「うん」
花を思わせる柔らかい微笑みに誘われて俺も笑った。





「融雪」.end

by.ひより様


2人の事を想像してみた。
2人はHするまで名前を互いに知らなくて、最中に初めて名前を確認して擦れた声で呼び合うんだよー。
名前なんか知らなくても、もうとっくにベタぼれちゃってたんだねとか。
この初Hは通じ合った興奮のウチにうまく最後まで出来たけれど、2回目は照れからの緊張で普通に苦労してみたりとか。
で、ヨロメキ君は繊細だったけど彼と恋して心の強い子になってく、で、もう少し育つとすっごい男前になる。
そしたら お助け君は自分のイケメン彼氏にヤキモキしてヘタレるとか考えた、そして遂にはリバシに☆そんな続きがあればいいのに
_ひより様素敵作品を有り難うございました。