いちまいの絵



2012年6月

201206
『船出 水子の海へ』

ナチュラルワトソン紙に交響水彩など
370mm×450mm

以前、兄にこう語ったことがある。
自分は制作者として、完成まで届かない作品が多く
無数に水子を作り出しているだけのような気がする。
絶対的に時間の拘束が辛い。

兄は、そんなに自分を責めてばかりでは救いが無いだろう
もっと自分を気遣うべきだと諭した。

求めるニーズを探って制作するのでも
団体の後ろ盾ある発表でもなく
自分の感動や内奥に正直に、ひたすら人生として描く
それが本当の画家だと信じてきた。

生活費が、その志ゆえに困窮するならば
たとえ絵とは異なる出稼ぎをしなくてはならなくとも
売り絵、流れ作業に甘んじないためならば
疲労や時間拘束も厭わなかった。

今まで描いた作品ひとつ一つは、自分にとって
そのときにしか描けない、最善のスピリットだと自負している。
しかし、この歳になって、今まで以上に
深くて遠くて高い彼方を感じるようになり
そこを描いていくには、今のままでは圧倒的に
時間も体力も残っていないことを痛感した。

孔子は格言で『四十にして惑わず、五十にして天命を知る』
と語ったが、57歳になろうとする今
自分の魂(人そのもの)を、すべて 絵の奥深さに
費やそうと決意した。

私は船出しようと思う。

安定のきらめきと束縛が混在する社会
しかし、バブルのように地に足が付かず
沈没する可能性すらある社会から。

けっして見通しは明るくない
とても暗い海と空だけれど
一度しかない生涯と
ピュアスピリットと志のために。

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なんだか、能書きが多くなって恐縮です。
絵を見ると、自分の中の不安やどろどろした
混在した今が描かれているように感じます。