第6話 瞳の親友 道子

(瞳の視点で)

私が玄関の門を開けることができたのは、二時過ぎだった。

父に見つからないように、そーと忍び足で階段を上がり、急いでカーテンを少し開いた。


カーテン越しに見える武は、まだこちらを見守っている。

『ついに、ホントのことは言えなかった。

この先いったいどうなるの、傷つくのはどっち 武 それとも私

始まったばかりなのに 弱虫な私

無邪気に見つめる武が 今の私に必要なの』

武が帰るのを見届けてから着替えて、目覚ましミュージックをセットしベットに身を投げた。

布団の中で丸くなって、朝の父への言い訳の言葉を止め処なく探していた 。

 

   朝、

父はいつもの通り朝日の差し込むテーブルの窓際の中央に座り、私が二階から降りてくるのを待っていた。

スポットライト照明でまだ薄暗い部屋のテーブルだけ反射光で輝いている。

窓から降り注ぐ自然光で、父の顔は逆光となり四角い顔の輪郭だけで、よく表情が読み取りない

鬼のように眉を吊り上げて怒っているのだろうか?

朝の挨拶をするふりおして、恐る恐る接近する。



「おはよう・・・ございます。

お父さんごめんね!

道子ちゃんと話が弾んで、ついつい門限を忘れてしまったの」



意外にも父はいつものように新聞を右手に持ちながらわりと穏やかな表情で

「おはよう瞳 いったいどうしたんだ こんなことは、最近なって 初めてだぞ」

「最近?」

嵐の前の静けさのような気もしたが、言葉を続けた。

「私 初めてなんたど・・・・・

『今日は どんな事があっても喧嘩しちゃいけないゃ』

ああ でも私が悪い...

ほんとごめん

朝ごはん冷蔵庫に用意してあるから チーンして食べて

今熱々のコーヒー入れるからさ・・ね 」


「二度とやるなよ!・・・・掟やぶり」

「イェッサー」

私はまるで武のようにおどけて敬礼をした。

「なにやってんだ、おまえ なにかあったのか?」

「ほんと、なんでもないよ」

「夕食の時ゆっくり話そう、とにかくお前も早く朝飯食え、学校に遅れるぞ」


(武の視点で)

それから俺が家にたどり着いたのは、夜中の三時だった。

ところどころ散らかった伽藍とした部屋の柱に貼った、グラビアガールのポスターをなぜか直視できない。

いつもならポスターを眺めてほっとしてから寝る俺なのに、

さっき会ったばかりの瞳の顔が脳裏にちらついて、その存在に苛立ちを覚えた。

顔をそむけながらポスターを無理やり引き裂くように、はぎ取った。

そして大急ぎてベットに潜り込んだ。

初デートの緊張と疲労のせいか気絶するように意識が遠のいていく

 

『ふと 気がついてあたりを見回すと 木漏れ日が差し込む森の中に俺は居た。

少し歩くと小さな湖に出くわして、その先に瞳が佇んでいた。

そばに見たことも無い角の生えた馬がいる

あれは ユニコーンだ。

「たける」と瞳が呼んだので

湖の中に入って行いこうとした瞬間 

瞳とユニコーンは渦巻いだした湖の中に吸い込まれ

気泡とともに水の色が くそまりだした。

瞳 待ってろ 今 助けに行くぞー』

 

意識が戻り、俺はベットの上でもがいていた。

夢か

手に目をやると寝汗で 濡れている。

顔がほてっている気がして、鏡を見たら

真っ赤な鮮血が、鼻から流れ落ちて床まで落ちた。

下半身も興奮状態のままだ。

『男の生理だからしょうがない』

 

瞳のことで飽和状態の頭を抱えて、三組の教室に滑り込み、吉田先生の数学1Bの授業を受けた。

「諸君、大学受験は2年制が山場でなくて忘れるな、一年生での勉強が勝負を決めるんだぞ!

よーしその事を踏まえたうえで、さっき説明した公式をつかって、この練習問題やっみよう 」


『何を言ってんだと思う

いまから生徒をそんなに締め付けて、いったいどうするんだ。

あーいやだ、いやだ  

そんなことより二組の瞳の様子が 気になってしょうがない

瞳の親父さんに、

夜中までデートに誘う武のような不良少年と付き合うなと

絶交勧告うけてるじゃないか?・・・とか マイナス妄想が頭を巡る

もう授業の内容なんか どうでもよくなってきた。』

俺は 心臓ばくばくさせながら、瞳がマナーモードになっていないことを祈りつつ、

吉田先生に見つからないように教科書で隠しながらケイタイした。

 

「瞳 授業中ごめん 昨日は親父さんに怒られなかった?(@_@;) 」

予想通り瞳のケイタイは繋がらなかった。

俺は、動揺を抑える為に 何か他のことを考えたくなった。

ふーと視線を窓際の前の席に座っている 瞳の無二の親友の月星道子のほうへ向けた。

そこには、髪をみつあみにして、眼鏡を掛けた小太りのほちゃかわいい風の道子が

吉田先生の方を見ず、窓の外をつまらなそうに眺めていた。

 

俺は 授業の終了チャイムの音と同時に、廊下に出て二組の瞳の様子を伺おうとしたが

廊下の反対がわから瞳が 近づいて来る。

昨日デートしたばかりなのに、なぜか別人のように瞳が信じられないくらい綺麗に見える。

もしかして、瞳が変ったんじゃなくて 俺のハートが恋目になったせいか?

すれ違うまでの接近距離になると、脳みそがメルトダウンしそうなくらい緊張して 

言葉が 何もでてこない

 

瞳が、真横まで近づいて、擦れ違い様に、視線がぶつかる

 大きな目を 瞬間 優しくウインクする瞳

             やられた。

俺 本気でこの女をスキになってしまった。

 

俺は自分を 取り戻し昨日の瞳が話してくれた忠告通り

周りの学生に二人が交際していることを隠す、なにげない顔を装って通り過ぎた。

『どうしょう 学校では 瞳に声掛けられないし...

焦る気持ち抑えて 外で夕方まで待ってケイタイしなきゃ』

二人の困難を救うのは 親友の道子とコンタクトとるしかないんじゃないかと俺は 思った。

 

恋は 熱いうちが命 冷静な恋ほど惨めなものはないと気づく 

俺は 持ってたギターを抱えて軽音楽部に突っ走った。

音楽室は さすがにまだ誰も人影は無く伽藍とした教室の中央にピアノだけが幅をとって、居座り薄暗く

どちらかといえば陰気な雰囲気が漂っていた。

俺は 仕方なく机の上に無造作で座り、持ってきた中古ギターで流行のJpopを歌い始めた。

とその時、道子が、

譜面を両手に抱えて、さっきの授業を受けていた時からは想像できない穏やかな表情で音楽室に入ってきた。

「どうしたの ?

なんで武君が ここにいるの   ?」

「俺 最近 ギター始めたんだぁ」

「へぇー 何で」

「別に 特別は無いよ

ただ なんとなく歌作りたくなってさ」

「武君が 歌ね

何か あったの? 軽音の部員じゃないのに 

確か ....武君は帰宅部じゃないの 」


「んー、そうなんだけど、明日から途中入部しようと思ってさ」

道子は、いたずらっぽく微笑みながら


「そんなのできるの・・軽音楽部の年間予算も割り振られたしさ

新学期からもう半年近く過ぎているよ。


活動計画も決まっているし 」

「まじですか? 俺 考え・・・甘かったかなぁ」

「 へへぇー 心配した ?

脅かしてばっかりで ごめん

ひぃひー 軽音楽部は硬いことは関係なし

楽しけりゃ  まぁ 何でもありよ

それに部長はこの なのよ

私さ、体育系ぜんぜんだめだし、勉強は並だし、いいところなんて音楽だけなの」


「そうなんだ・・・・でも俺なんて譜面も苦手だし、ギターもまだ簡単なコードしか弾けないし

ただ歌が好きだけなんだ」

「それて一番肝心なところよ・・・

好きなことに頑張らなくて、いったい何に頑張るの? そう思わない?」


「たぶんね...

でも、一年生の君がよく部長になったね 」

「三年生はこの時期もう受験モードだし、二年生は学園祭が始まる前までしか顔出さないし

この前軽音楽部解散させるかなんて話がでてしまったの

それで慌てて私が臨時部長にならされたの

と言ってもただの雑務係に近いけどね」


「へー いろいろはあるんだ〜」


「武君  ・・・話変わるど、
さっきギター弾いていたけど、音あわせている??

ねー いつ合わせた?」

「音  ええと 一ヶ月前かな

「ちっと それ音楽やる姿勢としては・・・甘すぎない

 私さ細かい事言いたくないけど、絶対ギターうまくならないよ」


「わかりました 部長殿ー ・・・とこで 部長殿、俺少し問題ありなんだけど・・聞いてくれる?」

「どうでもいいけど、その 部長殿 ってやめてくれる」

「なんて呼べばいいんだょ」

「普通に月星でいいじゃん」

「わかったょ道子ちゃんー」

とわざと笑いながら言った。

「だから違うでしょ! まあ・・・いいか じゃ 道子にして 

・・・えーと その   それで、何?問題て? 」 

「俺、学校ひけてからバイト週三日やってんだ。

それで週二日くらいしか顔だせないけど いい?」

「あっ  そうか 武君 ご両親いないだけ
?

 大変ねっ

  いいよ、働く青少年 この道子が面倒みましょう!!」

「えっ...」

「どうせ今の時期の部活なんて惰性の消化活動なのよ

軽音楽部は再スタートよ

私が部員集めて、またバンド結成してやるかなぁー

まぁ とにかく、顔出せる時、出して

お互い楽しく頑張ろうよ・・ね!」


「ん・」

「ところで 歌を作る目的は何?   ・・密かに私に興味もってしまつったから??」

「ばか 勘違いすんな お前 瞳の友達だろ?」

「へへぇー  わかったってるよ 瞳と仲良くしてるの」

「 瞳と約束したんだ 歌作るって 」

「でもさ そんな回りくどい事 ことやってていいの??

瞳と イチャイチャしたいなら、お父さんのことがあるから そんなこと、うまくいかないよ」

「うん 聞いたよ 親父さんの事 それと・・・門限とか がり勉夜小町の噂 もね 

俺 交際反対されても 頑張るつもりなんだ」

「武君 本気なのね」

「うん 諦めない」

「じゃ・・・私も本気で 君達の交際 味方してあげる

 

第7話 反抗

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