第5話 二人の約束

 

「     大丈夫 

・・・ねっ 映画よかったねっ」

瞳の上ずった声が、エコーした。

「?・・ぅうん」

瞳はベンチからすーと立ち上がると また背中に手を組んで、

考え事するように俺に背を向け二三歩遠ざかって、振り向き

凛々しく両手を広げそして祈るように手をあわせて・・・

「たける 映画からもらった感動忘れたくないね?」

「うん」

「今日 私達は この映画を選んだわ

つまり 他のことを捨てたのよ。

ね 映画の続き やらない?」

「続きって ?」

「何でもいいけど 映画みたいに 二人で出来る事」

「瞳 ピアノ弾ける?」

「少しね でも7歳までで、習うのやめたから

最近は あんまり弾いてない」

「7歳までねー

上出来じゃん 

俺なんで 音符もろくに読めないよ

でも ゲッカヨ買って ギター弾き始めたんだ。」

「すごいー」

「全然 すごくないよ 

まだスリーコードぐらいしか弾けないけど... ね 歌やってみないか?」

「いいね でも私 ギター弾けない 〜」

「ピアノあれば 何とかなるよ」

「そうかな ? 事情あって

て言うか・・・誓ったの  あぁ〜訳は話せないけど、クラシック以外弾かないことにしたの」

「??

そうなんだぁ じゃっ 映画みたいなJPOP好きじゃないの?」

「 iPodで毎日聞いてるよ」

「何それ... 意味わかんないけど いいや 理由は聞かないことにする。

           気になるけど

中学の時は何か楽器やらなかった ?」

「えっ ?? ・・・・・・・・・・・     わかんない」

「何 わかんない どういうこと???」

瞳は眉間に皴をよせまま黙り込んで 答えなかった。

何か言えない深い事情がありそうだ。

「   まぁー無理にピアノじゃなくてもギターにしたら?そしたら問題ないと想うけど?

きっと瞳だったら一週間で 上手く弾けるようになる気がする。」

「そんな自信ないよ 〜でも やってみる。」

「わおー それは よかったぁ〜

・・

後は この青春万歳ハレルヤ大作戦を成功に導くには

君の、つまりその...アドレスがわからないとね。」

瞳の顔を見ると、学級委員長のポーカーフェイス顔に戻っている

『しまった。ふざけた言い方だったかな?』

と内心俺は悔やんだが、瞳は、カンガルーポケットからLスマホを取り出すと

また子供のような顔で微笑みながら

「たけるの教えて」

れは今時めずらしくまだ二つ折りの携帯だ

気が引けて そのぶん携帯をポケットから取り出すのにてまどってしまった。

アド交換している時も 胸がどきどき高鳴って緊張してしまう

「データ送信作戦は完了よ」

瞳はピースマークを出してにこやかに余裕で、ウインクしている

それがなぜか俺には悲しかった


「了解」


俺は、得意の一回転してガッツポーズしてピースマークをだした。

瞳は その瞬間を逃がさず、Lスマホで写真を撮ってくれた。

「ナイスポーズ!

この写真私のベットの脇の小さな箪笥の中に

仕舞い込んで夜中にこっそり見るわ」

「うへー まいった

それって・・・そうとう照れるなぁ

ところで 瞳はやれるような女の子の友達いないの?」

「  ・・・

たけるのクラスに小学生からの友達で 道子ちゃんがいるわ

彼女は軽音楽部よ」

とその時

会話を引き裂く腕時計のアラーム音がポケットの中で鳴り出した。


「いけね 〜もうこんな時間

お嬢様 シンデレラタイムだよ・・・

夜遊び不良少女から学級委員長に戻らないと.」

瞳はまた眉きつく上げて囁いた。

「そんな悲しい言い方しないで、遅くなったのは承知で ここに居るんだから。」

「でも家の人が 心配していると想うよ」

「そんなの 心配しなくていいよ」

 

「瞳 それ違うんじゃない

君は中三の時 記憶喪失になったなら、

普通さぁ

親なら気になって

帰りとか気にすると思うよ」

「やっぱりね たけるも私の話し疑ってるのね」

「ばかー

違うって 信じてるよ

俺誰にも 言えなかったけど お袋が

昨日の記憶を無くすような状態になっ・・・・

いや やっぱり話せない」

「どうしたの 武君 

頭抱えて俯くなんて

辛そうね」

「いいんだ 気にすんなよー

それより やっぱ

こんな時間なんだからいいとこのお嬢様は帰んなきゃだめさ


俺のような 貧乏人の落ち毀れと付き合ってたなんて バレたら

大変だぜ」

「またそんな言い方 もう・・・ 関係ない〜てば」

「わかってないなっ 

おーー俺 

両親いないし

「私だって 片親なのよ」

「えっ ほんと 何で?」

「母は 私が小さい時癌で死んじゃったの」

「...ごめん」

「     いいの 」 

 

「....なんか 話し続けにくくなったけど...

・・・・・   君の親父さんは、

ブテックのチェーン店オーナーで商店街会長でこの学校のPTA会長だろ

それに県のPTA役員で

ようするに大物なんと思う

君と俺じゃぜんぜん生活環境が違いすぎる。

ぶっちゃけ 俺なんかに近づいた本当の理由は?」


 

ひとみは その大きな瞳を隠すように薄目で言葉をかみ締めるように、語り始めた。

「私が三歳の時に死んだ母のこと もっと話さないとね

 

 

私の母は ね

成り上がりの父が、土下座して結婚を申し込んだくらいの男にモテモテの女性だったらしいの。

そんな母は結婚してからは父の事業拡張を影で支え庭では寸暇を惜しんで家事に専念した。

良妻賢母の母だったらしいの

でもね・・・

 

それは上辺の母の姿だってことが、

私が中学一年の時 送り人不明の私宛の手紙で判ったの


(手紙の内容)

母は父と結婚する前に、大学時代に好きになってずーと付き合っていた別の人がいたの

その人は大学教授でしかも独身主義者で 結婚を前提としない秘密の恋だったらしいの

ある日その恋人が突然 交通事故に遭遇して死んでしまったらしいの

母はショックで寝込んで 私みたいに記憶を無くしてしまって

明るく快活だった母は別人のように大人しい物言わない女になったらしいの

 

その後 今の父と結婚したらしいの

結婚してから日を追うごとに無くした記憶が蘇り

そのことを父に言えなくて

誰にも相談できない この悩みをついに母は決心して

幼い頃からの無二の親友にありのまま打ち明けたの

それが この手紙の送り人なの

そしてこの手紙にも書けない重要なことをお願いしたらしいの


 

・・・・・

記憶喪失それは 母から受け継いだ血の負の遺産

私も 母のそんな血を 受け継いでいると思うと 

         怖いの たけるー

もう 死にたいくらい いやなの....

 

父は結婚前は 母の過去のこと知らなかったので

そのことで、ずいぶん悩んだみたい

そんな父が母が亡くなっても意外な事に再婚の道を選ばなかったの

父はそれから、母のことを忘れて吹っ切りたかったのでしょけど

私の英才教育に没頭したの

 

ピアノ、クラシックバレー、英会話と四歳頃から習わせられたの

おまけに小学生の六年からは家庭教師まで付けさせられて」

「・・・映画みたいな話しだね

瞳 考え方を変えれば・・・その

・・・・

羨ましいよ そんな熱心に教育指導してもらって

俺なんかお袋のせいで、ほとんど愛の無い自由さ」

「え?  私を慰めているつもり?」

「違うよ

俺の家は ホントに 何でもありの 怖い放任さ  」

「よく判らないけど それって言い過ぎな・・んゃない??」

「・・・うん        確かに育てて貰ったし愛情はあったかも、けど間違っていたのかな」

「私の父も 同じよ

愛はあっても、それは本物じゃないかった。

私の日常生活は父の期待の壁で、塗り固められたの

だから心を通わせる友達ほんとうに少ないの、でも私は父に負けたくなかった。

家庭料理は小学生になってからは ほとんど自分で作ったし

そんな私に父はまたもや試練を与えたの。

門限よ・・・習い事を含めて夜8時までの帰宅よ

高校に入ってやっと10時に延長してもらえたわ」

「10時 それって普通じゃないのかな?

瞳はまだ二十歳前のお嬢さんだよー」

 

瞳は悲しそうに俯きだす。

「たける 私がクラスメイトから何て呼ばれているかわかる?

隣のクラスだから わからない?」

「知らない」

「がり勉夜小町」

「おもしろい、綽名だけど意味わかんな?」

「その意味 驚かないで...

昼間は友達作らず机にかじりつくがり勉で   夜になる誰とでもデートしまくる女っていう意味」

「え それって マジ?」

 

「マジじゃないよ 私...今は武以外と付き合ってないよ

けど...けどね

母のことが あるから それに記憶喪失のことも

自分に自信がなくなってくるの...

瞳は 暫く困惑した表情で視線を合わせなかったが、やがてゆっくりと視線を 俺に戻した。


「私は 父のためにあまりにも友達付き合いが少ないから、変な噂が囁かれるほど、クラスメートから嫌われている気がする?」

「 瞳 頭良過ぎて 考え過ぎだよ

いいじゃないか 夜はもてるっていう噂なんだから」

「もう ばかー 何にもわってくれない」

「そうくると想ったよ 

・・・信じるよ

噂なんかよりも 肝心の親父さんと話しあったら??」

「やっぱり 身内のことは本人じゃないと

わかんないよね...いいよ

もう

私は目覚めたのよ、もう父ばなれよ」

一瞬二人は緊張した雰囲気になってしまったが、俺は胸に手あてながら

「へー   ・・やっと乳ばなれなんだ」

「武君 そのな駄洒落ばかり言ってると、お尻蹴るわよ」

 

瞳は笑いを堪えた顔してくれた。

「でも・・・・ほんとうに父には気お付けてね

連絡は携帯必ず使って

父は私の友人関係を密かにチェクしているの。

自分が気にらなければ、交際拒絶宣告を言い渡す人なの

でも今日だけは・・・私が許される嘘をつくから心配しないで欲しいの」


「心に留めておくよ」


俺は腕時計をまた確認してから、

瞳の正面に立って、手をさしだした。


「送るから   」

瞳は俺の手を握り返して囁いた


「  うん」

 

来た時と同じように、瞳の手を引っ張って地下商店街の出口に向かう


階段を駆け上り地下の出口のドアを開くと、

 

ほてった体に冷い夜風が、吹き込んできた。

 


俺は足を止め、

 

澄んだ夜空に瞬く名も知らぬ星を見つめた

同じ方向見ている 瞳は        「綺麗だね」

とだけ呟いた。


落ちてきそうなくらい大きく見える卵黄色の満月が、一際明る光っている。

 

俺は、瞳といっしょに自転車置場まで行き

瞳は赤いフレームの自分自転車で、真夜中の公園を横切ろうとした。

誰もいないし 並んで、走ろうよ 
..」

俺は 頷いた並んで瞳といっしょに公園の狭くて敷石でデコボコした道を 歩く早さで自転車を走らせた。

 

「この道 私の明日みたい 武っ・・それでいいの?.」


瞳は続けて何か言いいたげに、瞬間 俺を覗き込む眼差しでいたが

目そらして悲しげな顔して黙り込んでしまった。

俺は 聞き返す言葉が見つからずに 並んで走ることだけを考えた。

瞳の家の近くの照明が明るい歩道で、へダルを二人止め

俺は、囁くような小声で


遅くなった事 俺直接親父さん合って謝ってこようか?

「・・・そんなことしたらかえって逆効果よ」

「そうか..瞳がそう思うなら 
そうするよ」

「ありがとう」

「約束忘れないでくれよな」

「歌の事ね」

「武にさっき教えたスマホの番号ね二台目のスマホなの

このスマホの銀行口座はね私の名前じゃなく「月星道子」になっているの

どういことかわかる? 」

「そうか 君の使ったそのスマホの請求書が君の家じゃなくて

月星道子ちゃんの家にいっているてわけ」

「そういうこと、電話局の毎月の請求書を見ただけでは私の連絡先が父にはわからないようにしたの。

その代わり毎月、月星道子ちゃんには手数料も含めて現金を手渡しているの

今日のデートも道子の家いることにしてあるの

道子ちゃんには父から聞かれたら自分の家いたと口裏をあわてるようにお願いしてあるの

つまりアリバイ作りね」


瞳は手のひらを俺の顔に突き出して

「ハイタッチして・・・」

と先生に甘えるような目つきで言った。

「それっておかしくない でも まあいいや」

俺は瞳の要求通りに頭の上で瞳の手に触れようとした。

無防備になった瞳は素早く近づきハイタッチしようとした。

瞳の柔らかな胸が俺の胸に触れて 体温が伝わり息遣いを感じて

瞳の切なさが判ってあげれる気がした。

でもほんとうは そうじゃなかったかもしれない?

憧れ と 止めることができない欲望が交差して

俺は そっとキスをした。


第6話 デートの後

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