第4話 初めてのデート

 

ついに指折り数えて、待ちに待った日曜日がやってきた。

俺は約束の時間の10分前に「出会いの広場」に到着するように

家を出て自転車で行くつもりだったが...

ところが、いざ予定の出発時間の二時間前になって、キャリアバックを取り付けに行った時

後輪がパンクしているのに気が付いた。

泡を食ったようにあわてて、近所の顔見知りの自転車屋に修理に持って行き

出発予定時間の20分過ぎになってようやく、修理完了した。

足が体から外れくらいの力みで、ペダルをこぎ続け、ぎりぎりの7時に約束の場所に近づいた。

通学に使う大切なはずの自転車を斜めに止めてしまっても整列させるより、腕時計を見て、そのまま自転車置場に放り投げた。 。

陸上短距離選手のように 、走りまくり地下街に入る階段を二段づつ転がるように降りる。

『あぁー 神様どうか間に合いますように〜』

地下商店街ローサ に入って「出会い広場」までアクション映画の追跡シーンのように人を掻き分け

息せき切ってたどり着いた。

ローサの大きな柱時計はもう7時11分を指していた。

ベンチに恐る恐る視線を向けると、人ごみの中、にこやかに手を振っている瞳が居た。

瞳は、何と大胆にも 胸元が少し見えるくらいの黒のタンクトップの上に、

鮮やかで上品なウルトラマリンブルーを思わせる色のヘンリーネックパーカーと

下は カジュアルスニーカーとたぶん自作であろう 足元の裾に小さな薔薇の刺繍入りブルージーンズを着ている。

そして、驚いた事に、学園祭の準備の時に使った飾りつけ係りの黄色いニコニコバッチを

パーカーにさり気なく付けている。

それが、妙におしゃれだと思えた。

学生服の瞳しか知らない俺は、彼女の個性を再認識させられた。

「ごめん、ごめん自転車パンクしちってさーあ」

「えー それで」

「修理してさ、どうにか」

「私も、自転車で来たよ ねっ、 額の汗すごいよ〜」

瞳は、ハンカチを取り出し、汗を拭ってくれた。

遅れたことを怒りもしないで、優しさで何も言えなくなった。

二人は、小走りで映画館のあるビルまで歩行者天国経由で目指した。

 

映画館の扉を開けると制動なモノトーンが、周りを覆い

中央だけが何万色もの色の光が交錯して躍動の別世界を作っていた。

満席だったので、二人は前の方の中央で座り、星空を見上げるように、かぶりつきで視線をスクリーンに集中させた。

二人は映画の物語の世界へと引き込まれていく

映画のラスト近くになり俺は自分の目が潤んでいるのに気が付き

隠そうとしたが、止まらない隣の瞳を見ると頬が光っていた。

二人は入った時より重く感じられる映画館の扉を開け深夜の町に戻った。

 

想定外の感動に、映画の後は どうしょうかと考えていたが

映画の余韻だけが頭の中に残って他の事はどこかに吹っ飛ばされたように空っぽになってしまった。


言葉が見つからない。

瞳も無理に喋ろうとしない。

安易に口に出すと今 映画から貰った大事なものが 壊れてしまうことを気にしている感じだ。

同じ感動で目を潤ませているのかと想うと、なんだか映画を見る前よりも

長い間付き合って心を許せるガールフレンドのように親近感を覚える。

ほんとうに自然に二人は手を取り合って、きっと映画の中の恋人同士のように暫く無言で歩いた。

俺は、瞳の手を引っ張り、待ち合わせの地下商店街へと引っ張り込んだ。


(瞳の視点で)

『私をローサに連れ込んで 何をしたいの武』

時折振り返り、心の中で 自問する。

『 このまま二人の関係を進めても、私は許されるの?

いつの日か

武の気持ちを 確かめなきゃならない日がくるかも....』

武はまだ記憶喪失に纏わる私の悲劇の秘密を知らない

無邪気に微笑む武の顔を見ると私ひとりだけ芽生えた恋心を台無しする自責の念にかられるのかなぁ??。


(武の視点で)

日曜日の真夜中の地下街は店のシャッターがほとんど降りて

静まりかえった無人の三国トンネルのようだ。

すべてのものが、動き出す月曜に備えて休息している。

薄暗い舗装路を歩くと足音だけがエコー音でコンコンと響いた。

ここは別世界だ俺達を見つめているのは シッターを閉め忘れたショーウィンドのマネキンだけだ。

昼間にぎわったはずの中華料理屋はその匂いさえ消えうせている。

静寂だけが満たされた空間の中を二人は足音のエコーを楽しむかのように、

唇を開かずに、手を握り合ってしばらくゆっくりと歩いたが..

瞳が 煌びやかな流行のファションに身を包んだマネキンに見入って

「 素敵ー」と呟いた。


反対側からの照明のせいで、そのマネキンが収まっているガラスに反射して

オシャレな瞳と普段着のGパンとジャケットを着込んでいる自分の姿を鏡のように薄く映し出した。

『俺のような生い立ちの男が 瞳のようなお嬢様育ちの女とこれから上手く交際を 進めていけるのか?』

ふと そんな想いがよぎって俺の脚を止めた。

『いけない 大事なデート中なのに こんな落ち込むこと考えちゃいけない』

俺は 瞳がびっくりするようにわざと地面を思いっきり蹴って

「ね 瞳 足音のエコーが カッコイイと思わない?」


瞳が、微笑みながら頷く

「そうね」

俺は ある閃きに襲われた。

それは こんな音響効果の空間で、ブレイクダンスを踊ってみたら少しぐらいステップを失敗しても

クールに決まっるんじゃないかという思いだ。

人前でストリートダンスなどやったとはなかったが、バイトが終わって帰宅すると

録画したお気に入りのダンス番組を見ながら、面白半分にストレス解消とばかり一人根暗に踊っていた。

『どうせ俺の人生なんて、先が見えてるころくなこと無いさ。

若いうち思い切り馬鹿やって楽しんだほうが勝ちかも』なんて退廃的な考えが過ぎる。

 

「ブレイクダンスの真似事するから 瞳 ちっと手拍子お願い」

 

一瞬 瞳は 意味が通じなかったのか唖然としたが、

ロボットダンスしだした俺を見て 安心したように微笑みながら手拍子してくれた。

俺はブレイクダンスの基本技のジャルストンとツイストを混ぜて

瞳を中心に円を描くようにステップして見せた。

一周して瞳の正面に戻った時 足を止めて、そこで6歩ゆっとりめにステップした。

「どう、決まった?」

「うーん すごぃーょ」

「マジ〜」

「今度は、君の番だよ..何かパフォーマンスやってみる?」

「武みたいに踊れないけど...見てて...この歩き?」

瞳は、骨盤をスウィングさせながら、手を大きく振ってローサの道幅いっぱいに優雅に歩き出した。

どこかで、見たことある独特の歩き方、反対側の端まで背中を見せながら歩く

ショーウィンドーのマネキンが見守る中、スカートを傘のように広げてターンして俺の方に迫ってくる。

その顔は晴がましく自信に満ちていた。

俺の目の前で肩のラインを傾げて見栄をきる

「わ わかったモデルウォークだ」

「教えて・・あげる、ふぅふーぅ、

それ、キャット・ウォークって言うのよ」

そう言いながら..

Lスマホを開いて、待ち受け画像を見せ付けた。

「可愛い人だね 憧れているだ ? 」

「憧れっ ・・ん  そうかなぁー

ァションに興味あるから自然とじゃないかなぁ。

この人 女性ファション誌のモデルとか他にいろいろタレントしてるの。

そういえば、ヤンジャンとかでも出たことあるみたい。

ね 見たこと無い?」

「うーん 俺 そういうの・・あんまり興味ないから」

「ん 男性誌よ ?つまり その  女の子とか興味ないってこと」

「  あるょ 

ただその本は読んだことないって事だよ

じゃなかったら 瞳とこうやってデートしないし・・」

「そうよね ・・・」

「 そのモデルと スタイルなんか同じくらいじゃない?。」

「うそ イヤーだ 全然違うよ

私、そんなにカッコよくないもん〜

それに年上で大人だしっ。」

「へーえ 女の子って憧れの人でも

そんなふうに年の差のこと気にするんだ??」

「        よかった」

「えっ 何が??」

「んんー  何でもないよ」

「じゃ憧れと 同年代くらいの子の仲間感とかライバル意識やなんかと

別物って感じなのかなぁ」

「・・?

何言っての??

さっばりわかんない。

なんか、理屈ぽいこと言って、そんなにマジで悩せないで、

そいうとこ たける君って、まぶいね」

と瞳は 一歩俺に近づいて目線を合わせる。

それから両手を後ろ手にして組んで体の長さ程の八の字を描くように

ゆっくり歩き、自分の足先を見つめながら時々、俺の方に視線を返しては頷いた。

それは 多感で夢多き女子高校生の素顔だったと想う。

 

瞳はどこか思案顔して俯いたけど

決意したように顔を揚げて

「武・・喉乾いてない?...ジュースでも飲まない」

 

「賛成 !」

 

「ところで 突然だけど・・武ー足速い方?」

「何で?」

出会い広場までかけっこしょう!?

・・たける    負けた方がジュース代 払うことにしない?」

「えっー、 瞳いいのか? 俺こうみえても結構足速いぜ」

「 ほんとかなー?」

「言っな お嬢様 俺について来いよっ 」

「じゃースタートラインについて

と言って瞳 パーカーを脱ぎ捨て

女子短距離競争のアスリートのような格好になった。

おまけにタンクトップだからノーブラで走る前から胸元の谷が見え隠れしている

目線をどうしていいか分からなくなるくらい 艶やか胸と肌だ。

これでは 走る前から気が散って負けている

お嬢様育ちの瞳に負ける訳はないと気を引き締め直して

中盤から全力疾走の構えで走り出したが...

初速は俺が早かったが、10メートル位で瞳が追いついてきて並んでしまった。

焦ってラストスパートを掛けた時には もう遅かった。

瞳はウインクする余裕で抜き去り

出会い広場までくる手前で、俺にカモシカのよう引き締まった足と

膨よかで曲線美の綺麗なお尻の後姿を見せつけてゴールーした。

 

『信じられない お嬢さんの瞳の勝ちだ何んて』

「凄い・・・瞳 ハヤーッ」

「どう わかった私の実力」

とスラリとした右腕を肩まで上げて力こぶ?を作って、得意げな瞳

「わかったよ しょうがないあの自販で買ってくるかー

 瞳 ー  何を飲む?」

「ライチ お願い」


「ライチ そんなの無いに決まってるじゃんか・・・・俺を困らせたいな、悪い子だ。

二番目のリクエストは?」

「 ...だったら普通のオレンジジュースかな」

こっちの方の結果は 俺の予想通りライチなんて高級なジュースなくて

小さな安堵感が、先ほどの負けのショックを幾分和らげた。

二人は買って来たジュースを片手に、もう片方はまた手を繋いで、噴水の端にあるベンチに腰掛けた。


俺は呼吸を整えてからオレンジジュースを一気に飲み干し、空き缶を高々と頭の上に放り投げた。

弧を描いて落ちてくる空き缶を 瞳は横からさっと手をだして奪い取った 。

「まいったね!!   瞳って  運動神経いいなぁ」

「私  さっきはもっと早く走れたわ」

「へーぇ 言うね」

俺は思わす゛瞳の体を下から上になめる様にじーと見つめてしまった。

股下がずいぶん長くてほんとにモデルのようだ

汗で、てかった胸に目やる。

形のいい柔らかそうな胸は恐らく Bカップ以上あるかもしれない。

その下のキュッと締まったウエストと絶妙のバランスを保っている。

瞳は俺の視線に気がつき 恥ずかしそうに俯いた。

 

俺は自分でも厭らしいと思える目で瞳の体だけを見たかもしれない。

瞳は 俺の視線から逃げるように

慌てて抜き捨てたパーカーを取りにいった。

ヤバイ 自分の顔は どんなにいやらしかったかと後悔した。

 

戻ってきた瞳に さりげなく腕時計を見ながら

「映画オールナイトなんで、終わるのがずいぶん遅くなったなぁー。

帰りの時間 大丈夫か?」

この質問に瞳の方が、微妙な表情で頷いて何か焦った様子だ。

 

第5話 二人の約束

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