第2話 潮風が運んだもの

界は 冷たい横風に負けない強さを保つ為に

減量中のボクサーの気持ちをイメージしながら

心に握り拳のファイテングポーズを身構えて

湧き上がる熱を 振りまき走り続けようとした

いつもの時間 いつもの場所に たどり着いた時

あの短パン美脚少女の姿は 無かった

「当然 だよなっ

こんな日に 飛ぶ人間なんて

俺位だよなっ・・・」

体から熱が 急に逃げ出し 界は心で風の冷たさを感じた

折り返し地点で ゆっくり180度 旋回して

50メート進み、

 念のために

振り返ってあたりの様子伺った

すると あの折り返し地点で、 人が倒れている

心の熱のもう一つの理由に気がついた界は

呼吸を忘れて

倒れている人に駆け寄った 

その人は まさかの あの短パン美脚少女だった

「だ・・大丈夫ですかっ」

反応が 全然ない

熱を帯びた震える手を差し伸べ

界は 短パン美脚少女を 抱き起こそうとした。

意思を失いかけている少女の体は 

水枕で繋ぎ合わせて作った人形のように重たかったが

触れた腕は 異常な熱をおびて界の皮膚に伝わってきた

少女の体温は 界の平常体温を 遥かに超えていた

界は少女に顔を近づけて、

どうしても呼吸しているか確認しなければならなかった

界のおでこと少女のおでこが接触するぼと寄ると

苦しそうな吐息を微かに感じて

界は暗闇の光のような冷静を取り戻した

抱きかかえられて、界が冷たい強風から 身を挺して守ったお陰か?

少女の意識が 戻り始め

薄目を開け、小さなうめき声を 弱弱しくあげた、

意識が不完全のまま

いきなり激しく咳き込んだ。

界は 慌てて少女のおでこに自分の手をあてた。

 

「お嬢さん

大変な 熱です

風邪ひいてるのに 無理して走ったんですか?」

 

短パン少女は 喋ることが出来ず

苦しさと恥ずかしさが混じった不思議に顔で

ただ頷いた

その表情や仕草が 世の中で興っている

大人の卑怯で傲慢な戦略的な日常の戦いからは

およそ無縁な

あまりにもあどけなさを残していたので

逆に短パン美脚少女の体が今

深刻な事態になっていることに気ずかされた

界は少女を抱きかかえたままスマホで救急車を呼んだ

救急車は10分も経たない内に

回転ライトを灯しながら,けたたましいサイレンとともに

救急車は到着して

中からヘルメットかぶった隊員が駆けつけ

さっそく少女の意識確認して

意識が不完全ではあるが戻っている事を

確認して 和らいだ表情みせて界に

業務上の質問を手早くして

少女を狭い救急車の中に 運びこんだ

「すみません 病院まで 同乗していいですか?」

「いいですよ でもお仕事は・・・」

「 大丈夫です 仕事は10時半からなんで」

「そうですか ではどうぞ」

界は道義的責任を感じて

いっしょに救急車に乗り込んだ

窓がカーテンで仕切られた精密医療器具がコンパクト埋め込まれ時計だけが

妙に大きく感じられる車内は

息苦しく 

狭いところが苦手な界は

数秒で自分の行動を後悔した

救急指定病院に着く直前に

隊員の応急措置のおかげもあって

少女の意識はほぼ完全に戻った

「・・・・ご

迷惑を 掛けて

ごめんなさい

留美 といいます

 

 

「よかったっ

そんなに熱があるのに

こんな 風の強い寒い日に走ったりして

大人は いくら好きでも

仕事とか・・・いろいろ

あるから

健康状態を優先するけど

君は 薬が苦手

それとも

病院へ行くのが 嫌なの?

ああ ごめん

攻めてるわじゃないけど

俺 最近

海岸通りで君に逢うのが

楽しみなんだ

挨拶 爽やかで

一日のバイオリズムが快適になるんだ

だから

おせっかいだけど

元気に続けてほしいから

・・・

ところで・・・

 

家の人よんであげようか」

「私の

両親は 今 秋田に居ます

私 

・・・私こう見えても

一人暮らしてるの

顔が 童顔で

見た目は 中学生風だけど・・・

私 浜の五十嵐キャンパス の大学生3年生なの」

 

「えっ 大学3年生

まじすかっ

じゃ 21才

俺と 同い年じゃないですか

またまた ごめん

ほんと

偉そうに 言っちったかな?

あっ

あーのー

俺 界(かい)っていいます

21才で「石南花」で 美容師やってまーーす。」

とわざと無邪気に子供っぽく答えた。

 

それから二日して

留美は病院を無事退院して 夕方界の「石南花」にお礼の挨拶にきた。

「先日は ご迷惑を 掛けました

・・倒れたのは

やっぱり 風邪で体が弱っていたのに

無理したからだって

お医者さんから 界さんと同じように叱られました

私 やっぱり 自己管理できていなかったと思います

もっと 大人にならなきゃと 猛烈に反省しまくりです」

と 一段と際立った 爽やかさを笑顔振りまきながら語る

界は 瞬間

恋人の夏美の存在を 頭から全て投げ捨てて

留美の笑顔の世界に没入していた。

留美は 救命してもらった感謝の証として

界の心を自分側に引き込む起爆剤を 後手に隠して用意していた

子ネコのように 純心な目をちらつかせながら界に 少しづつ近づき

手品で鳩を飛び立たせるように

留美は両手でお礼のプレゼントを界の目の前に突き出した

はい これっ

界さんに お礼のプレゼント」

「 これは・・・・?

なんですか 留美さん」

「 へへんっ

何でしょう

いいから

そこ場で 開けてみてっ」

「おっとー

運動靴じゃん

しかも 軽そうー」

「そうなの

ランニングシューズです

きっと この色が 界さんに似合うじゃないかと思って

サイズは 身長から想像して買ったので

もしかして あわないかも・・・

駄目なら また 違うサイズのもの勝手に用意したいので・・・

出来たら 即 履いて もらえませんか?」

「そっかっ

いいよ

じゃ

ちっと待って  履くからっ」

界は小箱から青色に白の三本のラインが入ったシューズを

取り出し 壁際によって片足づつ慎重に履き心地を確かめた

「サイズ ぴったしだょ

それに 色も気に入ったし

 

ほんと

ありがとう」

 

「よかったっ

気に入ってもらって

嬉しいです

私 賭けたんです

もし シューズが

ピッタリで 界さんが 喜んでくれたら

私と 友達になってくれるって 」

「君 何訳のわからないこと言ってるの

ほんと 君 大学生?

考え方 子供以下だけど・・」

「失礼な 言い方 ね

界さんも けっこう子供じゃないですか」

「まあね

そうかもな

俺 最近まで アル・・・・

おっと そんなことは どうでもいいかっ

どうせ 子供どうしだから

朝だけ 友達になってあげるよ」

界は 大人としてきっぱり付き合っている夏美のことを

最後まで留美に告げないで帰してしまった。

心が緩んで、界は そのまま留美からの青いシューズを履いたまま仕事をしていたが

運命の悪戯か・・・それとも朝美の怨念か

営業終了時間ぎりぎりに夏美が 連絡しないで現れてしまった

どうしたの その靴」

「ああっ これ

朝の ランニングで 履き替えるの忘れちゃってさっ」

界は 前髪に手を当てて 照れたように答えた。

その仕草は 夏美が 初めて「石南花」に来た時と

同じだった。

二人の交際が始まって お互いのことが判り始めてらは

界は 前髪に 手をやる習慣が無くなってきた ことを夏美は

最近 寝る前に界のことを 想って 気にかけていた。

界の顔色を 伺っているいちに

デート中に 無くなった朝美さんの話を した時だけ

また 前髪に手を当てていたことを 咄嗟に思い出した

夏美は女の直感で

界の手癖が 自分以外の女に興味を持っている証だと

切なく感じ取った。

 

夏美は何としても、界の心に入り込んでいる見知らぬ女の正体を知りたかった。

どうすれば いいか

話は簡単だった

朝の海岸通りに、界と同じコースを 同じ時間帯に ジョギングすればいいのだ

たが、難しいのは ここからだ、

それをするのは夏美以外の夏美の使者でなければならない

「そんなこと 頼める友達なんて

もう 居なくなってしまった・・・

お金も 無いし・・・」

夏美の現状の交友関係は壊滅的だった

女番長の時の女友達は卒業期に解散して

一人も居なくなった

夏美は この状況では 当然のごとく龍に相談するという方法も思いついたが

界の親友の龍に、そんなことを お願いする事は

人の道に反するかもしれない

・・・それ以上に龍の人柄のことが気になっている自分を抑え

夏美は自分の中の掟に反した事は しない女だったので

それが 嫌だったし

界のことで動揺している姿を龍には 見せたくないと心に理由付けした

そこで迷わず思いついたのは、

コンビニで最近友達になった

健のことだ


(夏美の高校卒業で 就職してから出来た友達 健と純について)

健は夜の10時から朝の5時までを 担当する深夜帯の仕事仲間であり

大学1年生で夏美と同い年で

同じコンビニ店のアルバイトをしていた

直接 話す機会は理屈からはチャンスは稀のはずだったのだが

店長の独自の発案で、勤めている従業員同士の横の繋がりを深める為に

月に一回 お客さんの疎らな時間帯の朝の5時に

従業員 全員集めて10分間の朝礼と

今時 どこでも皆、給与振込みなのに

給料を現金で手渡ししていた。

その時、健と知り合い、不安でいっぱいな界のことでもアドバイスを貰っていた

なぜ、健に相談したのかといえば

信じられないことに、朝の5時の朝礼に 健は自分の恋人の純を連れてきていた。

健もすごいが

ついて来る純も たいした女の子だと感じていた

店長も それを許し

健は男らしく堂々と恋人の純を紹介した

その優しさが、夏美の憧れだった 

そして理想のカップル像でもあった

 

純は健と同じ大学生だが健の居る経済学部ではなく

教育学部に在籍していた

純のもうひとつ顔は

理学部の教授の講義の実験に使う薬品や試験管の整備など

講義の前までに準備し講義の補足もしていた。

所謂、大学教授の助手として働いていた。

つまり学びながら働いていた。

純は才女で実験に必要な毒物や危険物などの各種国家資格を取得していたが

それほど働きながら学ぶことに執着していたのは

当然のごとく経済的理由からだった

純は 自分の親の名前を知らない 施設育ちの逆境孤児の逞しい才女でもあった

そんな純の黒髪を三つ編みにして白衣を身に纏い

教授をアシストする姿は 学生の間で評判を呼び

春のミスキャンパスの推薦を受けたが

自分の出生の秘密が公になることを嫌った純は 名誉あるミスキャンパスを自ら辞退した

季節が巡り夏を 迎える頃はには 純の学生達の評判も日差しに解ける根雪のごとく

流れて天空に消えた。

その純と健を結びつけた

最初の一歩は

初対面の純に無邪気な笑顔で

いきなり駆け寄り 両手で手紙を手渡した

食事を一時間以上掛けて必ず家族団らんの中でする両親の元に育った

健のどんな時でも大らかな笑顔で接する優しさに

純は頑な心を徐々に許していったのかもしれない

 

「初めまして

自分は 健といいます

今年から経済学部在籍しています

手紙 読んでくれますか」

「えっ

突然ですねっ

ありがとう ・・・でも

この手紙 私へのプライベートな事ですねっ」

健はゆっくり頷いた

「ごめんなさい

私 忙しいから」

純は頭を下げながら両手で×印を作り

手紙の受け取りを拒否した。

次の日は もう健は純に手紙を 渡そうとはしなかった。

純は手紙を渡す時の瞳の輝きが 気になっていたが

忘れる事した

それから一週間が過ぎ、また健が五十嵐キャンパスの桜門の前で

桜の雨が歩道まで舞い散る肌寒い夕方

健は純を 待ち構えていた

だが一週間まえに逢った時の健と様子が まるで違っていた

それはどこか悲壮感が漂い 無邪気な笑顔はどこにもなかった

「ほんとうに

ごめんなさい

自分は 世間知らずの 遊び人でした・・・」

「えっ 何のこと」

「一週間まえ 自分は

君から 断られたのに いい気になって

君の後を ストーカーのように つけまわしたんです

君は アパートに帰るのかと思ったら

施設に行って 子供達の面倒みて差し入れをしていましたね」

「酷い・・後をつける なんて

最低っ」

「そうかもしれません 認めます

それでも 自分は君の誤解を解きたいです

どうかこの手紙を 読んでもらえませんか?」

健は涙目のまま頭を深々とさげた

また手紙を純に差し出した

突然 にわか雨が 桜を蹴散らして振り出したが

健は頭を下げたまま

動こうとしなかった

雨はあっという間に健の服をずぶ濡れにして手首の裾から雨が

流れ落ちてきた。

さらに雨脚は急激に早まり、追い討ちを掛けるように

横風が二人目掛けて吹き荒れてきた

たちまち健の膝から下は

土が跳ね上がった泥まみれだ

体は小刻みに寒さで震えだしそうだ。

雨と風は健の顔面を 直撃し

髪が濡れて束成り それが目頭を塞ぎ

視界遮られた健は

バランスを失いかけたが

それでも

濡れないように素早く

ノートに鋏みこんだ手紙をもったままだった

堪り兼ねて、純は傘を差し出そうとした

 

とその時 雨は 水道の蛇口を閉めたかのように止んでしまった

純は 天を見上げて

込み上げる苛立ちを感じた

 

それは

どうにもならないものへの

怒りだ

「私 善も悪も 容赦しない

貴方の気まぐれな力に

腹が立つは

耐えて積みかねた希望も 夢も 生きがいも

運命という力で

一瞬に 飲み込んでしまう

仕様が無い なんて

いや

私は 貴方が 嫌いです

私が どうするか みているがいい」

 

純は天に向かって

健にわからないように心の中で

叫んだ

そして胸に手当ててから

健に傘をさしのべた

「風邪ひきますよ

手紙 読みますから

傘の中に入って下さい」

「えっ 

雨 やみましたけど??」

「いゃーだ

私の目には 世間の冷たい雨が

未来の貴方と私の間に振っているけど

だから

入りません?

私の傘に

 

「はぁーっ?

未来の自分って

君 見えるの? 」

「それは どうかな

たぶん

貴方しだよっ」

純は 微笑みながら

健を傘の中にキスできるくらいの近さに引き寄せ

健に雨傘を開いたまま

手渡して

手紙を読んだ

(健の手紙の内容)

前略

 

純ちゃん・・・・

と気安く君を呼べないのが 残念で惨めです

自分は健といいます

君は一目ぼれって 理解してもらえるだろうか???

君のこと知ったのは JPOP同好会で

勧誘のチラシ配っていた時の印象が 際どいミニスカート履いて

どこか BABY METAL のスーちゃんに似てるなぁーなんて感じてしまったんだ

それが次の日

白衣を着て教授の助手をして働いている姿に出くわして

あまりのギャップの大きさに驚いてしまったんだ

あのこ・・・いったいどんな子なんだろうって

考えてしまったら 

君の事が 頭から離れなくなってしまって

自分は アイドルの追っかけみたいな気持ちを抱いて

君のこと いろいろ調べて

とうと う君の後を 判らない様に

付けたりして 自分でも これは危うい感じだと 後ろめたく感じながら

止まらなくなってしまったんだ

 

たぶん・・・自分は君が思うように

いやな ゲス野郎かもしれません

それから まだまだ謝らなければ なんないことを自分はしてしまったんだ。

君の新しい友達と嘘ついて

施設に行き 君の情報を探りまくったんだ

 

君が 理学部の教授アシスタントとして見習い期間で 初任給が月給の半分しか貰えず

奨学金の認定がまだおりなかったのに

それなのに、君は

施設に寄付して差し入れもしたから

金欠状態になってしまって

女子寮で一ヶ月の間一日お握り一個でやり繰りしたって

 

今までの自分には どこにも

そんな ひたむきで

謙虚さも・・・誠実も 無かったかもしれないと痛感してんだ

湧き上がるような切ない

君に告げずにいられない気持ちが

この一週間で自分を

心の真ん中の大切な部分を変えてしまつたかもしれない

それが何んだか

自分の力で その答えを 見つけたいのです

限りある人生で 

今しか 感じられないものが あると気づきました

それは君が 伝えてくれたことで・・・

君とともに感じることだと 想えてならないです

 

自分は恵まれすぎていました

学費は両親が全部出してくれていました

それが当然だと思っていました

猛烈 反省しています

これからは 君と君の夢

施設の教員になる手助けを させてください

自分もキャンパス キァリアセンターで紹介してもらって

コンビニのアルバイトします

そしたら 賞味期限の切れた廃棄処分のお握り

貰って・・・君に食事代の援助が出来るかも

・・・ごめんなさい これは自分の不謹慎な冗談です

何が言いたいのかというと

助手の仕事と施設の支援活動は

負担でしょうから 自分が施設の寄付の分をバイトで賄いたいのです

この報酬は君との月二回以上のデートです

自分のこの提案 いかがでしょうか

純は緩んだ表情を浮かべて

「返事は後で メールします」

と一言いって健からアドレスを聞いた

 

 

(純の返事)

「健君

風邪ひかなかった?

貴方の事 初め逢った時

変な人という印象でした

だから 手紙は受け取れなかったけど

でも 目が子供みたいに純粋で

とても憎めない感じだと

同時に 受け止めたの

貴方の事は 良くわからないけど 

ずぶ濡れになりながら また差し出した手紙は

読まずにいられなかった

私たち 性格は全然似てない気がするし

育ちもかけ離れているけど

案外 補ってうまくやれる気がしたの

だから

友達として 貴方を認めてあげたいと想うの

ほんとうは 寂しがりやで弱虫なもう一人の私が

強がりで生き抜いている私に

そう・・・囁いたの

だから

月二回のデートも施設への支援もお断りするけど

・・少しづつ貴方のことが 知りたいから

メールを下さい

都合つけば 約束できないけど

対等な関係になれると感じたら

JPOPの話でもいっしょにしたいねっ 健くん

ただし これだけは忠告させて

脅かすつもりじゃないけど

私と友達になるには 

貴方が周囲からもらっていたありふれた素朴な愛情を

捨てる覚悟が必要かもしれない

そんな気がするの

私もほんとうは良くわからないけど

愛情って始まりは

たぶん

そんなに強いものじゃない気がする

ちょっとした風で吹き飛んでしまう ものかもしれない

なぜって 愛情は 簡単に憎しみに

変わってしまうものかもって思う

知りたくないでしょうけど・・・?

時に それは狂気にもなるかもしれない

貴方の愛情の裏側は

何 憎しみ

それとも・・・それが知りたいの

私は それが 変わらぬ深い愛情であることを望むけどねっ」

 

それから二人はメールのやり取りして距離を縮め

一ヶ月後には

緑が気持ちいい静かな公園でJPOPのCDの交換したりしてデートを楽しんだ

そして

二人は悪意ある冷たい風ごとき噂などは 1ミリも左右されないカップルとなった 


 

夏美はそんな健に相談したのだが、なんと実際に界の海岸通りでの行動を

監視してくたのは、純だった。

どうして純が私立探偵のような人の恋仲の真実を調査してくれることに

無償で協力してくれたかは

夏美には その時 理解できなかったが

健から聞いて親からの虐待を受けていた夏美の境遇に

純が同情したからだと 後から直接 聞かされた

 

界はまさか自分がそんな深い事情で引き受けた

監視役の純に気がつくはずもなく

いつもの通り、いつもの時間に折り返し地点で休憩し

2〜3分の誤差で留美に出逢い

友達以上親しみを抱いて、留美と短い憩いの時を過ごしていた

話す内容は 当たり障りの無い話題とシューズのお礼だけだが

冷たい飲み物を 飲みながら見詰め合う二人は 確かに恋人そのものだった。

純はスマホのズームで寄り添う二人の写真を 事情が判っていても罪悪感と戦いながら

一枚撮って

「私って 自分の中で正義の理屈が成り立てば

 

どんなに その人が困っても

 

何でも やっちうんだ

 

これ もしかして ほんとうは怖いかも・・・」と呟き

 自分の役目を果たしたと自分に言い聞かせながら その場を立ち去った

 

その界と留美のツーショットの画像は

純から健 健から夏美へとメールを通して渡った 

 

夏美の界への愛情を 憎しみを超えて

やがて狂気へと変えてしまうのだが

今の夏美にはそれは想像すらできなかった

たった一枚の写真で人生の大事な事を決めるわけにはいかない

夏美は純にもう少し 監視を続けてほしいと

特別な理由が無い限り誰も嫌がる、その役を懇願することにした

 潮風が強い日

健に内緒で

施設の支援している純ものとに直接出向いたのだが

・・・

そこに待ち受けていたものは 人生の皮肉だった

 

施設の入り口前には 見覚えのあるワゴンカーが止まっていた

 自分の生き方を変えることを決断させてくれた

それは龍のNPO支援車だ

立ち止まった歩みを 少しだけゆっくり前に進めると

入り口の左側に隣接している倉庫のドアが

半開きになっていて、そこから小さな脚立がはみ出していた

さらに施設の入り口左側には

大きくて長い二段式の脚立が屋根の上まで掛けられていた

『何が あつたの?』

どうやら勾配のかなり緩やかな施設の屋根の上で誰かが上っている様子だ

眩しい日差しが直接目に入り込まないように

左手で遮りながら

視線を臆病に注意深くスライドさせると

そこには白いタオルを首元に巻きつけて作業している

龍が居た

夏美は両手を口元に置いて大声で叫んだ

「りゅーう さーーぁん

どーうーしーたんですか

そんな所に昇って」

龍は右手を大きく振りながら大声で答えた

「よぉー 夏美  さん

昨日 午後から突風で 天気荒れたよねっ

そんで アンテナが ずれちゃってさぁ

テレビの映り 悪いから

修理してるって訳さぁ

・・・

君こそ 何でここに来たの」

夏美は 咄嗟に嘘は付けなかったので

理由は 後から考える事にして正直に答えた

「純さんに 会いに来たの」

 

 

 

『いつもは物静かに話す龍が

ため口で 妙に明るいけど

どうしたんだろ

屋根 に上ってるせいかなぁ?

それに どういうこと純の施設に居るなんて

 

・・・龍は貧困学生救済のNPOに携わっているから

純と繋がりあって当然なのかもしれないけれど・・・』

 

夏美は界と知り合い始めた時の

龍の人柄が心の芯に回帰した 

 

「界の心変わりを 責めるまえに

私の 本との気持ちは どうなの

界のことだけ 思い続けようとしたけど

正しかったの?」

二人の施設の入り口付近と屋根の上の大声の会話は

当然のごとく中に居た純まで届いてしまった

それが龍と夏美だと気がつくと

純は血相変えて、施設の外に飛び出し

二人の間に立ちはだかって

上に居る龍に聞こえないように小声で囁いた

 

(純)

「夏美さん 理由があるにせよ

直接 この施設まで来ちゃだめよ

せめて来る前に メールで連絡してくれないと困ります」

 

(龍)

「あれっー

驚いた

純ちゃん 夏美さん 知ってるの?」

 

純はさらに夏美に接近して小声で囁いた

 

(純)

「ほらー

龍さんに見つかった

龍さんと 

界さんて

友人なんだから

私たちの関係が ばれると面倒なことになるよ

きっと」

 

(夏美)

「そのことは 私も わかってるはつもりなんだけど

まさか 龍さんが

今日 ここに 居るなんて

全然 予想外の展開っ」

(龍)

「おーい

二人とも 自分でけ仲間はずれにして

内緒話してないで

ここまで 上ってきなよ

アンテナの修理も終わったし

屋根の上からの絶景は 別世界だよ

やなこと 皆忘れるから

ビール持ってきて いっしょに飲もうぜっ」

(純)

「何言ってるの

そんなとこで、ビール飲んだら

足元 危ないし

酔っ払ったら 下まで落ちて死んじゃうょ」

 

(夏美)

「龍さんビール飲めないはずよ

それに あの話し方

今日の龍さん 少し変

頭 大丈夫?」

純は上にいる龍に聞こえないように 小声で夏美の耳元近くで話しを続けた

(純)

「しょうがない 龍さんには私が言った事 内緒よ

龍さん 振られちゃったらしいの

失恋のショックで たぶん 変なんだと思う

お相手は 界さんが勤めている「石南花」の同じスタッフの

「マリア」ちゃん

私たちと同い年の19才で 茶髪がかわいい

物静かで大人しい感じの子よ」

 

(夏美)

「あーぁ 

私 わかる

えっ あの子と龍さんが・・・」

(純)

「ところで 今日直接ここに来た 用件って

何?」

夏美は 言葉に詰まった

 

(夏美)

「それが・・・・

ごめん ・・・

どうしょう

・・わけわかんないっ」

 

(純)

「何か 言った 夏美さん」

 

突然 夏美は 屋根の上の龍に向かって叫んだ

「龍 さーんー

今から 昇っていい

私も その景色 見たい」

 

「えっ

冗談でいったのに 本気だしちゃったの?

昇るつもりなら

足元 気おつけてっ

純ちゃん 悪いけど

はしご支えてくれる」

 

(純)

 

「もーう 二人とも

何言っての

いい年して

屋根の上で 水遊びでもするつもり?

 

夏美さん

 私に会いにきたんじゃないの??

面白くないっ」

 

「ごめん 純さん

ちっとだけ

屋根の上の景色見ていい」

「ちょっと ちょっと 

もうー何言ってんの 

屋根に昇る時 その三連はしごは

下ではしごを支える補助員が必要なの

わかる?

どうしてもって言うなら

昇る時だけ 私が支えるから

降りる時は 龍さんに 上から支えてもらって

後は知らないからね

勝手に ここ着たんだから

勝手に すれば

私 止める権利ないから 」

 

純は自分の存在が二人に無視されたと思い

苛立って 唇をかみ締めながら

三連はしごを支えた

二人きりになるチャンスを貰った夏美は

この施設にきた目的など海風に流されるように忘れて

夢中で龍の姿だけを 求めた

流れる汗を 拭いもせず昇り続ける

情熱の炎は 消せはしないと承知しながら

消防職員より早く 屋根と三連はしごの設置点に辿り着いた。

純は 堪えきれずに

健と連絡つけるために施設の中に逃げ込んだ。

 

 

「龍っ」

暫く

夏美も龍も 再会の瞬間

見詰め合うだけで 他は何も出来なかった

「純ちゃん どうしたの?」

「私 怒らせたみたい」

「ああっ

そっかっー

彼女 正直過ぎて 自己中 のとこあるから

いつも 後で 反省して 謝るんだ

気にしなくて いいよ」

「でも・・・」

 

「・・・・

それより

夏美さん

すごいね

運動神経

めちゃめちゃいいんだっ

怖くないの こんな高い所

高校の時 クラブ入ってた?」

「すごくないよ

高校の時の私なんか

滅茶苦茶で

どうしようもなく

能転気な

最低の

女だったんだ

話したくないっよ そんなこと」

「・・・へぇー

そうなんだ

ならいいよ

話さなくても

じゃー界と

うまくいってる?」

「いゃっ」

「えっ 

 何か言った」

「ねっ 龍さん

話が遠いんで 近くまでいきたいんだけど」

「無理だよ

そんなスカート姿で、

屋根は直射日光で熱くなってるから火傷するよ」

「いいよ

私 別に

もともと面の皮厚いし

大丈夫だよ」

「何言っての

そういう問題と違うでしょ 

今日の夏美さん 変だよ」

「あらっー

龍さんこそ 大部変だよ

ビール飲もう

なんて 言ったりしてさぁ」 

「あーまあね

お互い様ってことかっ

しょうがないなぁ

自分は汗かきで

タオルいつぱい持ってきたから

屋根の上に敷いてあげるよ

その上に腰を下ろしなよ」

「わかった

じゃー今 

龍の

側に行くね」

「・・・ゆっくりね」

「うんっ」

第3話 ほんとの気持ち

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