第1話 夏美と界の出逢い

(ここからは 直美の復讐相手である夏美と界の物語になります)

厚化粧でロンゲの女番長として尖がって高校の廊下を肩を切って歩き

威圧して回りの生徒達を廊下の端に追いやった夏美は

高校を卒業すると アヒルのように後についていた取巻きの女達は姿を消し

経済的に恵まれていない夏美は 大学進学も諦めざる終えなくなった

気がつくと

また孤独な閉篭もりの女に逆戻りしてしまった

ポッカリ浮かんだ満月をぼーと見上げるように

頭の中は 空っぽになり周りの様子など眼中から消滅してしまった
 
三ヶ月程 家の中で自分がどんな食べ物が好きだったかも忘れて

肌寒い暗い倉庫に置き忘れられた子猫のように丸く蹲って

何も興味を持たず

昼間ねて夜にゲームに集中しようとしたが

二日も続けられず、

後はひたすら、寝巻き姿で家の中に居る

虚無感が漂う生活がつづいた

心の芯では 『これでは私は駄目になる』と叫んでいるが

体は それを無視して布団を蹴り上げることすらしなかった

女番長の時は その素行の悪さ毎日苛立ちを覚えて

叱りとばしていた両親は

哀れなくらい大人しく引き篭ってしまった娘を

暫くの間冷たく傍観していたが

鬱積していた不満が頂点に達してはじけるように

突然 寝ている夏美の布団を剥ぎ取って

仕事を探さなければ 家から出ていけ』

と最後通告した。

今まで夏美のことに無関心だつた親の激変して鬼のように冷たい顔色が怖くなり

夏美は足取りをよろめかせながら

近くのコンビニに逃げ込むようにアルバイトの面接を受けた

長年勤めた従業員が抜けたばかりだったので店長は

長い髪の毛を切り厚化粧を直すことを 条件に採用すると夏美に告げた

慌てて少し遠いが評判のいい美容室「石南花」にいって

バッサリと親しんだロンゲを我が身から床に切り落としてもらった



「お客さん ショットカットに似合いますね」


爽やかな笑顔で夏美に話しかけたのはこの店で人気ナンバーワンの

界だった

ボサボサの頭で女囚人のような形相で入店した夏美は

カットしクリーンアップし終えて整った

鏡の中の自分をみて 久しぶりに微笑んだ

界は床の夏美の髪の毛を素早く掃除すると
 
暗い急勾配の出入り口階段の下まで

「足元に 注意してください」言いながら

自分が先に下りて明るい現実へと復帰させた



夕暮れの町の光が なぜか夏美は 涙が出るほど眩しかった。


「今日は 初めての来店ありがとうございました

よろしければ またのお越しをお待ちしています」



界は深ぶかと頭を下げて

 経験した事も無い笑顔で別れの挨拶した

夏美は 何といったら言いか言葉を失った

「失礼します」

その時 界が目の色を変えて夏美に急接近した

夏美の胸を あたりを目掛けて手を素早く伸ばした。

夏美は 思わず「いやっ」と気の弱い少女のように叫ぼうとしたが

界は肩に取り残された

夏美の払いのけ忘れたロンゲを落としてくれただけだった

夏美は 生まれた初めて礼儀正しく人にお辞儀をした。

僅か一時間たらずなのにこの「石南花」階段を上る前と今とでは

自分は別人になった錯覚を覚えた



『お金を 貯めて またきっと

この店に来やるからっ』


夏美は 強がりだけが武器の女が

普通の女性に戻れた自分にこの時気がついた。

改めて

夏美は 今 自分が ここに居る理由を

振り返った・・・

女 番長として取り巻きにチヤホヤされた自分が高校卒業期に

自分達の決めた進路めざして散っていた

その取り残された焦燥感は 「石南花」の店で

ふっきれたと自分に何度も 呟き

私は 界に逢えるなら 虚勢じゃなくて

ほんものの自信が取り戻せるはず

と言い聞かせた

夏美は 爽やかなショートカットでコンビニ採用が決まり

接客やレジ打ち、レジ締め、タブレットによる検品、品出し、ポスシステム等

それに掃除の事前研修も無事終えて 

夏美は自分の足で、ゆっくりと歩き始めようとしていた。

一ヶ月があっという間に過ぎ

貰った初給料を神棚に上げ

無垢な少女の祈りを 捧げた

このお金が 界と絆に役立ちますように

祈り終わると、お札は潔く全部財布に入れ

小銭は豚の貯金箱に音お立てて投入した。

大鏡の前で 会釈して一回転する

それは夢見る少女の 正に初デートのようだった

その熱が体から抜け出ないように、胸元のボタンを確り締め

風を切る身軽さで「石南花」の階段をまた昇った。

そんな気持ちのまま 三ヶ月過ぎ

夏美の存在は 界の常連客としての地位を獲得していた。

「夏美さん 最近痩せましたか?」

界は 聞きにくそうに質問した

ええっ 判ったぁー

私のことなんか 全然記憶に残らないじゃないかと思ってた

「何を 言ってんですか 困るなぁ

夏美さんは この店の大事な常連さんですよ

ああっーそうだ

毎年クリスマス近くやっているヘアーメイキングショーが

夏祭り特別企画バージョンで やるんですど

僕も 出ますので

無料招待券を差し上げます もし都合がよければ是非

見に来て頂けますか?」

ヘアーメイキングショー?

へぇー そんなのあるの

界から両手で丁重に手渡されたチケットを見て

嬉しくて胸高鳴る気持ちを抑えて

足元を見られないように涼しい顔で冷静を装って

土曜の夜ねっ 都合いいから

界さん出るなら 行ってあげるょ

「ありがとうございます 是非

いらしてください」

相変わらず 丁寧な接待用語に夏美は 少し気落ちしたが

『 まだ4〜5回しか来てないし 当然よね』と呟いた

いつものように、界の見送りを 階段の下まで受け

手を振って挨拶する界が 遠くで見えなくなったから

夏美は 胸のボタンを一つ開けて

チケットを握り締めたままガッツポーズして

人目はばからず叫んだ

「やったぁー 」

 

土曜の夜の前日 つまり金曜の夜に夏美は不思議な暗示の夢を見た

それは


(ここからは 夏美の夢の中の世界)

緑色の不思議な輝き放った川の辺に、世の中の怖さなど何も知らなそうな子猫が

二つの木製の脚立の天辺を食い入るように眺めている。

そして片方の脚立の上の載っている赤と白の二つのワイグラスに注がれたワインを必死で飲もうとし始めた

子猫は後ろ足で二本立ちして、絶対不可能な事だと判らずに

無邪気にワイングラスに前足を伸ばしてワインを近づけようとした。

すると・・・

突然 木製の脚立が

生き物に変身したかのように 目の前で伸びだして

天辺にワインを置いたまま

大木に変身してしまう

見あげる程になった大木には 根元に 何か深い傷跡が平行に 何本が刻まれて 途中で止まっている

二つ目の脚立も突然伸びて 大木にはならず大きな階段状の建築物になった

場面が突然 展開して

脚立の片方の大木の天辺になる

大木の上には ワインは消えうせて 迷彩服を着た男がライフル銃を構えて

川辺目掛けて標的物を狙っている

一発目が 被弾したのはいつの間にか置いてあったバイクだ

ガソリンタンクにみごと命中

火柱をあげながら爆発した

二発目は さっきの子猫を狙った

弾はそれて緑の川を水面を大きく波打たせる

子猫は 野生の本能で自分が狙われていることに気づき

残りの階段状の建築物を上り大木と同じ高さまでくると

皮肉にもライフルの銃口が自分?に向いていることがはっきり確認できた

子猫は 冷や汗をかき

銃口を気にしながらながら

さらなる高みを目指さなければならなかった。

子猫が不安で銃口の方角を 振り返った瞬間

天から黒地に金の蛇のイラスト入りの

タオルがひらひらと舞い落ち

つづいて大きな人影が

落下速度で目の前を通り過ぎ

「誰?」

と呟いた瞬間 

子猫は 人間に姿を戻し

目に映る世界を真っ赤に染めた

そこで 夏美の不思議な夢は終わった


(土曜の朝の夏美に戻る)

魘されて飛び起きた夏美は 

不思議な夢が 現実でなかったことに安堵のため息を漏らした

ああっ よかった夢かぁ

子猫って もしかして 私のことじゃないかしら

大木の傷って 親父が生きていた頃に 付けてくれた柱の傷よ

親父が病死して、

柱の傷も途中で止まってしまった

お袋がどうしょうもない遊び人と再婚してから我が家は破滅じょうたいになったし

私もぐれた。

今の親父のそばにいると私も 何されるかわかんないしっ

子猫が飲もうしてたワインは 

きっと大人の世界ね 

だいたい猫は水辺が苦手なはず

このまま状態でいたら スナイパーに狙い打ちされるっていう

暗示なのかしら?

夏美は自分なりに勝手に夢判断して真剣に悩んだ

『家に居ては ヤバイかも

お金があれば やっぱり親元離れた

遠い場所の大学に行きたいなぁ

界に 相談しようかなぁ

でも ・・・・やっば

無理 無理 

界とはただの馴染み客との関係でしかないしっ』

夢で今の自分の状況を再認識した夏美は

 ささやかな期待と根深い不安を抱きながら

開演時間ぎりぎりに市内バスから降り

川沿いのヘアーショー会場へと足を運んだ。

 

もちろん夏美にとって今までまるで縁のなかった世界だ

心のバランスは不安のほうが 遥かに大きく膨れ上がって

斜めに片がって不安の下端から爆発しそうだ

また心もとない足取りで薄暗い会場に扉を開き

転ばないように足元だけを見つめながらゆっくりと突き進むと

舞台の両サイドのスピーカーから開演の派手なミュート奏法のデストーションギター

イントロが会場を席捲した

その内リズムに合わせてかなりコアなラップが流れてきた

あれっ この曲 ネットで聞いたことがある

もしかして・・・WAIK THIS WAY

 

舞台中央からは丸い踊り婆が 競り出ていて

その頭上には大きなレーザービームパネルが上下左右に乱射している

舞台いっぱいにスモッグがたちこめ

スモッグの一番深い部分から

センター踊り場にリズム刻みながら

界がしなやかに踊り出る

スモッグが散って 舞台の奥に大きなスクリーンが降りてきて

界のウインクしているアップの顔や

客をカットしてシーンが映し出される

「皆さん 

こんばんわっ

元気ですか?」

会場がいっせいに反応して右手の人差し指を高く上げて

奇声を発する

界 界 」のコールが飛び交う

まるでスーパースターの登場みたいだ。

観客は 一斉にスマホで界を激写している

周りを 良く見ると界のことを 良く知っている客や同業者らしい

耳を澄ますと

界ょ 相変わらずカッコいいね

市内の美容院データーで今月の売り上げナンバワンらしいよ

さすがよね

ルックスだけじゃなくて実力でも最高なんだから

界は この後出演者の紹介などお決まりのMCを するかと想像したが・・・

「皆 今夜は 楽しんでいこうぜっ

あ  忘れるとこだつた

これから出場するヘアーアーチストとモデルのお気に入りの組をチケットの裏の

リスト番号に丸を付けてショーのあと投票してね

それじゃー

ヘアーメイキングショー スタート」

と叫んで 人が変わったように派手に踊り始め 舞台の中央を指差す

舞台の奥からは ヘアーアーチストとモデルが 馴れ馴れしく肩を組んで登場する

バックスクリーンにも二人のプロフィール動画が音なしでイメージだけで流れる

子供の頃の姿や働いている姿に

会場から自然と拍手が沸き起こる

目線が舞台のセンターに戻ると

いきなり中央にすわってモデルの三割形きまった髪の毛に仕上げのカットが始まる

髪を手のひらで やんわり摘んで

神業の鋏み裁きで 自在にカットして イメージを形作る

ウエッブな感じに仕上げる為

空気を髪に包ませながら、スプレーを噴きかけ固めた

10分もたたないうちに、モデルは登場した時とは まるで雰囲気の違ったモデルに仕上げられ

観客の拍手のなか一回転して仕上がりを披露して会釈した

その後ヘアーアーチストとモデルはまた仲良く肩を組んで深々お辞儀した

二人して180回転すると観客を背中にして舞台の奥に消えてしまった

こんな調子で この後二組目のヘアーアーチストとモデル登場した。

言葉の説明もなく 音楽とヘアーショーのパフォーマンスは続けられた

観客は 審査ではなく

ただ楽しみに来たようすだ

私は この世界の人間じゃないし

とてもついていけないかも

一人 夏美は先ほどまで不安と期待で膨れ上がっていた心が

現実という棘で風穴開けられ

空気漏れした風船のように、へなへなに萎んでしまった

2時間のショーは あっという間に終わりを告げ

リストが集められた

最後にまた界が 中央ステージに現れMCをした

10組のヘアーアーチストとモデル全員が舞台に集まった

「皆 

楽しんだかい?

今日は 本当にありがとう

じゃ

今日の ヘアーアーチストとモデルの優勝者を発表するよ

今日ナンバーワンのポイントゲッターは三組目の奈々子と達也だ

はい 皆拍手っ」

三組目の奈々子と達也が また仲良く肩を組んで界のもとに進んだ

奈々子は涙ぐみ達也は 奈々子をしかりと抱きしめながら観客に挨拶した

良く見ると観客の仲には40才くらいの中年女性がいっしょになって達也の優勝を喜んで泣いていた。

私は 会場の雰囲気に飲まれてしまって 

常連客の視線が羨望の眼差しで界一人に集中していることに気がつかなかったけど

同業者の女らしい子も 皆 皆

界に夢中なんだ

私 恥ずかしい・・・

いまさら界の業界に興味をもっても 手遅れなほど界は人気者なんだ

界を 好きになっても辛くなるだけかも」

そんな夏美の気持ちなど知るよしもない界は

MCが終わると すぐ夏美のもとに駆けつけ

「今日は 来てくれて ありがとう

このあと 打ち上げがあるんだ

夏美   さんも いっしょに来ないか?」

ああっ

私 まだ未成年だし

酒のめないんで ごめんなさいです

「何 バカな事いってるの

酒なんて飲まなければ それでいいじゃん

それに 同業者の子も19才の子いるけどジュースで参加するよ

ね おいでよ」

界は MCをして気が大きくなったのか?

急に ため口で夏美に語りかけてきた。

そうなの

で でも やっぱり

遠慮しとくは」

「何だよ

つまんね女だなぁー

いいから 来いよ」

「おい界 よせ

お前 また MC終わったら

待ちきれずに ビール飲んだな」

と横から口を出したのは界の男友達で同級生の龍という男だった

筋肉質でがっしりした体格で 見た目は叔父さんタイプだが

実年齢は まだ21才で大学生で貧困学生救済のNPOも勤める

きさくで真面目な学生だった

 

「おー なんだ龍じゃないか

カッコつけるなよ

お前 酒飲めないから そんなこと言えるんだ」

「逆でしょ お前が 打ち上げ前からいい気になって

酒のんでるから 俺が注意してんだぞ

いやだと いわれたら 諦めるんだ 界

大人だろ」

「あぁー・・・・・

そうだな、

すまん 龍

お前 今日はNPOの車で来てんだろっ?

夏美さん 送ってくれないか」

「俺で よければいいけど・・・」

「夏美さん ごめんなさい

みっともない姿見せちゃって

俺 ビールを飲んじゃうと 押さえきかなくなちゃって

こいつ俺の友達で 絶対信用できるから

送ってもらたら?」

夏美は酒を飲んだ界の変身ぶりにショックだったが

界の弱点を知って身近になったとも感じた

龍から界について いろいろ聞けるかもと想像して

夏美は龍の車で送ってもらう決心をした

龍は夏美をタクシーの運転手のように丁重に手で案内しながら

NPO車の助手席のドアを開けた

界の人気ぶりに圧倒されて、女番長の時のようなツッパリが通用しない大人の世界に

夏美は心がすっかり冷え切っていたが

龍の自分を一人前の女として接してくれる その暖かさが

心の隙間に染みていった。

「夏美さん

家の近くまで 送ります

それが嫌だったら 知ってるコンビニでもいいですよ」

「はい・・・・

あっ お願いします

近くまで・・・」

夏美から道順を聞くと、地の利があるのか?

龍は迷うことなく慣れた運転さばきで、近道を高速で走り出した

『ヤバイっ このスピードじゃ

あっという間に 家の近くまで着いちゃうかも

界のこと 聞く間もないかなぁ・・・』

密かに夏美がそんな心配していたのを

知ってか知らずか?

暫くして龍は 躊躇いながら話かけてきた。

「夏美さん 界の事で聞いてもらいたいことが

あるんですけど ?

少しだけ 時間もらえますか」

「えっ

・・・いいよっ

あっ じゃなくて・・・

いいですょ 話して下さい」

龍は 気を使って明るいコンビニの店先に車を止めた

 

「夏美さん

今日の界を 許してください

あいつ 一年前は あんなじゃなかったです

界は 苦しんでいるんです」

 

「界さんが・・・」

「界を助けてやってくれませんか」

「何で 私なんかが」

「界は今 大事なヘアーショーの最中にも酒を飲むほど

酒に 飲まれているんです

つまり その 依存症になってしまって

・・・

それというのも 界が付き合っていた同業者の元カノの朝美という女のせいなんですよ

界は二つ年上の朝美さんに夢中でした」

『やっぱりね

彼女がいたんだぁ

当然よねっ 』

「二人はの仲は もう直ぐ結婚まで進んでいたんでいよ

ところが・・そんな二人の仲を 引き裂くように

朝美さんの前に ネットで知りあった常雄という男が突然舞い戻ってきたんですよ

常雄は朝美さんの元彼・・・といよりは

ストーカーで 騙されて肉体関係までもったらしいでいけど

そうなったら態度が豹変して 遊び人の常雄は 小遣資金をせびるようになって

朝美さんは 断って付き合いを解消すると

嫌がらせの電話をかけたりして四六時中朝美さんを 付け狙ったらしいんですよ

とうとう警察に電話して 常雄は捕まり

朝美さんもアパートを引越しして

事件は解決したかに見えたんですが・・二年も経たないうちに

また仮釈放の銀二が現れ

また多額の現金を請求して、もし払わなければ

界にも連絡して事件のこと話すって脅したらしいですよ

すつかり気が動転して判断力を失った朝美さんは

界にも打ち明けられずに 無言電話で寝不足になり

常雄がまた現れたという現実の前に、因縁の根深さへの恐怖と厭世感で

警察に連絡すること躊躇い とうとう悩みに悩んで

ノイローゼになちゃって自殺したんです

それがもとで常雄はまた捕まりこんどは懲役10年で獄中なんですけどね

可愛そうに朝美さんを救えなかった界は

気づかなかった自分の所為だと思い込み

とうとう酒びたりの生活が 続くようになって

今に 至ってるんです

その亡くなった 朝美さんが・・・夏美さん

貴方に 感じが良く似ているんです」

「えっ 私が 界の元カノに・・・」

「このままでは、きっと朝美さんの後を追うことになる

そんな気がして

今 界の心を 癒せるのは

あなたしか いない気がしてるんですよ

界の友人として 利害関係なく純粋にお願いします

どうか 界のこと判ってやって

立ち直るまで 見守っていただけないでしょうか? 」

「・・・・ご

ごねんなさい

私なんか とても

できないし

私 そんなに出来てる人間じゃないし

無理 だと思う・・・」

「ああーそうですか・・・・

そうですよね

わかりました

気にしないで下さい

言ったこけとは 全て忘れてください

時間とっちゃて ごめんなさい」

「・・・龍さん

今正直な気持ちです

でも なんかに引っかかるの

わかってもらえる?」

「あーぁ

それなら これ自分の名刺です

裏に界の連絡先 今 書き添えます

気持ち 動いたら

自分じゃなくて界に 直接連絡してやってください

夏美さん・・ヘアーメイクショーの舞台裏で界は

自分の商売道具の右手を壁に打ち付けて

『俺 もう駄目だって 泣き崩れていたんですよ』

 

「えっ 界さんと一緒だったんですか?」

「ええ まあそうなんです

最近 界の様子がおかしくなってしまつて

自分が そばに居ても

何するか わからない状態なんです

奴の心の痛みは自分には もう直せないと思うんです

 

きっと 奴は 夏美さんを 待ってると想う

なぜって

実は 夏美さん ・・・・」

龍は何か言おうとしたが

首を振って 自分を戒めるような顔してから

 また爽やかな笑顔を繕ったが

目の奥は動揺していた。

それが、余計に 夏美の心に後を引いて

界のことを気にし続ける結果になった

『私は 永遠に不良番長のままで

大人なれずに生きて いくのかなぁ

界に逢って 救われたのは私の方なのに・・・

私 小さい ・・・・』

その晩 夏美は朝方まで眠れず

朝飯も食べずに、しばらくボーとしてから

途中で馬鹿らしくなって読みきれなかった恋愛小説を

夢中で読みきって コンビニに出勤した。

今日は 早晩で夕方には仕事を終え

自分の心の中を 整理したかった夏美は いつもの帰宅コースを外れ

徒歩で遠回りして家路に着く決心した

できるだけ用事もなく一度も通ったこともない細い路地が複雑に交差する住宅街を

方向を定めず ふらふらと気の向くままゆっくり歩いた

偶然にも、家並が途絶えた一角に視界の開けた小さな公園の緑が 

夕日に照らされて紫に染まって その不思議な色合が夏美の心を泊めた

公園には 先ほどまで占拠していた砂遊び場の子供達が 置き忘れたスコップが突き刺さった

独創的な砂のロッジが なぜか夏美の心を暖めた

『すごーい

どうやって砂なのに

ロッジ風に固めたのかなぁ

セメントでも入っているみたい・・・

そんなわけないかっ

ああ

でも

こんな 家に住めたら

人生少しは 変わるかもね』

夏美は 隣のブランコに乗って

揺さぶってみた

 

すると視界が激変して、

ヘッドアクションカメラのネット動画のように想定外のアングルからの

気づかなかった世界が簡単に心に入り込んできた

それは 東の空に薄っすらと

脅威の神秘性を放って

浮かんでいた

『あっ 満月だ

太陽の光で 隠れて見えなかったけど

ちゃんと そこに居たんだ

・・・

昨日読んだ恋愛小説に 書いてあったけど

 

世の中には 無駄な命なんて一つも無い

皆 神様から貰った理由があって 生きている

気がつい時から 君の人生のスタートさ

頑張れょ 百合子

 

私の役目は もしかして界を 支えることかもしれない』

夏美はブランコから降りると 揺らぎを忘れた足取りで

急いで家路に着いた。

気にしなくていいもの振り払う勢いで

自分の部屋のドアを渾身の力振り絞って閉め

時間帯も配慮せず

即 スマホで界に連絡した

「夏美です

龍さんから

貴方の昔のこと事聞いたよ

界 明日

私と逢ってもらえる?」 

仕事中の界は 周りのお客さんに気遣うことなく

大きな声で 返事した

「夏美 

 

どうしょうもない俺だけど

 

よろしくね」

界は 電話越しの夏美の声の調子で

本能的に自分の心の傷を察していることがわかった

恋が芽生え始めた男女は

五感以外の 何かに奇蹟の力を与え

互いの心を 読み取とろうとするものかもしれない

その日から

二人は 自分に纏わりついていた苦しみを 脱ぎ捨て

大草原を裸足ではしゃぎ回るように 飾らない素直な心で

肩を並べて、同じ視線、同じ道のり、驚き、痛み そして怒りを

分け合いたいと願い 

歩き出そうとしだした。

 

季節は捲り 夏の微風が肌を 心地よくくすぐる頃

界は夏美を「光の庭園」誘った。

そこは まさに人工のテクニカルなイルミネーションの元で

野生の生命 

短き命の花々達が

ここぞ ばかりに咲き誇る

無言のペイジェントが広がる幻想の世界だった

 

閉館間際の誰も居なくなって「光の庭」で

 

「夏美っ

俺さあっ

このイルミネーションの花を 見るのが好きなんだ

夏美は

どうかな?」

 

「うん

綺麗ね」

「だろっ 」

「でも・・・・」

「でもって なんだい

夜景の花 嫌いなの?」

「全然

嫌いじゃないよ

でも

私には 似合わないかも

界は知らないだろうけど

私 高校時は

硬派で ・・・

「どうしたの

 急に悲しい顔して

無理して言わなくていいよ

ねっ

夏美

今度 上越に行こう

ここよりも もっと凄いのがあるんだ

龍のイルミネーションなんだ

超 鮮やかな世界なんだ」

 

「えっ

龍さん」

「何勘違いしてんだ 夏美

ダチの龍のことじゃなくて

ほんももの伝説の怪獣の龍だよ」

夏美は慌てた

見せたくない心の中の宝物を 覗き見されてように

その様子を 見て界も 慌てた

「夏美 

お前のお陰で 酒も止められた

お前が いなかったら

きっと 俺 飲んだ暮れて

仕事も出来なくなっていたかもしれないだ

 

お前と 居ると魂の芯が

いつも熱く燃え出すんだ

言葉に上手く 伝えられないけど

一人で居ると 鬼のように顔を赤くして

叫びたくなるほど

お前の事を いつも想ってる」

界は 夏美の肩に手を回して

抱きしめてキスをしようとした。

「待って 界

私は

界が想っているような女じゃないょ

わかってるよ

私は 朝美さんじゃないからね 

そんなつもりで

キスするなら

拳骨で 殴り飛ばしてやるからねっ

私は 元女番長なんだよ」

「よせよ

高校の時は 話は

お前も わかってきたろ

大人の社会じゃ・・・高校の時のことなんか

友達関係以外は 何も役にたたない事を

それより お前 龍のこと

もしかして 想っているのか?」

 

「無い 無い

そんなこと 無いょ

バカっ」

夏美は 泣きそうな顔して首を振って拳骨を握り締め

界に振りかざしたが

界は 大人の顔して 優しくその右手を払いのけた

夏美は諦めるように瞳を閉じて 界に抱かれて

キスをした

やがて二人は、恋の王道をひた走り ゴールへと突き進むかにみえた

 

恋の炎は 燃え上がり周りの障害には その熱で強さを発揮するが

予期せぬ横風に以外に脆いかもしれない

それが説得力ある驚きをもっていた場合は 二人の恋の炎の熱を奪うさる力を持つだろう

 

界は酒を断つ為に、龍の進めで、海岸線通りを早朝からジョギングしだした

草食男子じゃないけど、どちらかというと体育界系じゃない界は

体を動かすよりは、寝転んで本を読むタイプだったので

早起きの運動が、辛かった、それでも硬派の夏美と交際しだして、意思の強さと

肉食系の男らしい自分を見せたいという欲求から

海岸通りの 最初の200メートルを死ぬ思いで駆け出した

体が温まり新鮮な潮の香りが肺に満たされると

スムーズに足が前に進みだした

ラストの5キロ地点までくると、界はランナーズハイで気分爽快になり

j眩しい太陽の光背に つかめツラから無邪気な子供の笑顔にかわっていたゴールを喜んだ

朝シャンを 浴びて、酒への依存心を汗とともに洗い流し

抑えきれない食欲を用意した朝食を 出来るだけゆっくりとかみ締めるよう満たして

両手を大きく広げ深呼吸してまた新鮮な空気を取り入れ直してから

よーしっ 今日も頑張るぞっ

と呟き

生まれたての気持ちに戻って

朝の恵みと 心地よさに感謝した

その大切な気持ちは 継続となり

別人のように雨の日も ジョギングを怠らなかった

 

 

だがそんな、けな気な界に 神様は残念ながら味方しなかった

その日も 海岸通りを 飛んでいた界に 反対側から朝日を背にして

短パンに脚線美を 露出した少女が

「おはようございます」

すれ違い様に 挨拶してきた

その時は 界とっては ただ朝の新鮮な驚きでだけで

記憶に残らないほど、小さな出来事のように想え

泡のように心から消えていったが・・・

次の朝も 同じ場所 同じ時間で

短パン少女に、朝の

「おはようございます」

声掛けに、界の心は 昨日より熱く反応して

界も

「おはようっ」

と 言葉を交わした

この時の二人は挨拶以上の何も期待していなかった

だが 一週間過ぎた月曜の肌寒い曇り空の朝

時折 強風が吹き荒れジョギングには 負担の大きな日だった

それでも界は 無理してジョギングする当然の理由を背負って

ウィンドパーカーを着て 海からの冷たい潮の横風を 受けながら飛んだ

 

第2話 潮風が運んだもの

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