第3話 ほんとの気持ち

夏美は重心を低くして、滑り落ちないように一歩一歩龍に近づく

汗の雫が一筋

顔から胸の谷間に流れ落ちる

その瞬間

潮風が吹いて

ほてった体を冷やしてくれた

龍は身を乗り出して、夏美に手を差し伸べた

龍の日に焼けた大きな手が、夏美の白い手と堅く繋がれる

「ありがとう」

「おめでとう

夏美さん」

「えっ

何が?」

「だって

ほんとうは 高い所

苦手なんだろ」

「どうして・・・」

「 その汗 ひあ汗だろ」

夏美は恥ずかしくなって無理やり手を解き

片手で胸元を塞ぎ、反対の手で屋根までの高さを測って

龍が用意したタオルに座り込んだ

龍は 中腰のままで

「夏美さん そばに座っていいかな?」

「何で そんなこと聞くの?」

「だって 今日の自分は 

可笑しいんだ

何言い出すか わかんないよ」

夏美は 笑顔で答えた

「そんなこと自分で言うの?

大丈夫

どんなことがあっても

龍さんは 龍さんよ

いつもの 龍さんだよ」

龍は夏美の隣に腰を下ろし

「ほら

見て 見て

水平線に青く染まって浮かんでいるのは

佐渡島だよ」

「あっ

ほんとだ 遠くで見ると

あんなに

綺麗なんだ」

「そうだね

近づけば 見たくないものまで見えちゃうから

このぐらいの距離が いい時もあるね」

『今なら 龍に

ほんとの 気持ち

言えるかも しれない

 

・・・

私の ほんとの気持ち

何なの

わかんない

泣きたくなるくらい

どうしたらいいか

わかんない』

夏美はくの字に曲げた膝を抱え込みながら

龍と肩を並べたまま黙っていた

やがて耐えられなくなって、頭に浮かんだ言葉を一つ一つ整理しながら

夏美は話し出した

「ねーっ

聞いていい?」

「何を」

「純さんのこと」

「いいよっ」

「知り合い それとも友達  ・・・」

「まあ 友達ってとこかなぁ」

「もう 長いの?」

「2年くらいに成るかなぁ

最初は自分が支援活動で相談してあげた

学生の一人に過ぎなかったけど

何というか・・・

彼女は 自立心が強くてねっ

金銭面を除いて 直ぐに手がかからなくなちゃってさ

・・・

自分は 支援する立場なんだけど

純ちゃん いつも 同じ目線で話しかけてくるんだ

媚びたとこ 全く無くて

清々しいというか 立派だと想う

だから

精神面のサポートは 全然必要ないなって感じに思えてきて

それからは いっしょに支援活動する友達ってとこかなぁー」

「そうなんだー

じゃー 友達以上の関係になろうと思わなかったの?

美人だし、頭いいし

結局 タイプじゃなかったから??」

「どうなんだろう・・・

今は 彼女の 良いとこも 悪いとこも

皆 わかってきたからねっ

ホントの事 言うと

純ちゃん 友達というよりは

妹みたいな感じかなぁ

純ちゃんが 自分の恋人だなんて

なんか 可笑しいよ」

 

『やっぱね

口を濁してるっ

なんか 深い事情ありそう

ここは 女 夏美 

覚悟を決め手 龍さんの胸に体当たりすべきかもっ

よし 

気持ち引き出し作戦 

開始っ』

 

ところで・・・

龍さん 屋根の上に揚がって

もう 長いんでしょ

体 大丈夫

顔 汗だくで 滴り落ちている

熱中症怖いよ」

「あぁ

大丈夫 麦茶飲んでるから

夏美こそ

大丈夫?

ほら ボトル沢山 クーラーボックスに氷といつしょに入れておいたから

ジュースもあるよ

一息 いつてから

話そうっか」

「うんっ

私 ジュースがいい」

「OKっ」

二人は冷たい飲み物で、会話をブレイクさせた。 

再開は もちろん夏美から

 

「じゃーぁ

 

突っ込んだ 話するけど

なぜ

マリアさんを 恋人に選ぼうとしたの?」

「えっ

どうして そんなの判るの?

ぁぁ

酷いなぁ

純ちゃん

そんなこと夏美さんに話したの?」

「ごめんなさい 純さんは 

内緒話にしてって 断ったんだけど

私 どうしても 気になっちゃって」

龍は 両手で×マークを作って

「 夏美 さん それズルイよ

夏美さんの気持ちだけで

動いたら 相手を傷つけることになるよ」

『私って そうなんだ

どうしょう

 

これって 許されない事かも・・

「ねっ

龍さん ずーとここでアンテナの修理してたんでしょ

額から玉の汗

流れ止まらないし

危険信号だよ

下に降りて体冷やした方が いいよ」

・・・そんなの気にしなくて

いいからっ

それより

夏美さん 暑いの苦手?」

「私は まだ

大丈夫」

龍はクーラーボックスからミネラルウォーターを取り出すと

頭の天辺からボトルが空になるまでぶっ掛けて

シャワー浴びせた愛犬が 水切りする仕草で

ずぶ濡れの髪を激しく左右に反転させ

汗交じりの水滴は 遠慮なく 夏美を襲った

 

「これで

OK

じゃー

・・・自分の気持ち整理したいし

そこまで聞いたんだから

長くなるかもしれないけど

さっきの話の続き してあげるよ

聞きたいんだろ

 

『こんな龍さん 見たこと無い』

 

良く振ったシャンパンの噴射寸前の コルク状態の威圧感が

龍の顔から滲み出ていて

夏美は 引きぎみで返事した。

「えっ

 

・・・うん」

「自分がこの支援活動する切っ掛けから

話さないとね」

「私なんかに 言っていいの」

「だから 話したいて言ったでしょ

本気で 聞いてよ」

初めて見せた龍の怒り顔に夏美は驚き

丁重に頷いた

「・・・・自分は 中学三年の受験の時、クラスメイトで

幼なじみの「弘樹」を

虐めから 救えなかったんだ

「救えなかったって?

どういうこと」

 

「慌てずに 聞いてっ


(中学三年の時の龍と弘樹)

当時 弘樹は受験前なのに、風邪がもとでネフローゼを発祥してしまって

一週間ぐい学校休んでしまっていた

運動も 肝心の受験勉強もできなくて

体よりも精神的に だいぶ落ち込んでしまっていた

そのうえ

体調が悪いのに、無理して登校したから、いつも教室の片隅に隠れて体やすめていた

思い余って龍が 行き成り

「大丈夫かっ?」と

声をかけても弘樹は返事も直ぐには出来ないくらい

閉鎖的態度で群れから外れるようとしていた

その様子を見ていたクラスメイトの仁が

「お前 龍と友達なんだろ

なに 気取ってんだよ

返事くらいしてやれよ」

(弘樹)

「俺 もう いいんだ

病気だから 

体 超だるいし

頭もやもやで 何も考えられない

どうせ受験に失敗するだろうし

どうでもよくなったんだ」

(仁)

「気にいらねな

迷惑なんだよ 受験勉強で

皆 頑張ってるのに

一人だけ 空気読めない奴がクラスにいると

やる気でなくなるじゃないか」

(龍)

「仁 よせよ

病気なんだから仕方ないじゃないか」

弘樹と仁の口喧嘩は 龍の仲裁で 一旦収まったが

前から弘樹の独り善がりの性格を嫌っていた

仁はSNSで弘樹に悪意ある攻撃の書き込みを 毎晩するようになった

弘樹はとうとう登校拒否をして 自分の心に壁を作り篭ってしまった

龍は弘樹と連絡を取ろうとしたが 返事は返ってこなかった

夜中に弘樹の家の玄関までいって

大声呼び出したが

二階の窓から

「龍 家まで来るなよ

ほっといてくれ」

と叫んだが

辺りの様子を見て

頭を掻き毟りながら LINEに切り替えた

 

「受験まであと 一ヶ月だろ

お前 自分のことしろよ」

「誤魔化すなよ

いっしょに同じ高校に進む約束忘れたのか」

「無理だよ そんなの

もう そんな話

ムカツクだけで

気分悪くなるから

帰ってくれ」 

弘樹はLINEを切って窓を閉めてしまった

龍は 弘樹からLINEがまた着信すると信じていたが・・・

それが 最後のLINEだった


(:屋根の上の夏美と龍に戻る)

「うーん

・・・弘樹さんのこと

龍さんのせいじゃないと

夏美は 思うけど」

「どうかな

弘樹の本心聞き出せなかったのは

弘樹の友人としての自分の罪だと思う

結局 上辺だけの薄っぺらな友情だったと思う

 

友情って・・・」

過去を思い出す 

眠りから覚めたような目つきの龍が

行き成り真剣な顔で 龍は夏美を

正面から見つめて話を止めだ

「何?」

友情って

人を 変える ことが できる 

と思う

それが 失われ時は

・・・

変わった分だけ

坂道で転がるように

自分の心も 無くすじゃないかなぁ

 

自分は 二度とこんな思いしたくなくて

高校に入学してから ずーと悩んでたけど

ギター部に入ってJPOPに夢中なることで

忘れられると思ってた

大学入ってから

ようやく 気がついたんだ

自分は 弘樹の事から 逃 げてるって

あの時 家の中に無断進入してでも

弘樹と とことん納得がいくまで

話し合うべきだった

それで・・・・

思い切って施設の支援活動始めたんだ

 

前置き長くなったけど

マリアはね

純ちゃんと 友達なんだ

自分が この支援の仕事で最初に相談にのったのは

マリアなんだ」

「純さんより先ってこと」

「そうなんだ

そん時のマリアは 詳しく言いたくないけど

家ことで、いろいろ問題抱えていて

左手首には小さなリストカットの跡まで残してる女子高校生だったんだ」

「深刻ね 」

「・・・自分も 初めての相談だったし

何をどうして いいかわからなくなるくらい

緊張して

週に二回ぐらい施設訪問して 相談に乗っていたら

緊張が解けてきて

やっと マリアが進んで挨拶してくれるようになったけど

過去

のことになると 下を向いて視線を避けるんだ

自分は 辛抱強く

マリアの未来の夢について

相談したなんて・・・おこがましくて

いっしょに      考えたんだ

半年 

掛かったよ ほんとの笑顔見せてくれるまで」

「龍さんも 支援活動の初めの頃は

苦労したのね」

「苦労じゃないよ

そんなこと

そんなふうに 思うだったら

きっと 今 やってないよ

マリアと気持ちが 通じた・・・・

あ 

 

それでねっ」

「・・・?」

 

「マリアに一番好きなことは何って聞いたら

恋愛小説を読む事て 言うから

自分は お互いの好きな作家の

読書日記を 交換するように提案したんだ

それからは 炎の中の氷状態で

蟠りが溶け出して、

悩みも 打ち明けてくれるようになったんだ

それに誕生日にプレゼントしたノートパソコンを使って

ネット小説書き始めるようになって

それからかぁー

自分が帰宅時間になって

施設から出る時 

いつも振り返って見るんだ

玄関口の

マリアの後姿が 変わったの

背中を 丸めて俯きながら部屋に戻ってたのに

だんだん胸はって真っ直ぐ前を向いて

自分に自信もって歩き出したように

見えたっ

 

 

新年度になって施設に同い年の純ちゃんが入所してきてから

事態が急変

二人は 自然に 友達になれたんだ

・・で

どう わかったマリアと純ちゃんの繋がり」

「・・・うん」

 

『マリアさんの存在って

龍さんにとって 

大きいんだ

 

私かんな・・・

 

 

あーぁっ もしかして

純さん 

本当は 龍さんのこと

思ってんじゃないかなぁ

でも マリアさんのことがあるから

龍さんの胸元に 本心で飛び込めないでいるのかも

 

だから あんなに怒ったんじゃないかぁ

 

純さんにとって・・・健ちゃんの立場 微妙かも

ぁっ 私 何しに ここに居るんだっけ』

 

 

「どうかした 考え込んじゃって」

あっ

ごめん

 

ねっ

マリアさんを 界の居る「石南花」に就職させたのって

もしかして 龍さん?」

「よく気がついてくれたね

マリアに何が二番目に好きかって聞いたら

髪の毛いじることだっていうから

界の「石南花」で働きながら、

専門学校の 美容科通信課程を進めたんだ

国家資格取るまで三年掛かるしスクーリングなんか大変だけど

学費はずーと安いし 支援しやすいから進めたんだ

それに マリアが書いていたライトノーベルの

「嵐の中で君を」がコンクールで入賞してしまって、

マリアは その日 スマイルマシン状態に陥って

何を 聞いても不気味になるくらい笑いっぱなしなんだ

まぁ判るけどねっ

・・・きもいっていうか

・・・自分も 可笑しくなるくらい嬉しくて・・

入賞金は 大金じゃなかったらしいけど学費に回せたって言うからっ

 

        いじらしく想えて

自分は 決めたんだ

何が あっても マリアを守ってあげたいって

 

       いろいろあったけど

マリアはねっ

やっと自分の歩く道を見つけて

スタートし始めたとこさぁ」

龍は手を胸に当てて話しつづけた

「夢に向かって真っ直ぐだから

 今 マリアは自分のことなんか 

きっと 眼中にないんだよ」 

 

『ぁぁー複雑っ

マリアさんや純さんの立場 知って

龍さんの本心わかったから

ショックだな

龍さんの心に 入り込む余地なんて1ミリもない

でも 諦めるにしても

聞いておいてよかったかも』

「龍さん

それで・・・

いいの」

「えっ」

「だから・・・

それで 

あっー 頭が下がるほど人に親切で

でも

恋って そんなに一方的で

報われなくて

ただ綺麗だけなものなのっー」

「夏美さんっ 何が言いたいの」

「龍さん 

自分は どうなの

幸せなの・・・

「幸せかって

わからない」

「・・・私は

私は

  私は 龍さんの

辛い時の 支えに

成れない かもしれないけど・・・・」 

「   夏美さんっー

駄目だよ

無理して慰めてくれなくても

今の自分は 幸せじゃないかもしれないけど

馬鹿で 躓いてばかりかもしれないけど

精一杯 ありのままの自分なんだ

自分の立場も弁えないで 恋をして

マリアに

振られて 

正直 辛いし

このまま また 新しい学生の支援活動つづけられるか

不安だ・・・

でも 弘樹の時のように

もう逃げない

自分は 人から非難されても 本心で勝負したい」

 

『私 

これ以上・・・

何も 言えなくなっちゃた』

 

「あのー」

「何?」

「ねっ

・・・

龍さんの首に巻きついている白いいタオル

めっちゃかわいいね

スヌーピーのキラ入りじゃないの」

 

「あぁー

これ

マリアから貰ったんだ」

 

「へぇー ?

・・・・・・・・」

夏美の疑問を 吹き飛ばすよに龍のポケットから

着信音が二人の間に鳴り響いた

「ごめん」

「うん」

 

龍はスマホの画面に眉を上げて 驚き

LINEを読み続ける

 


(マリアから龍への LINEの内容)

龍っ

と 呼んでいいかなぁ

そう 呼びたいけど

なんか 怖くて・・・

私 どうかしていた

自分の足で 前向きに歩けないマリアを 支えてくれて

わかってくれる人

世界中探しても 龍しかいないって いつも想ってたのに

突然 告られて

戸惑うばかりで

ほんとの気持ち 伝えられなかった

言葉を 失って

小説も 書けないほど

空っぽ

お願い

精一杯の 勇気を出して 伝えたい

もう一度

やり直して 

もらえませんか」

 


 

龍は無防備な笑顔で、LINEの相手を夏美に 告げた

 

「夏美さんにマリアのこと 話したお陰で

運命の風向きが 変わったのかなぁ

夏美さん 驚かないでっ

      もう 信じられないことが 起きたっ

マリアからLINEで やり直してもらえないかって

 

これは 恋愛の神様の導きかも」

 

龍は 首に巻きつけた汗まみりの白いタオルを外すと

リュックサックかのタオルを取り出して

また変わりに首に巻きつけた

夏美はそのタオルを目にして 愕然とする

まさに それは

ふしぎな予知夢の中に出てきた

黒地に金色の蛇のイラストが入った

不気味なタオルだったからだ

 

「その蛇の黒タオル

どうしたの

まさか龍さんが買ったんじゃないよね」

 

「あ

これ

配達ミスかも

最初 マリアのとこに届いたんだって

 

「雨道 武」って差出人の名前があっただけで

あとは 何もなくて品物だけ

全然 心当たりないから

マリア気持ちわるがってたから

そんなら 自分が使ってやるよ

っていって

無理やり 貰ったんだ」

 

 

『大変っ

あの 不思議な予知夢で 運命のスナイーパーが狙っていたのは

私じなくて

もしかして・・・・』

「お願い 龍さん

直ぐに

降りましょう

口で うまく説明できないけど

          いやな 胸騒ぎする」

「いやだなー

幸運を呼び込ような

ラッキーな連絡があったばかりなのに

夏美さん

悪夢でも見たような

急に深刻な顔しちゃって」

「そう

それなのよ 

信じてもらえないかもしれないけど・・・」

「いやだなあー

今日の 夏美さん ほんとに

変だよ

 

夏美さん 変なこと聞くけど

界と上手く いってるの?」

「えっ

・・・・

心配しないで

界とは

普通に 付き合ってるから」

「あっ そう

なら いいんだけど

・・・

ねっ 夏美さん もう一つだけ聞いていいかなぁ」

「何?」

「夏美さん 界との交際以外に

将来の夢とか

目標みたいなもの何か ある」

「どうして そんな質問するの

龍さん 今日はホントにおかしい

そんなことマリアさんに聞くことでしょっ」

「えっ

 

そうかなぁっ

恋人以外の

大切な友達とは そんな話しちゃわるいのかなぁ

それって自分 違うと想う

なぜっ

そんなに シリアスな顔するの

自分は 神様じゃない

悩んで、笑って、恋をする

ただの男だよ

ギリ守らなければいけない時は シリアスになるけど

時にいけない事も 羽目を外す事もある

夏美さん もしかして

純ちゃんみたいに 完璧主義者なの

だったら

夏美さんも純ちゃんもガチで喧嘩しちうよ

それって 知らないうちに人を

傷つけるよ 

きっと」

『・・・私って 

完璧主義者なの

そんなこと言われた事なかった

でも 高校の時 自分の主義に反する奴ら

徹底的にぶっ飛ばしたかも・・・

せっかく龍さんの大切な友達になれたのに

嫌われたくない

ここは 無理して嘘 押し通すしかないかなぁ』

龍の予想外の指摘に夏美は 焦って答えた

「私 今のところ 界のことで頭いっぱいだし

ほかの事 考えられないし

将来の夢なんて 全然まだなの

それに

それに・・・

龍さんみたいに頭よくないし

金もないし」

「夏美さんは 夢よりお金の方が大事なんだぁ」

「そんなこと 言ってないしっ」

「ごめん 言い過ぎた

・・・・

誰にも言えなかった

自分の本との気持ち聞いてくれる」

『龍 何言い出すつもり?』

「自分は ここ最近 得体の知れない

吐き気や 頭痛に襲われることが多くなったんだ

病院に行って 検査してもらったら

脳に小さな影があるって 結果だった

それで再検査するようにって言われてるんだ

自分は 再検査が

怖くて

こんな意気地なし だったかと思うと 情けなくて

・・・

マリアの気持ちも確かめないで

無理やり告白したんだ

で 今後悔してる

もしかしたらマリアを心配させるだけかもしれないって

手遅れにならない内に

マリアと別れるつもりた゛

その後 再検査行くつもりなんだ」

 

夏美は 行き成り龍の横面を引っ叩いた

 

最低っー

みそこなったよ

龍 そんなことでいいの

苦しい時、痛みを分け合うのが

恋人じゃないの?」

 

「ああっ ・・・・・」

龍は 大きく夏美に頷き

肩を揺らして泣き出した

 

「夏美

ありがとう

勇気だして再検査に行くよ

その結果がどうであれ マリアに伝えるつもりだ

だから

それまで内緒してくれないか」

「約束するよ

何が あっても命に変えて

 

龍 無茶しちゃ行けないよ

判んないけど

前向きに考えて

最悪でも 手術で何とかなるかも

あぁー もう

とにかく 下に降りようよ 

 

私も 長い間ここで 話していたから

気持ち悪くなってきた

頭 クラクラする 」

「えっ

マジで

それは大変っ

夏美さんから 先 降りて

LINEで下の純ちゃんに連絡して、また支えてもらうといいよ

自分はリュックサックの小物とか あるし

後片付けしてから 降りるから」

「わかった

じゃ 気おつけてねっ」

夏美は

時間が早戻しボタンで 逆流するかのように

 心残り抱えたまま

三連はしごと屋根の掛け口まで戻った

その運命の分岐点で

足を脚立に掛けながら

下の様子を見ないで

龍の様子だけを気にした。

 

夏美に見えたのは 

立派な人じゃなくて

誠実な人でもない

最愛の人との恋に 悩む

ただの 男だった

 

しかし 油断は 

人生を一瞬の内に 容赦なく奈落の底に突き落とすものだ

それは恋人達でさえ例外ではない

 

長時間夏美と会話していた龍の体は

気づかない内に、汗の発汗作用が間に合わない程に

危険な状態になっていた、

つまり

熱中症状態に陥っていた 

龍は立ち上がろうとして、中腰になったが

なぜか、雲の上を 歩いているような、

足の裏の感覚が麻痺して

神経が足元まで上手く伝わせないような違和感を覚えた

それは 

友達になってくれた夏美の平手打ちで

心が高揚しているせいだと龍は自分に言い聞かせた

しかし

足裏の感覚は 瞬時に頭の天辺まで上昇して

呼吸は乱れ

激しい目眩を引き起こさせた

龍は頭の中で

衝突寸前の急ブレーキのような不快音が鳴り響き

バランスを失い

忽ち足の踏ん張りが効かなくなって、すっぽ抜け

膝を激しく屋根に突いて、転げ落ち始めた

龍の履いていた運動靴が

すっぽ抜け 空中に舞

龍の体りよ先に こまのように回転しながら

夏美の目の前を落ちて、地面に叩きつけられた

転がる途中で意識が 回復した

灼熱の太陽の熱を吸収してホットプレート状態の屋根に

それでも 龍は 体を擦り付けて 落下をくい止めようとした

「龍っー」

反射神経よりも速く龍への想いで 夏美は落下する龍の左手首を掴んだが

瞬間

龍の体重と落下重力で

夏美の腕が引き千切れそうな加重が掴んだ手に集中して

三連はしごが強い衝撃で傾斜し始めた

龍は夏美の掴ん左手のお陰で

反対側の右手を使って自力で屋根の端の突起した縁にしがみついてが 

下の支えが居ない三連はしごは 反動で横滑りして、今にも夏美の体ごと

地面に叩きつけようとしていた

運命の瞬間に龍は叫んだ

 

「 離せっ 夏美ー」

 

「いやっ 」

 

龍は 夏美の手を解き

地面にまっ逆さまになって 叩きつけるられることを

選んだ

夏美は どんなに見たくなくても 

命への尊厳で

目をつぶることが

許されなかった

地面に最初に見えたものは 先に落ちた龍のシュースだ

間違いなく 近くに龍の姿が見えるはずだ

夏美は怖くて

視線を移すことができない

 

衝突の一瞬

人は血を流さない

体の組織にダメージが伝わって、

皮膚の破損部から血管を流れる血が

吹き上げるまでには 

僅かな間がある

夏美は 屋根の上の ままの龍を発見

刹那の恐怖で

目を閉じる

「龍っー」

叫んで 目を開けた次の一瞬

龍の額から一筋の血が流れ落ち

次々に血の川を幾筋も作って

忽ち

地面を真っ赤に染めてしまった

 

夏美が龍の変わり果てた体に駆け寄ろうするより素早く

施設の奥から 異変に気づいた 純が

鬼のような形相で 叫びながら龍の体を抱きしめ

胸に顔あて 龍の心音を確かめた

 

「龍

龍 死なないで

お願い

神様 龍を助けてください」

二度と開けない眼差しの龍の顔に擦り寄り

純の大粒の涙までが 赤く染まる

もう一度龍を 抱きかかえようとした時

純が夏美を撥ね退け 龍の体を奪い返した

「夏美 

近づかないでっー

龍を

どうして熱中症になるまで屋根上に引き止めたの」

返り血が滴り落ちる左手を広げて

夏美の思いを止めた

「皆 あんたの性よ

 

恋人の浮気なんて 自分の問題じゃない

それを純情な健まで巻き込もうとした

だから私 堪らなくなって

あんたなんかの恋人の監視役 引き受けてしまった

それなのに

私の人生を支えてくれた

龍まで巻き込むなんて

 

男の誠意と生理の区別が判らないあんたなんかに

恋をする資格はないよ

 

あんたは 人殺しよ

 

龍の命を返して」

「違うの

・・・誤解よ

龍さんは・・・でも

言えない」

その時 呼び出された健の車が猛スピードで近づき 

施設の玄関先に砂埃をあげて急停車した

血だらけになって横たわる男と純を 見て

健は 野獣のように牙を剥いて襲い掛かる姿勢で

純を怒鳴りつけた

「バカヤロウ こんな時に何喧嘩してんだ

脈は確認したのか」

 

「健 

救急・・・救急車

早く

お願い お願いよっ」

 

「憎い 憎い 憎い

何よ その男 あんたの恋人なら

なぜ 病気の龍を ひとり屋根にあがらしたの

健が 上って直してやればいいんじゃないの

なぜ あんたにも 恋人のマリアにも

言えない悩みを 私なんかに言うの

皆 都合良過ぎるんじゃない

龍のホントの気持ちも わかってやれないくせに

いいわ あんたの言うとおり 龍の悪女になってやる

恋がこんなに報われないことなら

私は 二度と人を好きになったりしない」