直美の願い

「 実は 俺と妹の直美は血はつながっていますが

母親が違うんですよっ

俺の母は生粋の日本人だけれど

直美はハーフなんです

気づきませんでしたか ?

「あぁー

そうですねっ

言われてみれば

そんな感じもします

兄弟なのに随分顔立ちが違うかーなぁと・・・

まあ・・ひそかに思ったりしてました。」

「そっかぁー

じゃ

ぶっちゃけ

話が 少し細かくなるけと゜

大切なんで、話し聞いてくれる?

妹はハーフでもアメリカ系の

南の島国

あの フィリピン人の母との間に生まされちゃたんですょ

・・・その・・・

ですから

母親自身もフィリピンでは

上手く言えないけど

その 所謂

異邦人の立場で

直美の母は

の街で働く女でした。

その

所謂・・水商売の女でした

母親は直美を生んで

直ぐに半年もたたないうちに

別の男をつくり

失踪してしまったと母親から聞かされて

俺は育ちました。

 

父は女のこととなると異常にだらしなくなる人で

その他の人との付き合いは とても温厚で紳士的な人だと

母親は折に付け俺に言いくるめていました。

母親は父親を恨んでいましたが

それは父親の性格が原因だと思っていました

そんな父が妹をひきとったお陰で

もちろんでしょうが?

私の母からも直美は

陰湿な虐め受け続けました

俺はそんな両親に失望して

とうとう家を出て暴走族の仲間に加わったんです

半年も家を空けると

やっぱり残していった妹のことが気になり

とうとう家にもどりました。」

「あぁー それであんな大きなバイクに乗っていたですか」

「えぇ まあそうです

家に帰ると妹に対する虐めはますますエスカレートして

暴力と虐めで妹は大変な状態でした

母は直美に子供としての躾を

全く与えず

恐怖の放任を与えました

つまり

直美がどんなに悪いことしても

叱らないで甘やかしたのです

逆に後片付けとか まともな事した時は

平手打ちで頭からつま先までを

容赦なく力任せに妹を叩き

「そんなことしている時間があったら

勉強しろと」

叱りました

直美は最後には何をしたらいいかは

自分の頭で考えることができなくなり

暫くは自分部屋を 散らかして

友達も作らず

徹夜でゲームをする日々を過ごし

大切な成長期に

虚しさしか残らない時を重ねました

当然 直美の心も生活も

乱れて生きる喜びを失う毎日です

妹の辛い立場が

わかりますか?」

と直美の兄は辛そうに話した

「すみません・・

雰囲気は なんとなく判ります・・・」

「なんとなく?

あぁ

ですよねっ

それでも 妹はけな気に

俺にだけには気をゆるして

明るく振舞ったりもしました。

 

 

そのことが ・・・

妹が中一の時に

大変なことになってしまったんです」

「?」

「当時PTA会長だった飯田という男が

ありえないことですが

直美の母の素性を知って

会合の二次会の宴会の席で

他の親に話したらしいんです

そのことが発端で

母のことで 親から事情知ったクラスメートから 酷い虐めを受けました

一人から虐めを受けると

集団心理っやつでしょうかねっ

ぜんぜん妹に関心の無かったクラスメートまで

虐めに加わって

よってたかって妹を虐めたんです

妹は 何も悪くないのに

可哀そうで・・・」

 

と香季は息をつまらせて、両腕を小刻みに震わせながら

話を続けた。

哲は飯田の名前を聞いて

愕然として

香季の話が 突然頭に入らなくなった

愛華や轟にも言えない

瞳と瞳の父のことが哲の平常心を激しく乱した

たまらず哲は席を立つための手段をとった

「すみません

話の途中ですが

トイレに行って来ていいですか?」

「どうぞっ」

哲は 少し時間を稼いで

冷静になろうとした。

最後まで香季の話を聞いて

どうしたらいいか決めようと

当たり前の結論をだしてから

また席に戻って

平然を装って

話のつづきを聞いた

「すみません

話の腰を折っちゃって

「ぇえっ

いいんでよ

それで・・・・?

そんなこともあつて妹は

いろいろと軋轢を経験しながら生活していましたと思います。

妹はそのことで随分と損をしてきたし

悩んだろうと想います

そして

遂に事件は起きました」

「事件?」

「それから

直美は母親との接触を拒否するために

自分の部屋に篭りきりでドアに鍵を内側から掛けてしまい

部屋に出入りできるのは

父親と私だけにしたのです

父親は 直美のことが

それでも可愛いと思うのか?

母親に代わって直美の命を救うために

食事を部屋に運びました

直美 が登校拒否繰り返して三ヶ月過ぎた頃

妹はとうとう自殺未遂を起こしたんです

それは桜の花が咲き始めた頃で

妹が中ニの年になった時です

父親が

いつもの様に食事を運びに部屋にいってドアをノックしても

ぜんぜん応答がないんです

様子伺っていた私は

直美の様子がただならない状態にまで追い詰められていると直感して

ドアを何度もノックして

食事を部屋に運ぼうとしている父に詰め寄りました


(ここからはその時二人の会話)

 

「父さんっ

父さんは いったい何をしてんだ

食事よりも

今の直美に一番必要なものが

判らないか 父さん

直美の気持ちのことを

父さんは 少しでも思いやったことあるの?

俺は

遊びで 生ました子供の責任もとれない

父さんの事が

恥ずかしくて

堪らないょ」

「お前 

直美を遊びで 作ったと本気で思ってるのか?」

「今更 何を 言っての ?

キャバクラの淫売女と遊んで

直美を作ったくせに」

突然 父は 思いっ切り俺の顔面を

力いっぱい生まれて初めて殴りつけた。

鉄拳の衝撃で

唇が裂けて飛び散った血が父親の服にこびりつきました

「くそ親父っ

腰抜けのあんたが

俺を よくも

殴っれたなぁ・・」

 

香季っ

父さんは なっ

お前が 生まれた時

微妙な季節の変わり目の違いを

感じ取れる人間なってほしくて

香季(こうき)と名づけたんだ

人を外見なんかで判断してほしくなかったからだ

父さんは悔しいよっ

お前に 話してない

大事な事がある

一生言わないつもりでいたが

今 気持ちが変わった」

「なんだょ

全然 似合わない

おっかねえ顔して・・」

「香季

俺はキャバクラなんか

生まれてから一度も行ったことはないんだ。」

「何だって

デタラメを言うな

直美の母親はキャバクラのお嬢様じゃないと

言いたいのか??」

「いや

直美の母親 メイは確かに

キャバクラに勤めていたが

俺 が 出逢ったのは

キャバクラなんかじゃなくて

バスターミナルのある万代シィティーの

上階のレインボータワーと野外ステージのある広場なんだ。

終バス待ちらしい酔っ払いが一人

で観覧用の椅子に寝ているだけの閑散としたアーケード型のスティージで

メイは酔っ払いながら大声で歌っていたんだ」

「・・万代シィティーで?」

「ああ そうだ

野外ステージの舞台の一番前

中央階段の左脇のところで座って

舞台から客席に向かって足を投げ出し

足湯を浸かっているようにリラックスした姿勢でね

そう メイは エリックの「change the world」をハスキーにジャズボカール風に歌っていた

俺は彼女に気づかれないように 客席からも大分離れた広場の隅の陰に隠れて

歌い終わるまで聞いていたんだ

暫くするとメイは何と・・・

右手にビールのビン持ち

立ち上がって 行儀悪くラッパ飲みしながら

「神様っー」

叫んでからエリックの「wonderful tonight」 を歌い始めたんだ

歌のさびに差し掛かると

メイの唇が突然止まって

俯いたまま 顔あげなくなったので

どうしのか 気になって抑えきれない気持ちで

隠れて聞いているのを 諦めて

メイの近くまで様子を伺いに近寄ったんだ

するとメイは頬を 濡らして声も出さず 泣いていたのさぁ」

 

「それで?」

 

「メイは

泣き終えると

しばらく俯いたまま両手をだらりと前に放り出して

静止して立っているだけの状態でいたけど

夜風と酔いで体が揺れて

体のバランスさえ取れないくらい

ふらふらになっているのに

こともあろうか

舞台と客席の境界のぎりぎりの所を

目隠しの綱渡り状態の姿勢で歩き出した

 

そして持っていたビールのビンを

思いっきり舞台からレンガ色の床に設置された客席に向かって

蹴ったんだ

 

 


(その時の二人の会話)

「おいっ

お嬢さん

いくら酔っているからって

子供みたいにビンを平気で蹴って

知らない人が後で怪我するような悪戯しちゃ

駄目じゃないか

しかも そのビールは

地酒だぞ 大人のキレ味抜群の辛口ビールだ

もっと上品に行儀よく飲みなっ

まったくどうしょうもない 悪ガキなんだからっ」

 

うるさいーっ

何言ってんの

ワタシは 子供じゃちないよ

わかる

Ladyよ」

「何んだって」

だから

レディーだっばぁ

ほんと

頭くる ジジイね」

 

「おいおい

俺は そんな年じゃないぞ

レディーだったら

酔っ払ってビン蹴りなんかしないよ

もっと上品で優雅に下のバス・ターミナルで

終バスを大人しく待っているものさ

そうだろっ・・・

違うか?      お嬢さんっ」

 

「バーカー」

 

メイはステージの先端のぎりぎりまで

直美の父に近づいて指差しながら怒鳴った

「その お嬢さんっていうの

やめてくんないっ

キモイーんだから」

 

「じゃなんて呼べばいいだい

暗くて

よくわからなかったけど

日本人じゃないよ ね」

「教えてあーげよっかぁ

ワタシはね

メイ っていうの」

「やっぱし

アメリカ人なんだ?」

「Booー 残念でした

ワタシ

フィリッピン人よ」

「へーそうなんだ

でも 悪いけど

とても ネイティーブのフィリピン人に見えないけど?」

「ハハァ 

叔父さん いい感してるね

・・・

 

oh my God

ワタシ 笑っちゃった

そんなつもりで

此処に来たんじゃないよ」

 

 

モウ

ワタシに 近づかないでっ

「お嬢さん

それはないよ

大人の忠告は 

もっと 素直に聞くもんだょ」

「神様はね

ワタシに 素直になれと

言ってないよ」

「何をっ」

そのあと数分二人は

舞台上の上から目線のメイと客席から見あげるように

無言でにらみ合ってたんだけど

メイは視線の呪縛を振りほどいて

「神様

ワタシは 貴方の元に

今 行きます」

呟やきながらステージから飛び降り

膝を突いて出血しながら

不可解にも

ステージ右脇の階段をふらふらしながら駆け上がり

二回のテラスまで行くとベランダをよじ登り始めたんだ

その時 俺の脳裏に電気が走って

男の感てやつでメイは

自殺しようとしているて

気が付いたんだ

全力疾走でベランダまで駆けつけた俺に

「いゃー

こないで」

と 

必死で追い返す

「命を そまつにするなぁー」

「よけいな お世話よ」

「やっぱり お前は 自分の命の大切さも判らない

弱虫のガキだ」

 「クソ ジジイっ」

「何 クソ ジジイっだって

きれたぞっー

お前なぁ

どうせ 飛び降りるなら

万代橋から信濃川に飛び堕ちろ

流されて判らなくなるなら

 そのベランダから 落ちて死んだら

その綺麗な顔が 

ぐちゃぐちゃのクソ ババァーみたいになるんだぞ

スカート 捲れても 全然エロくない

ぶさいくの

売れ残りのグラビア嬢だ

 

「えっー 何て言ったの??」

 

俺の作戦に引っかかったメイは驚いてしまって

顔色を伺うために

ベランダに背を向けた

一瞬の隙に

駆け寄って

力づくで強引に抱き止めることができたんだ

 

それから

倒れ掛かるしかないくらい足元をふら付かせていたメイを

引きずるように抱きかかえ

バスじゃなくて待機していたタクシーに乗せて

メイのアパーまで 送ったんだ

そこは観光ビザで入国したフィリピン人が集団で生活している

アパートだった

なんで 助けたの

またここで 奴らに虐められるのに

あんたは

悪魔ょ」

このままでは メイはまた

自殺すると思い

「言いか

俺の話を 良く聞け

神様なんて 悪いけど

いやしない

自分の運命は

自分で決めるものだ

大人なら

早く 解決策を見つけろ」

と言い残して

携帯 の連絡先を教えてメイの手に無理やり握り締めさせて

「相談したいことがあったら

いつでも連絡してくれ」

と言って別れた


(香季と父の会話に戻り)

「どうせ その後

メイお嬢様目当てに

キャバクラに行ったんだろ」

「いや  一度も行ってない

それに メイからは何の連絡もなかったんだ

一ヶ月過ぎてメイのことが気にならなくなった時

俺が週末の土曜日の夜だけ通うっている

居酒屋「おたふく」に

メイが現われたんだ

どうやらメイは

俺のことが気になって一週間程

会社から帰宅までの道のりを

尾行していたらしいんだ


(その時の香季の父とメイの会話)

「よぉー

元気か?」

「だからっ

爺じゃないって

・・・まあいい

無事でよかった

心配してたんだぞ

立ってないで

俺の隣に座れょ」

「ヘェヘェイっ

ワタシを隣に座らせると

高いよ

ワタシはお店じゃ売り上げナンバーワンなんだからねっ」

「そっかぁ

やっぱりキャバクラに勤めてたんかぁ

よくこの居酒屋にいることが判ったな」

「簡単よ

叔父さんのくれた会社の電話番号から

直接叔父さんに電話を繋げないで

総務の人に 住所を聞いて

叔父さんが帰宅する後 つけたの」

なるほどねっ

・・・飲むだろ?

「少しだけっ」

「嘘つけ・・・

女将 ビール二杯くれ

「何これっ」

「この店の 常連客向けの

お通しの 肉じゃがさぁ

「お通しっ?

量が半端なく多いんだけど・・・」

「まあ いいから

食ってみろ 美味しいだぞ

その前に まずは 乾杯っ」

「うわっー

クールっ

ビール 美味しそうに

一気飲みするね

見直したよ」

「ところで

・・

あの時は・・・

あぁー 俺もバカだなぁ

エリックの歌好きなの?」

 

 

「・・・ああ・・・・

それより この店のお薦めは?」

 

 

「もちろん

わかっているだろ

肉じゃがさ

はははっ」

「マジで ハハぁ

ヤバイっ・・・

 

ねーっ

 

叔父さん 面白い人ね

 

・・・・名前教えてくれる」

「えっ

今頃・・・やっとか

俺 蛍太(けいた)っていうんだ

じゃ・・・いいかなぁ

あの時・・・

なんで歌の途中で泣き出したの?

よかったら話してくれないか」

「あぁー ・・・・

特別よ

訳は

これ」

メイは胸のホケットから写真を一枚とりだした

「エンキョリ 恋愛してたの

でも 浮気されちゃった

あの歌

彼の好きな歌なの

ワカル?」

「そっか 全部いわなくてもいいょ

見かけよりピュワーなハートーなんだ

ごめんね

話かえようかっ

メイは お店の仕事シンドイと違う?

「・・・・ワタシ・・・お店じゃ

いつも一人なの

売り上げはトップでも

皆 ワタシのこと のけ者にするの

わざとシャンパンをドレスに溢したりして

虐め 酷いの」

「そっかぁ

そういう事は 一度ボスに相談してみたら?」

「ボスは売り上げのことだけ考えているような人なんで

無理 無理

それに お客さんとの接待の仕方が悪いって

何言っても ワタシのこと怒ってばかりなの

とても相談なんかできないよ」

「そうだなぁ〜

俺が 思うには

メイの気持ちの問題もあると思う

誰に対してもため口で

いつも上から目線で接していない

日本じゃ そんなの通用しないよ

メイ 仕事って言う字かける」

読めるし

カタカナで書けるよ」

「漢字で 仕事の仕はね

「にんべん」つまり人という字に「士」と書くんだよ

「士」の意味は 学問とか道徳を修めるという意味が込められているんだ

それに もう一つ「さむらい」とか「武士」という意味もあるんだ」

 

「なんかぁ

難しい」

「だよねっ

簡単に言えば その・・・

メイがお客さんに接する時は

売り上げとか 自分の持ち時間とかばかり考えていないで

お客さんから何でもいいから「学ぶ」姿勢があってもいいんじゃない

そう思わない メイ」

「つまり お勉強ってこと

それないよ」

「硬いなぁ もっと柔らかく考えて

いろんな人の生き方なんか 学ぶ つもりで接してごらん

それと ボスを味方につけなきゃだめだよ

武士のように ボスには忠誠を誓ってごらん

ちっと 難しかったかなぁ」

「でもーぅ

さっきも 言ったけど

ボスは

いつも売り上げのことばかり

その他のことは

仕事なんだから そんなことは割り切れって」

「そうなんだぁ

・・・メイ

仕事の意味の続きだけど

日本では

仕事をする人 皆

職種や男も女も関係なく 武士だと思ってごらん

武士が命懸けでまもるのは

「武士道精神」なんだと思う

君主といえども「武士道精神」に反する君主は

忠誠を誓わなくていいんだ

大事なのは 自分が覚悟を決めるだけの

「武士道精神」を持っているかどうかだと俺は思うだ。

そうじゃなきゃ

自分が惨めになるだけだよ

難しいかなぁー

仕事に対する

心の持ち方

つまり プライドってことかなぁ」

 

 

「難しくて

わかんなぃけど

プライドなら 少し・・・

 なんか 少し安心した

と笑顔で答えてくれた

「でも でもっ・・・・

売り上げナンバーワンのプライドって

けっこう

キープするのってキツイしっ

疲れるのよねっ」

「メイ

そこんとこ

もう少し 深く考えてごらん

キャバー嬢の仕事って

何」

「それは もちろんお客さんと

お酒を 飲むこと」

 

「うーむ

正解っ・・・

と 言いたいところだけど・・・・

半分に正解にしておくよ」

「残りの50%は

何?」

「お客さんは ただお酒を飲むために

高い金払ってキャクラに来てないとおもうなぁ

仕事のストレスを発散させたり

心の癒しを求めて来ているんじゃない メイ

それは 売り上げみたいに数字ならないけど・・・

どれだけ お客さんを 癒してあげれたかに

お客さんと 楽しい時間を過ごせたか勝負だと思わないかっ?」

「そんなの やってるよ」

「でも 周りの評価は そうじゃないだろ??

メイがお客さんを 本気で大切にして接客してれば

虐めなんて きっと減ってくるよ

メイ 人はね

皆 違うんだよ

感じ方も 価値観も

だから 一人一人の話を良く聞いて

考えながら接客する事が大事

そうだろっ」

「 そんなこと

やっぱり・・・

メイは 難しいかもっ・・・」

「焦らずに 少しづつだよ メイ」

 

「・・・・うん

でも

ワタシ・・ワタシはねっ

お客さんとの個人的なアフター絶対出来ない人なの

ボスはお客さんに そのこと言って断ると

ものすごく不機嫌な顔して

「メイは接客態度 悪い」って

他の子との話ししながら

遠まわしにワタシを追い込むの

「えっ それは大変だね

ここは 日本なんだから

お店内のゴタゴタは

お客さんに罪はないから注意しなけりゃいけないけど

接客時間以外で メイに個人的な付き合いを求める客に

拒否できるのは

最低限の権利っていうか

そんな やぼなことは 言いたくないけど・・・

・・・つまり

心の問題なんだから

それもプライドなんだと思う

メイが そう決めたなら

現状維持より将来のこと考えた方が

いいかも

自分を大切にしなきゃ 

メイは間違ってないよ

自信もって」

 

メイは蛍太の言葉のおわりを

気にして 

少し間をおいて

緊張した表情してまた話しかけた

「ねっ

ケイタ(蛍太)

また

この店で 

逢ってもいいかなぁ ?」

「ありがとう

マギー メイ 

仕事に負けるな

お前を 応援してやるからな」

メイは この日を境に 悩み事を俺に打ち明けるようになって

いつの間にか

メイとの交際はどんどん深まっていったんだ


(香季と父の会話にもどる)

「それじゃ 普通の恋人同士みたいじゃないか」

「その通りだ」

「インチキだ

父さんは母さんと結婚しているんだぜ

ただの不倫だろうが」

「違う 断じて

不倫なんかじゃない

父さんは メイを本気で愛していたんだ

「また男を作って逃げ出した女なのに

愛して いたって言うのか?」

「実は・・・

その時 お前の母さんとの愛は

終わっていたんだ

お前の母さんは お前を生むと

異常なほどお前の事に掛かりきりになり

私のことは気をつかわなくなってしまったんだ

初めての子供だったので

そんなものかと私は思っていたが

だんだん様子が酷くなってしまって

マタニティーブルーから産後うつになったことに気づいたのは

半年後のことだった

調べてみたらどうやら母さんの母さんも

一人目の子を産むと

産後うつになったらしい

母方の遺伝らしいんだ

父さんは そのことが判って

俺の食事も作らないで

お前の面倒だけを見る

母さんが怖くなって

駅の近くの居酒屋「おたふく」で酒びたりの日々すごすようななったけど

キャバクラは苦手で行ってないんだ」

 

「女好きの親父が キャバクラ行けないなんて

ありか?」

「信じてくれ

私が 女好きだと言っているのは

母さんだけだょ」

「・・・

不倫の都合のいい

いい訳じゃないか」

 

「頼むから

父さんを信じて聞いてくれ

メイは キャバクラでは人気と売り上げナンバーワンのトップだっけど

客とは アフターしなかったんだ

・・・つまり

キャバクラ以外は 全然付き合えなかったらしいんだ

メイは男に潔癖症で 仕事以外に客を寄せ付けないとわかると

周りのキャバ嬢が いっせいにメイを虐めてしまつて

メイは追い詰められて、

とうとう自殺を考えるようになったんだ」

「よせよっ

男に潔癖症のキャバクラ嬢

そのなの 無い 無い」

「いやっ

本当の話だ

父さんは お前の母さんとは離婚したかったけど

お前の将来のことが気になって

できなかった

だから

隠れて メイと二重生活をして

直美を生んだんだ

暫くは それでメイと幸せな生活を過ごせたけれど

また不幸は突然やってきた

メイは私に一言も言わないまま

信じられないことだったけど

睡眠薬を多量に飲んで

眠るように・・・

 

 

 

 

 

 

 

突然

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自殺してしまった

 

 

・・・

 

他の男と失踪したというのは

母さんが言いふらしたことだ」

思いつめたような顔して蛍太は香季の肩に手を掛けて

「香季 そのままここで

少し待っていて 暮れないか・・・

お前に是非とも

見せたいものがあるだ」

蛍太は 脱兎のごとく階段降り、自分の書斎から

一通の手紙らしきものを香季の前に差し出した

それはメイの蛍太宛て遺書だった

メイの自殺の原因は乳癌だった

癌は肺まで転移して 末期癌の様相呈していた

メイは自分の看病で蛍太に迷惑を掛けることを恐れ

自らの命を絶つことを決意したのだった


(メイの遺書)

「愛するケイタ

メイから

ほんとうに とつぜんで ごめんなさい

いま あなたに いちばんつたえたいことは

ありかとう

それしか うかばない

よっぱらって あなたに たすけられた とき

じさつ あきらめなかったの

でも ケイタのことがきになって

さんかげつ ツキアってから じさつするつもりだったの

でも ケイタが

どんどん 好きになってしまって

とうとう ごねんも つづいた

直美まで うませてもらった

ワタシは ないて わらって けんかして

それでも愛するひとの そばで

いきいきと いまを いきたよ

ニホンにきて ごねんかん 神様は ワタシに命をあたえた

でも もう タイムオーバー

ワタシ がん なの

たぶん なおらない

 

もう かんびょうで

めいわく かけたくないから

バイバイするね」


(メイの遺書を読んだ香季に戻る)

「親父

どうして

今頃

そんな大切の遺書を

あぁっ

 

・・もしかして

 

直美も 突然・・・

 

父さん大変だ

直美の食事は

今日から俺が運ぶ

いいだろう」

「ああ

そうしてくれ

直美が 信用しているのはお前だけだからな

直美は・・

自分の人生を まだ

何も生きていない

自分がヒーローになる夢中なれるものを

自分の手で探し出す

まで

あの子を 守ってくれないか

 

「親父っ 」

 

そういい残して父親は

自分の部屋に戻りました

 

それから私は 

親父の後姿に

初めて頭を下げて

すぐさま

何度も何度も妹の部屋のドア

また叩き続けました

 

この時

偶然にも愛華を生んだ母親の症状と同じ

DNAが巻き起こす負の連鎖

愛情への恨みとなって

直美から

愛華へと

引き継がれていく

ことなど香季は気づくよしもなかった

 

「直美

どうしたんだ

開けてくれ」

「・・・」

さらに何度もドアを激しく叩いて

呼びかけても反応がなかった。

父に反発していた香季(こうき)は、直美が登校拒否しだした時から

こんな事態を予想して父の隙をみて

こっそり直美の部屋の合鍵を作っていた

迷わずドアを合い鍵で開放すると

目が痛くなるほどの

鮮やかなピンクで塗りつぶされた部屋の

窓のカーテンを開けて

差し込む月明かりの中

直美が窓越しに据付られた机に額をべったりつけて蹲っていた。

「おい

直美っ」

香季は直美の肩を鷲掴みにすると

机うつ伏せになっている直美の上半身を持ち上げた

すると顔と机の間に折りたたまれた左手から鮮血が机に滴り落ちた

「な 

直美

しっかりしろっ」

香季はとっさの判断で持っていた自分のハンカチーフで鋏でリストカットされた左手首を

巻きつけて止血した。

直美は薄目を開けて意識を取り戻した

「兄ちゃん

・・・・」

「良かった

間に合ったか

直美っ

何てことするんだ

なぜ

こんなことする前に

 

一言 俺に 打ち明けてくれないんだっ」

「何を 偉そうなこと言えるの

私を 置いて逃げ出したくせにっ」

 

「兄ちゃんは それ言われると

一番よわい

 

ほんとに 悪かったな

 

もう

お前を 見捨てたりしないよ」

 

「嘘っだぁ

それなっしょ

兄ちゃん 父さんと同じよ

私わかるもんっ

利口な兄ちゃんは 先のこと読めるから

家と自分の将来が心配になって帰ってきただけ

しょせん母さんの血がながれている

子でしょ

私のことなんか

ほんとは

どうでも

いいつしょ」

「直美のバカっ

兄ちゃんが

どんな思いで家出した時も直美のこと心配していたのか

判らないのか?

どうでもいいわけ

ないだろっ

「駄目 駄目

私 騙されないよ

心の底では

私のこと

邪魔になっているでしょ

 

だって兄ちゃんは

紫空連合の頭だもんね

リーダーの妹が

弱ちぃ登校拒否の娘だなんて

超カッコワリィーし

兄ちゃんの威厳が傷つくとちゃうの?」

 

「何もわかってないな

兄ちゃんが 暴走族の頭になってしまったのは

母さんが直美のことで

酷い仕打ちしているのに父さんが何も言わないし

俺は そんな父さん達が

許せなかったんだ

心の中では 直美に辛く当たる母さんを

ひっ叩ていも怒る

親父の姿を求めていたんだ

俺は

不がい無い親父が

憎かった

だから

暴走族に入ってしまったけど

直美が 立ち直って幸せになって欲しいと願わない日は無いよ 」

「笑わせるわねっ

兄ちゃん

それって

私のことが好きってこと?

私のこと愛しているの?」

「愛してる?

もちろん

妹として愛情を持って接して・・」

「いやっ

そんなんじゃ

いや

男として私のことをマジ愛しているの?」

「直美っ

お前は 

世の中の大切なことが何かまだ

何も知らないからだ

子供のくせに生意気言うなっ」

「何も知らない

そんなに

私のこと バカだと思ってるの?

兄ちゃんを

男として意識しちゃ

世間が許されない ことぐらい

誰からも言われなくても判ってんだからっ

それに私は 子供じゃなくて

もう 女よ」

「女っ

ああ そうだな体だけはな

一人前かもなぁ」

 

「いやだぁー

誰にも言ってないのに

どうして判ったの?」

「お前

まさか

そんな大事なこと

母さんにも 言ってないのか」

「言うわけないっしょ

あんな 鬼婆に

赤飯炊いてもらったら 最悪だしっ

それより

兄ちゃんは何でわかったの?」

「お前が 髪を薄く茶髪に染めたからだ」

「さすが親父の血ね

細かいっね」

「やめろっ

二度と

親父と俺を いっしょにするな

 

可哀そうに

虐めで心がずたずたになっているから

そんなこと考えるんだ・・・」

直美はよろめきながら

残っている力を全部出し切って

香気の体を跳ね除けて

心の距離をあけた

 

 

「兄ちゃん

理屈は

やめて

私の

ぼろぼろになってしまった感情はどうなるの?

証拠をみせてょ

もしもほんとうに

わたしに愛情があるなら

その証拠

今すぐ見せて

じゃなきゃ

私 この場で死でやるから

直美はまた鋏みを持ち出して

リストカットしようとした

「直美

よせっ

もしも

本当に兄ちゃんが信じられないなら

その鋏みを兄ちゃんに向かって

投げろ」

そんなこと出来る分けないしょ

香気はその言葉で まだ直美は人間を諦めていないと感じた

「直美っ

もう一度言う

 

 

証拠を見せろっ

 

兄ちゃんを

 

ほんとに愛しているなら

その鋏みを 投げろ」

 

「兄ちゃんの

バカっ」

泣きながら直美はとうとう目をつぶって

鋏みを香季に向かって投げつけた

鋏みは香気の額をかすって床に落ちた

香気の額からやがて

ひとすじ鮮血が 床に滴った

「兄ちゃん

 

 

 

 

ごめんなさい

兄ちゃんが

好き

この私の命より好き

私のために

死なないで

兄ちゃんが 居なくなってから

直美はほんとの一人ぼっちなってしまった

夜が 怖くて全然寝れないの

どんだけ辛いかったか

さびしかったょ

「すまんっ

直美

もういいんだ

・・・・

二度とお前を置き去りにしないから

死のうなんて

想うな

ここで 朝が来るまで泣き濡れているわけにかん

この家から

今すぐ出よう

兄ちゃんは お前より五歳も年上だ

世間事は お前より良く知っている

お前を 守ってやるから

何もかも手遅れになるまえに

母さんの纏わり付いた柵を捨てて

ここから

逃げるんだ

いいねっ

直美」

直美は香季をきつく抱きしめ

服を濡らしながら

頷いた。

「それじゃ

とりあえず今夜は

紫空連合の今の頭の

遊兎のアジトに泊まることにするから

付いて追いで」

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第2話 危険な男