第4話 地下の隠れ家

愛華が誘った場所は Dream Boxの舞台の上だった

「愛華こんな所に俺たちを 連れてきて どうするきだ?」

「慌てないで

ほら

あそこに

秘密の地下室の入り口があるの

付いてきてっ」

「地下室っ?」

「そう

秘密の地下室なの

今のところ私以外

誰も知らないわ」

愛華が指差した方向に行くと

舞台の袖の隅の床付近に、

床の色に溶け込んだ 目立たない

地下に降りる為の取り付け金具を

目を凝らしながら

轟は発見することができた

愛華は

シャッターを下ろす時に使うような鉄製のL字型の長い棒で

扉をこじ開けて

闇の中に 引き込まれるように螺旋階段を伝って

慣れた身のこなしで 素早く地下室に駆け下りた。

轟は愛華の後を追って

螺旋階段を

靴裏と階段の摩擦で生じる金属音を響かせながら

けたたましく降りて

最後の三段は 勢いを付けて飛び降りた。

降りて見ると

愛華が わざと照明をつけずに

くすくすと笑っていた

「何よ

轟君の降り方

よく螺旋階段から 足踏み外さなかったねっ」 

「かったるくて

階段とか 降りるの

俺 嫌いだぜ

それより

何で 愛華

照明つけないんだ

「階段の降り方って

その人の性格が滲み出るものなのよ

気づかれずに轟君のこと観察したかったの・・・

ごめんね

 

 

轟君

上に残っている哲君呼んでっ

じゃー照明付けるわねっ」

「待てよ

愛華 まだだっー

照明付けるなっ

哲とかいう奴の

階段の降り方

見てみようぜ」

轟は 夕暮れの雲の隙間から地上に照らし出す日の光のように

闇の地下室に降り注ぐ舞台から光の帯に向かって怒鳴った

「おーい

哲 何してんだ

早く

降りてこいよ」

哲は 螺旋階段を一段一段踏みしめるように

用心深く降りた。

 

「お前っそういう奴だったのか

真とも過ぎるぜ

そんなんじゃ

俺とライブなんて

とても組めないぜっ」

降り終わった瞬間の愛華が付けた照明の中から

キョトンした顔の哲が浮かび上がった。

哲は 轟と愛華の表情を交互に反復しながら

見つめた

「もしかして 僕が螺旋階段を降りてくる間に

僕という人間の本質が

君とライブを組めない人間だと

決め付けたのか??」

「まぁーな

そんなところだ」

「何だって

よくも

そんなデタラメで

僕の真摯な願いを

決めてくれたな

いったい僕の 何がわかったというんだ

轟君

確かに君の歌は 素晴らしいものがあるけど

人間力は最低だな

もう少し大人になれ

「お前っさぁ

ふざけたこと言うなよ

良く考えてみろ

お前も ただのガキじゃないか

歌を歌うのに 

何で

常識ぶった偽善者の大人達のふりする必要あるんだ

「哲君

違うの

ていうかぁ〜

私が ふざけて

轟君に 哲君の階段下り方で

どうするか決めたらって・・・

 

あっ

愛華  よせっー

 

お前は関係ないっ

 ひこんでろ!

愛華の言葉を力で阻止するように

瞬間的に轟は愛華の肩をついて

壁際まで押しのけた

「轟君

待ってくれ

愛華ちゃんを 僕のせいで傷つけるなょ

歌を歌うには・・・大人である必要なんて

ないさぁ そう思うよ・・・

ただ 親友を選ぶ時は 別だと

 僕は

思う

これからの人生の中で巡り逢える

価値観を共に出来る人の数なんて

たぶん

 限られていると思わないか?

大人としての思慮がなければ

大切なその人を 傷つけてしまうと思う・・・」

 

「青二才

お前 誰か傷つけたのかい?

 

 

 

 

・・・

まあ  いいか?

 

なぁー 哲

お前に 一言いっておく

どんなに真面目に生きている人間にも

人生には魔物が

見逃さずに

お前の進もうとしている道の足元に

落とし穴を作って待ち構えているんだぁー

判るか??

魔物の罠にはまって落とし穴に落ちたとき

地上で手を差し伸べ手くれる人がいても

その人を落とし穴に落としでも

踏み台して 

這い上がれる勇気があるか?」

「勇気??

ふざけんなぁ

そんなこと できるか?」

「じゃ 堕ちたままでいるのか?」

「人を当てにしない

自力で這い上がってみせる」

「・・・・そうかぁ

甘いなぁ

早く帰って寝たほうが いいぜ

夜は その魔物が

うようよしているからな

判るか 坊やっ」

「轟

お前なら どうするんだ」

「いい質問だ

俺なら

善人の自分を踏み台にして

悪人なってでも這い上がるさぁー」

「もういいっ 

二重人格のゴリラ野郎っー

俺は

帰らない 

今 決めた

お前なんかと

組まなくても

一人で ライブやってみせる

「おおー

やっと本気だしたな

いっておくが

奇麗事言うお前も

 影にはもう一人の悪人がいるんだぜっ」

「轟

お前 将来

どんな 人間になるつもりなんだ?」

「まだ そんなこと言ってるのか?

哲 この魔物が住む 

夜の世界を 

この都会のジャングルを

生き抜くには

人間らしい人間である必要なんかないさぁー

動物の本能で敵を倒し

生きる糧を自分のものにすることだ!」

「なぜ

そんなに人間を

割り切って 捨てられる?

教えてくれ

お前にとって

人間ってなんだ

ははぁー

お前 ホントに大馬鹿だなぁ

・・・

いいだろう 教えてやるから

お前のその大事なクラシックギターで

自分の頭を叩いて 壊してみな

できたら・・・

ははぁ

教えてやるよ」

哲は 白目をいっぱいにして

すさまじい眼力で

轟を睨みつけて

次の瞬間

肩に担いでいたクラシックギターを丁寧カバーから取り出して

裸で冷たい滝の水を浴びる時の形相で

愛着のある傷だらけのギターを

自分の頭にいきよい良く

ぶつけた

一回目でギターは軋み

鈍くで 不快な音をたてたが 壊れなかった

哲の額から薄っすらと血のりが流れた

二回目で また頭にギターをぶつけようとした時

よせっー

 

 

・・・・

俺が悪かった

俺も 本当は

人間ってなんなのか

判らないだ

いっしょに

答えを

探さないか  ?」

哲は 顔を轟から背けて

拳を握り締めた

その時 哲の脳裏に

瞳が夜の街を

徘徊する姿が横切った

いやな間を

逃げ出すように

哲は 轟に頷いて

救いを求めた。

 

様子見て

使命感を感じ取った愛華が

 二人の間に入り込んだ

「あ〜 よかった

これで

・・・・・・」

 

愛華は轟と哲の手を取ってそれに自分の手を添えて

正三角形の中心の位置に三人の手が重なり合うように握手させた。

「・・・・  今日から私達三人は 友達ねっ

 

あぁー

煮え切らない顔してるしっ・・

もうっ

 

轟君っ

思い出してよっ??

貴方が生まれた時は

さぁっ

何にも判んない

四つん這いで歩く動物

生きていくのに手間のかかる

その厄介な

動物を

笑って

泣いて

愛することを覚えてさせたのも

育ててくれたのも

人だしっ

貴方を どうしようもない世の中の悪童にしたのも

人なんじゃない??

でも

貴方のこれからを 輝かせてくれるのも

しか いないんじゃん

違う??

 

哲君のように

上手く 言えないけどーぉ

貴方を 未来を 支えてくれるのは

人だけと

私 思う?

人は 一人ぼっちじゃ

さぁっ

何ていうか

その

生きていく為の

絶対 

絶対

譲れない

プライドみたいなものも・・・

結局は

見つけられないかもっ・・?

だから

いつも心は 満たされないかもって思う

ほんとは

寂しがり屋の

ヨワッチイ

ただの動物なんじゃないかなぁ〜??

貴方の

怒りも

悔しさも

人に 伝えなきゃ

意味無いしっ

早く 気づいてっばぁ〜

私達ってさぁ

永遠の命 貰ってないんだからって 思わない?

 

「愛華どうしたんだ

今日のお前

ホントに 変だぜっ

いつも AKB48のセンターで歌ってみたいと考える

妄想少女なのに

お前らしくない

こと

言うなぁ・・・」

二人のやり取りに

たまらず哲が口を挟んだ

 

「愛華ちゃん

とてもクールな思いあるんだね」

 

轟は 深くため息を付くと

「いいだろう

 愛華

三人で やっていこう」

三人の握手の温もりが心に伝わる

より早く

愛華は三人を結びつけたことに

屈託の無い笑みを漏らし

 

「よしっ」

小さな右拳を 振りかざして ガッツポーズを決めた

反転して二人に脊を向けた愛華は

「きっと きっと

私は 今日の日は

 忘れないように

これから

同じ夢を 見るわ」

呟いた

この時の愛華には

 

哲を仲間として受けいれたことの運命の悪の報酬など

気が付くはずもなかった。

「ところで・・・・

 

私は パーカッションを担当したいんだけど

いいかなぁ」

と地下室の換気口の真下のドラムセットを指差した。

初めて回りを見回す余裕を取り戻した轟は

首を120度くら回転させて

「なんだー

この部屋 まるでスタジオじゃないか?」

轟は電子ピアノやギターが並ぶ部屋の様子を伺った

「すげーな

お前の 親父さんが 作ったのか この部屋?」

「あーっ それはねっ

ちっと 秘密なの

いつか 話できると思うの」

愛華は いつもの通り 此処で都合のいい嘘を付こうともったが

なぜか

それは できずに

轟に自分が苦しんでいるとはっきり悟られる

ぎこちない、いい訳して切り抜けようとした

「なにっ

てっことは・・・・違うのか

まあ いいさぁ

お前にも・・・言えない事は

あるだろからなぁ

 

・・・・

それより

なぁ 哲

やろうぜ

この部屋があれば 自由に音楽活動が出来るぜ

何で もっと早く

ここに 連れてこなかったんだ

「あ ぁっ それも ひ み つ

愛華は 強引な轟が秘密を受け入れてくれたことが

嬉しくて

照れながら

俯いて

咳き込むように笑いを堪えた。

 「コイツ」

轟は厭きれた顔で 愛華の額を

優しく軽く突付いて

この日初めて微笑んだ

 

この日を境に 轟と哲は

フォークギターとクラシックギターの編成で

愛華は脇役で 歌わずにボンゴを叩いて

独特の音色出す路上ライブを毎週末に繰り広げた

いつしか地下街の出会いの広場付近は

このライブを目当ての人だかりが、できるようになった。

 

第5話 運命の別れめ

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