第2話 愛華と轟

裸電球に照らし出された調理場の空気は

薄汚れたガスコンロの上に置き去りになった中華鍋から

醤油とニンニクの匂いが漂い

蒸し暑さを 醸し出していた

南十字星の親父は、小刻みに首を左右に振って周りを確認してから

二個ある裸電球のうちの一個を消して周りを薄暗くした。

片方だけになった裸電球に親父の頭が触れて

バランスを失った電球は揺ら揺らと揺れる。

揺れる照明のせいで周りの景色のほうが、揺れているような錯覚を覚える

その動揺が俺の心に伝染して、不安と疲労で

めまいを感じた。

そのめまいを止めたのは、南十字星の日に焼けた浅黒い両手だった

親父は俺の両腕を強く握り締めて

涙声のか細い声で

「武君

どうか

許して欲しい

・・・」

「えっ

何が?」

 

 

実は

轟君が あんな風になっちまったのは

孫娘の愛華のせいなんだ」

これからわしが君に言うことは

実に信じがたいことだけど

全ては このノートの中に克明に書き綴ってあるんだ」

 

そう言って南十字星の店主は紅色に黒のマジックのスミレの花のイラストで縁取られた

日記帳をおもむろに手提げバッグから取り出し

見開きに 中の内容がとても読み取れないスピードで

ぱらぱらと捲って俺に見せ付けた。

 

「 この日記は紛れも無く愛華の手書きで

愛華が感じたありままの世界が書いてある

轟君に自らたのんで催眠誘導掛けてもらい現実逃避した世界観が

書かれているが

日記の最初の日付は 瞳さんが失踪したひと同じになっている

たぶん

・・・書いている時は 催眠から覚めて自分を取り戻した時のものだと思うんじゃ」

南十字星の店主は 日記帳をまたもや 激しく捲っりながら

話を続けた。

 

 

「 最初のぺーじには

轟君との馴れ初めからじゃ

轟君はブラジル生まれの日系ハーフで、親父さんがブラジル人なんだ

会社の役員をしていた親父さんの会社が不景気で倒産してしまい、

生活が一変してどん底生活の毎日おくることになっちまつたんじゃよ

それで・・・よくあることかもしんねいけど

絶えられなくなった轟君のお袋さんが離婚して轟君を引き連れてとうとう帰国してしまったんだ。

帰国子女として途中編入した轟君は肌の色のせいで

クラスメイトからいじめや

靴底の画鋲を敷くような嫌がらせをうけていたんだ。

そんな轟君と愛華が知り合ったのは

地下街での路上ライブが切っ掛けだった

轟君はいじめのストレスから逃れるために

毎日のように夜な夜な絽路上でギター自作弾き語りをしていたんだ」

 

「嘘だろー

轟がギターを弾くだって??」

 

「ああ見えて、轟君の歌声は かなりソールフルで

Dream Boxで轟君の歌を わしも直に聞いているじゃ

そんな轟君の歌を

友達といっしょにライブを聞いた歌好きの愛華は

そうとうな衝撃をうけて

学校を終えるとほぼ毎日ように轟のライブを聞きに行くようになったんだ。

そして二人は声を交わし 交際するようになったんじゃ

愛華が中学3になったばかりの頃だった

その日は 轟君とローサーでデートーする予定だったので

かなり慌てていて、階段の電球が切れて暗くなっていたのに駆け足で

降りようして足を滑らせ

転がり落ちて頭を強く打ち意識不明になってしまったんだ

それは正に 予期せぬ突然の不幸来襲だったんじゃよ

愛華は 2日間眠り続け、

目覚めた時には なんと轟と深い中にあったという認識だけを微かに残して

交際のほとんどの記憶をうしなっていたんだょ

 

この話を聞いて

武君 何かきがつかないかね?」

 

「あーぁ それってマジで瞳が記憶をなくした話に雰囲気似ているじゃん

それに・・今の真由美の状況にも似ている」

「そうた゜ろ

実は 瞳ちゃと愛華はこの頃繋がっていたんだ

無くしたのは記憶だけでなく

聴力のほうも問題をおこして轟君の歌もきけなくなって

そうとうのショックうけてから

引き籠りになって

やがてクラスメイトからいじめをうけるようになり

愛華は

・・・

かわいそうに」

浜茶の親父は隠しきれない動揺で

小刻みに右手を震わせ

それを左手で無意識に隠そうとしている

「愛華は

愛華は その時から

 

・・人間性まで失ってしまったんだょ ああぁー武君

そんな心的外傷障害状態の愛華を支えたのは轟君なんだ

それが切っ掛けで二人の絆は加速して深まったんじゃ

とんでもないことに・・・

幸せな人間を逆恨みするようになった愛華が

瞳ちゃんに近づき

何をしたかわ 良くわからないが

何かしら背筋が寒くなるようなことが起こったに違いないと思う」

「親父さん・・

つまり

なんだ

瞳がこんな状態になったのは

愛華のせいだと

言いたいのか???」

「わからない

・・・

愛華の性格が変わる様子を身近に見てきた

 

これはわしの感じゃよ

 

武君」

「何だって

感んで・・・

ただの感で

 なんでそこまで愛華が

今度の騒動の原因ときめつけられるんだ??」

「当然だろうね

まあ

話の続きをきいてくれ

実は この話はもっと昔のことが 原因しているんじゃよ

つまり愛華の母親にまで遡って原因が隠されているじゃ

愛華の母は 気立てのいい大人しい性格の女だったが

難産で帝王切開で愛華を生んでから

産後の日立ちが悪くて体調を崩し

マタニティーブルーから産後うつにかかり

床から起き出して働くようになってからも

気性が一編して今の夫のヒロと喧嘩ばかりするようになったんだ

やがては愛華に母乳を飲ませなくなって

育児放棄までの深刻な事態になったんじゃ

愛華はそのせいで標準以下に

どんどん体重を減らしていったんだ。

夫のヒロは愛華の生命の危険を感じ

とうとう協議離婚で愛華を母親から引き離し

男で一つで育てることになったんじゃよ

発育段階でもこうしたネガティブな環境が少なからず影響を与えたまま愛華は育ったんじゃよ

母の愛情を失い

心と体の深い傷が

多感な思春期に時限爆弾のよう

ちっとした切っ掛けで爆発したと

わしは思うんだ」

身につまされる話しに

俺は生唾を 飲み込んだまま何も言えずに

佇んでいた。

もしかしたら

 

 

記憶喪失後の愛華は

 まるで『悪の華』の花粉を撒き散らすように

轟と連れ立って自分の不幸を

 

恵まれた環境のカップルに

不幸のエキスで汚染しつづけているのかもしれない?

背中に人の気配を感じると

そこには、今の話を立ち聞きしていた様子の瞳がいた。

「武 その話は

ほんとうよ」

俺は瞳の目の奥をみて、

真実の瞳の話を聞き続けようとした。

「私 今

失われた記憶が

はっきり蘇ってきたの

誰も知らないDream Boxの地下で  催眠状態から覚めときには

いつも愛華と轟が私の眠らされていたベットの横に居たの

???

今 思えは 失踪してからずーと

私は 愛華と轟の操り人形だったかもしれない

・・・そう思えて 居たたまれないの

武ぅー」

 

第3話 初めての恋心・・・そして 人生の壁

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 2014年11月9日 日曜日

瞳が失踪したのは、愛華の影響を受けたから?

と告げる浜茶の親父・・

瞳と愛華の間にいったい何があったのか??

真実はますます混乱して武はとまどうのだった

 

ここまで読んでくれてありがとう・★

それでは・・・

読んでくれた貴方に、ときめきの小さな灯りが、悪戯な風に惑わされて、消えないように願っています・・・続く

Hiko・★