第1話 南十字星

『このあと 俺はどうすればいい??』

真っ暗な 歩きにくい砂浜を

意志の力がほとんど抜け出てしまって漬物石のように重たくなった真由美を

背負って南十字星までたどりつくことは

たぶんチョモランマに頂上を目指すくらいハードで希望の見つけにくい行為だと思えてならない

だけど

そんな状況下の中にあって

不謹慎にも なんとこの俺は

真由美の寝汗の匂いと

接触している胸の膨らみの柔らかさに

薄暗く曲がりくねった

急勾配坂道で

どうしても判らなかったあの時の真由美の想いを

やっと今 判ってあげる事が出来た

 

俺は

真由美との大切な時を獲り帰したかった。

置き忘れた素直な異性への憧れを背中から感じながら

だからだろうけど...

足取りがふらつく

あぁー

それは砂地のせいだと必死に自分に言い聞かす

ほんとうに

今の 俺・・・の気持ちは

誰のもの

 

俺の葛藤に気ずいたのか?

俺の顔色など判ろうはずの無い月明かりだけの砂道

女の本能なのか??

時々心配そうに振り返りながら前を歩く瞳

きっと

こんな

不思議で

現実離れしたおかしな夜はもう二度と経験できないだろと思う

まるで雪道のように白い砂地が月明かりの淡い光を反射して、

照明なしでも前進できるが、踏ん張っても力が抜けるような砂に足を取られ

重たくなった真由美を背中にしょった俺は

足取りが進むほどに、ふらつき何度も転びかける

「俺の 人生も

こんなもんさぁ〜」

と瞳に聞こえないように、愚痴る

5分くらい掛け400メートルやっと進んだ時

前に先に進む 瞳が立ち止まった

「武 見て 見て

明かりよ」

それは、疲れ切った魂と肉体の苦痛を

一瞬 忘れさせるほどの幻想的な光景だった

それは旅客機が着陸する為の夜間の飛行場の照明のよに

2メートルぐらいの間隔に整然と列をなした小さな発光体

2本分かれて20メートルほど続いて平行に

海から小高い砂で盛り上がった頂の中心に建つ浜茶屋に向かって光っていた。

「何だろう

あれが南十字星なのかなぁ」

明かり付いているということは営業中ということのはず

なのに

全然 人の気配がない

なんだろう? 

映画のロケ現場に迷い込んだような異次元の雰囲気が漂う

俺は暫く呆然と佇んでいたが

背中の真由美が この時意識が戻り暴れだした。

俺は体の重心のバランスを失って、前のめりに真由美を背負ったまま倒れこんでしまった。

「お客さん

大丈夫かね」

様子を見かねて、南十字星の裏口あたりから

片足を引きずりながら 角刈りした胡麻塩頭に捩じり鉢巻

年配の男が一人駆け寄ってきた

その男の顔には

夜なのに薄めのサングラスをしていた

浜茶屋の夜間照明がその男のサングラスにあたると目線の動きがわかるほど

レンズが透明化して表情が確認できる

『もしかすると・・・偏光サングラスのようなものかもしれない』

照明に浮かび上がった、その容貌はどこかで見たような感覚に襲われる

 

「あんた 誰」

「わしのことか

わしは この南十字星の店長じゃよ

待っていたよ

武君だね」

 

「何で 俺の名前しってるの」

 

「なぜ・・・・

ははぁ

わしは お前さんの知っている愛華の親父の親父

つまり その

なんだ 愛華の叔父だよ」

 

「ええっ  愛華の・・・・〜」

 

「孫娘の愛華に貸切で頼まれて

今日は 店の奥の部屋にこの海で獲れた新鮮な魚の刺身も盛り合わせの夕食を用意してあるから

楽しんでいってくれ」

 

「貸切って

俺そんなお金ないんだけど」

 

「あぁー 心配しなくていいょ

今年のシーズンはもう終わってしまったし

なんだね 昔とちがって今の若い人は 浜茶屋で夏 お金使って過ごすなんてことが

流行らなくってしまったのかね?

人足が さっぱりなんだよ

遊び場が 他に沢山できたのかもね

そんなんで・・・

今夜は 特別に無料にしておくから」

 

「あのっーち 違うんだけど?」

 

「判っているよ

君達 訳ありなんだろ

わしは 野暮なことは 嫌いでね

誰にも言わないから

若い時 思い切り遊ばなくちゃね」

 

「何?

 

遊ぶ?

 

 そんなんじゃないぜっ」

 

この親父は 何か勘違いしているみたいだ。

「俺

これから

大変なことが あるんだ

うまく 説明できないけど・・・」

 

「やっぱり そうかっ

轟との対決があるつて ことだろ」

「ちょっと

ちょっと待って

・・・えぇっ

なんでそんなことまで

親父さんが 知ってるわけ?

いったい 奴と

どんな関係なのさぁ?」

「いいから

その質問に 答えるまえに

背負っているお嬢さんを

そっと安静に寝れる状態にしてから

裏の調理場まで一緒に来てくれ。」

睨むように顔つきを変えて、耳元で小声で瞳に聞こえないように南十字星の親父が囁いた。

俺は言われた通りに、大きなテーブルを一台店の隅にずらして

ぽっかり空いた磯の香りが染み付いた畳のスペース上に真由美を頭を強く打たないように首筋を押さえながら

赤ちゃんを寝かしつけるように、そっと横にした。

「瞳 お前のこと

100%信用したわけじゃないけど・・・

真由美を見守っていてくれないか?」

「たける・・・」

暫く俺の瞳の奥を覗き込んでから

仕方なく 頷いた。

俺は瞳と真由美を残して

一人親父と裏の調理場に向かった

第2話 愛華と轟

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(2014年8月21 木曜日)

親の間違った愛情のせいで

悲劇の青春を過ごさ無ければならないという

共通点を抱える武と瞳は

劇的な出会いによって交際することになる

二人の交際が進む中

瞳の友達になった真由美が

自然な形で武とも関係を深めていく

 

武が瞳と容姿があまりにも似すぎている洋子とその恋人哲に出会ってら

不可解な出来事が二人の周りで展開し始める

そうしたある日 突然瞳は武の前から姿を消すことになる

その反動で、武は瞳の友達の真由美と親密になっていく

真由美を洋子の出るドリーコンサートに誘ってから

真由美と武はお互いのことを 強く意識し始める

一方 失踪した瞳は 

哲との絆を深め 自分を取り戻していく

瞳の父の武に対する激しい憎悪の念を知った瞳は

武の命を救うべく失踪したことを武に告げるのだが

武は運命の騒動に巻き込んでしまった真由美の

魂を元に戻すそうと あえて瞳の父と深く関わる

轟との対決を強行しようとする

たどり着いた対決の地南十字星で武を 待ち受けていたものは?

 

 

 ここまで読んでくれてありがとう・★

それでは・・・

読んでくれた貴方に、ときめきの小さな灯りが、悪戯な風に惑わされて、消えないように願っています・・・続く

Hiko・★